症例検討会
「在宅での褥瘡処置の現状と処置を行う家族の思いを知る」
始めに
在宅の褥瘡をしているといろんなサービスを受けている。その時家族がどう思い受け止めているのか、アンケートを行った。日本褥瘡学会の2014年の調査では、訪問看護では2.61%の褥瘡保有率であったが、係わった訪問看護ステーションでは、21.4%もあり、約10倍の開きがあった。これは、看取りもしていることも関係していると思う。
いろいろなサービスを受けていても、結局は自宅での褥瘡処置が必要で、家族が係わることになる。軟膏が変わっても前のままだったり、何日も処置されていないことが在宅ではある。褥瘡が悪化することもあり、何が原因で褥瘡が悪化し治らないのかについて、7つに分類して調査した。
結局しっかり調査できたのは4例であった。
介護者の問題
介護者の問題として、サービスを入れるといろいろ気を使い、精神的に苦痛である。またおっくうである。褥瘡処置は介護者自身も身体が痛くしっかりできない。
褥瘡は切り傷みたいな物と思っていたので、そのうち治ると思っていた。傷用の薬でなくても、そこにある薬を塗っていてよくならなくても悪くなることはないと思っている。
アクトシンやフィブラストスプレーなど、冷所保存が必要なものでもされていない。また、期限がとっくに切れている古い軟膏を使っている。以前よかった軟膏を、また使いたがる。
コントローラーの使い方が分からず、ベッドがギャッジアップされたままになっている。
コンセントな抜けたままで、体圧分散効果のないまま1週間経ち、褥瘡悪化。
体位変換は毛布を丸めた物をたくさん作ってしているが、むしろ圧迫になっている。
傷の処置をしないだけではなく、陰部洗浄、手洗い、歯磨きもされていなかった。
施設の問題
サービスに行くと褥瘡が悪化して帰ってくる。家でいくらやってもダメ。どうせだから毎日傷の処置をしなくても、週2回ぐらいでもよいだろう。投げやりになっていた。
サービスに行くために、タオル、着替え、処置用具、ノートをそろえなくてはならず、大変だし、お金も掛かる。でも褥瘡が悪化して帰ってくる。
訪問看護ステーションの問題
傷を洗うときのお湯の量、テープの長さ、ガーゼの大きさなどが、同じ訪問看護ステーションなのに、来る人によって全然違う。いいかげんだ。
でも、文句を言えないが、家族はよく見ている。
悪くなって軟膏を変えても、何が悪くて軟膏を変えることになったか分からない。
処置の変更が、医療者間で伝わっておらず、2週間経っても変更が徹底していない。
処置法で陰部洗浄などすると、その時使うおむつの代金が掛かる。ガーゼやおむつなどの用意にお金が掛かる。
対策
処置の統一化を図った:自宅で実際の処置をして同じようにやってくれるよう何回も説明した。パンフレットを作り説明した。しかり、なかなか処置の統一は難しかった。
テープ剥がしに剥離剤を勧めても、お風呂で濡らして剥がすと言うが、こすれてびらんになっていた。
デイサービスで褥瘡を作ってくることへの対応として、施設に出向いて処置を実際おこない統一化を図った。
質疑応答
家族、施設、訪問看護ステーションのいずれにも問題があるようだが、どこが一番問題かとの質問に、全てが問題であるとのこと。家族は施設や訪看に対し気づいていると言いたいが、言えなかった。
うまくいった例はあるのかとの質問に、実は最終的に4例全て治癒した。
介入した例では、処置法のパンフレットを小まめに作りながら行った。
訪問看護では担当者を決めたことで、良くなっているのか悪くなっているのか分かるようになり、悪くなったらすぐに医師に知らせ対応した。また、福祉用具専門相談員とも相談し福祉機器を導入していった。これは重要であった。
金銭的な問題に対し、皆身体障害者手帳を持っていたので、医療保険での処置に変更し、訪問看護が入る回数を多くしたのは良かった。
移動の時にずれていたので、スライディングシートを導入した。エアーマットレスの変更も行った。
車に乗られる方では、自作の移動具を使っていたが、その時ずれがひどく発生していた。車を障害者用に変更する予定にしていたが、脳梗塞を発症し車の運転は止めることになり、褥創も改善した。リフトも限定的な使用であったため、レンタルを止めることで経済的に楽になった。
病院のことしか分からないのだが、聞いていると在宅では暗いことばかりだが、病院と在宅でいい点と悪い点を教えてほしい。
病院では褥瘡を作らない、褥瘡は早く治すという目標がはっきりしており、タイムラグがなく動いていく。在宅では、1~2日の時間は何をやるにも掛かり、進んでいかない。しかし、在宅では、自分はこういうことができるようになりたいという個人の目標がはっきりしていて、気持ちの変化も手に取るように分かる。個別に寄り添え、対応できる。目標に向け、リハビリでも処置でも個別に対応できる。
病院では落ち込みやすいが、在宅では元気になりやすい。
在宅では、医師にいろいろな薬を出してもらっておき、訪問看護師がその中から適切な物を選んで使っていくのが良いのではないか。
それは訪問看護師にはできないし、無理だとのことでした。
ゲンタシン軟膏しか出さない医師がいるが、その場合も、患者を訪問した時写真を撮って小まめに医師に見せて、誘導質問をして薬を出してもらう事もあるとのことでした。
現実的にはどのようにして在宅褥瘡をしているのか。
家族の思いは強く、方法を変える提案をいきなりしても否定されたようでいやがる。毎日話し合い、どう思うのか、どうしたいのかについて話を聞く。
その中で、小さなことを解決していくことで、同じ方向を向くようになり、そうすると傷も治っていく。
例えば、こんな人(褥瘡患者)はイヤと言っている家族に、どうしていやなのかを聞く。手間がかかるというので、どうすれば手間がかからないのかと質問していく中で、これを使えばという提案ができるようになった。
しかし、お金が掛かることなので、風呂へ入るだけの半日デイサービスへ行く。
すると、その間フリーな時間ができ、1日のデイサービスへ行くことになり、余裕ができて明るくなった。
訪問看護も1日だったのが2日になった。さらに医療保険にして費用が安くなった。
夫婦仲も悪かったのが、心の余裕ができてきた。
本人も、入浴に行くことで、他の人と話す楽しみが生まれ、家族が皆楽になった。
訪問看護師はこのようにゆっくりと状況を変えていくことが分かった。医師は提案をもっと早くからやっている。訪問時に、医師、看護師、管理栄養士、理学療法士で訪れ、ケアマネジャーも来てもらう。そこで、まず栄養状態の評価と対策をおこなう。褥瘡では、絶対訪問看護が必要であり、必要な理由を説明して納得されたら、すぐの訪問看護に入ってもらう。
看護師は、患者や家族が何をしたいのか希望を聞くようにし、医師はできるだけシンプルな処置法を提案する。
そもそも、訪問前に看護師と管理栄養士が家族やケアマネジャー、施設など、関与する職種に連絡して情報を集め、大体把握した状態で訪問している。この情報収集が最も重要であった。
訪問看護として、どのような医師がよいか。
リーダーシップより話し合いができる医師がよい。
男性医師、女性医師は関係ない等の意見が出ました。
まとめ
訪問看護師が係わる在宅褥瘡は、苦労が多く大変なことが分かった。しかし、ゆっくりと家族の中に入って信頼関係を作ることを大切にしており、信頼関係ができると褥瘡も治っていくことが分かった。なかなか病院勤務者の方は良く分からない点もあったようだが、病院関係者は、在宅の暗さが印象となったようだが、在宅関係者は暖かさが印象に残った。
病院と在宅の交流の必要性を感じた。
相談タイム
1例目
褥創にゲーベンクリームを使ってるが治らないとの質問がありました。
場所を確認すると、寝たきりで仙骨部の褥瘡であり、骨突出が著明とのことでした。
減った殿筋の代わりに、両臀部にクッションを挿入し、高機能エアーマットレスを使い、体位変換は、エアーマットレスの下に枕を入れてちょっと傾けるだけにしてはとの提案がありました。
2例目
看取りになり手足が冷たくなってきた。ペットボトルアンカを使ったところ、低温やけどになり、まもなく亡くなられた。褥瘡を作らずやってきたのに、最後に痛い思いをさせ申し訳なかった。どうすれば良かったか。
レッグウォーマーを使う程度がよい。自分の体温で温まる程度がよいだろうという意見があった。
電気毛布か電気アンカなどは使えないかとの質問に、汗をかくようで使わなかったとのことでした。
看取りの時期は、水も摂らず、食べ物も摂らない。脱水で臓器も動かなくなっている。手足の血管は収縮し、 能などのチュ新造機のみに血液がゆっくりと流れる。手足が冷たくなるのは、死にゆくときの自然経過の流れである。無理に温め血流が増えれば、却って辛くなる可能性がある。死にゆくときの身体の変化を施設の皆で勉強会をして共有してはどうかとの提案があった。
会場からは賛同の意見が出た。
痛い思いをさせ申し訳なかったとの意見に対し、痛みは感じなかったのではないかとのコメントが出ました。ただし、脳は動いている可能性があり、最後まで話しかけるように家族などに伝えた方がよいとのアドバイスがありました。
本日のまとめ
在宅褥瘡では欠かすことのできない訪問看護師の思いがいっぱい聞けました。これは病院あるいは施設の看護師や特に医師、医療従事者からは理解できない面もあるようでした。もっとこのような話ができるとよいと思いました。
同様に、看取りでは関われば関わるほど悩ましいこともあるようです。今日はいろんな思いが聞ける場となりました。