第82回 「下肢拘縮の考え方と対応法」

2016年1月21日

症例検討会

「除圧が困難な下肢褥瘡2例(エスアイエイド使用)」

<症例呈示>

症例1:

80歳代女性。
左視床出血、右半身完全麻痺、右足褥創、失語あり、視線コミュニケーション多少あり
要介護度5、日常生活自立度C2
身長 152cm、体重25.6kg、BMI 11.0
経口摂取 カロリー 1150kcl、水分 1100ml、蛋白 36g

経過:

1年前多発脳梗塞となり、栄養は胃管カテーテルより、800kcal、水分1200ml、蛋白34.6gとなった。ディスポーザブルのエアーマットレス使用。
結果として先日死亡された。

右足趾に褥創を発症し、全身状態の悪化とともに急激に発症し他の足趾にも拡大した。
ゲーベンクリームとエスアイエイドを使用したが、腱が露出し創面は乾燥してしまった。形成外科医の指示で、ゲーベンクリームの量を増やしたところ創面は湿潤状態になった。
50日後には創面は縮小してきた。63日目に壊死組織のデブリードメントがなされた。
その後ネグミンシュガーへの変更などが行われ、125日目には創面はきれいになったが、第1趾は短縮変形した。創はきれいになったが、患者は全身状態悪化にて死亡した。

第1趾の腱が切れてたれていたことについては、先日の研究会でのアドバイスでテープで持ち上げたところ創はよくなった。また摩擦予防にストッキングを用いた。
下肢拘縮があり、マットレスに突き刺さるようになっていたことが、褥瘡発症の原因と考えられ、ポジショニングなどの工夫を行った。
終末期でも、褥創は良くなり治っていったことから、諦めないことを学んだ。
疑問は、創面の乾燥を防ぐには、エスアイエイドの大きさはどの程度がよく、またゲーベンクリームの量はどれくらいがよいのであろうか。
また、第1趾が半分くらいの長さに変形短縮したが、見ためが悪く予防する方法があれば知りたい。

症例2:

80歳代男性。
4年前に認知症になった。
1年前にくも膜下出血を発症した方で、持ち込み褥創である。右足踵部褥創
要介護度5、日常生活自立度C2
身長 157cm、体重 43.1kg、BMI 17.5
摂取栄養 1000kcal、水分10510ml、蛋白 39.2g

経過:

ゲーベンクリームとエスアイエイドが用いられた。
35日目にデブリードメントが行われた
かなり改善し、90日目にアクトシン軟膏に変更となった
169日目からは、局所療法不要となったが、一部痂皮状の乾燥した褥創となっている。
身体の拘縮が強く、左股関節と膝が強く屈曲し内転位。右下肢は進展し内転が強い。
脚がマットレスに突き刺さるため、摩擦予防にストッキングを装着することで、創部のフィルムへのずれが無くなった。
車イス座位になると、筋の緊張が少し取れる。
それぞれの看護師が関わる度に処置法が変わっていたが、形成外科医が関わり指示を出してもらうようになってから、処置法が一定になったことはよかった。
また、委員会で報告するようになってから、皆で良くなっているのか悪くなっているのかが分かるようになり、それで治るようになっていった。

課題として、ポジショニングや除圧法の統一は難しい。写真を撮って示しても統一は困難であった。

症例ディスカッション

2例が話されてからのディスカッションであり、主に症例2についてのディスカッションとなり、振り返れば症例1についての疑問についてはディスカッションがほとんどされなかった。

ポジショニングについて、足底をしっかりと付かせる訓練がよいと聞いている。おむつ換えの時やポジショニングをするときには、膝を立てて足底に体重をかけるようにしてはどうか。これをすると下肢の力が抜けて介護もしやすくなると聞いている。
車イスに乗っているときも、腰の位置が、左右で、前後に捻れていないか、また左右で腸骨の高さが違わないかをチェックし、これらの差がないような位置が安楽であることから、注意してみてはとのアドバイスがあった。

さらに、腰の付け根にしっかりと体重が乗ると、下肢の力が抜けていく。臀部、大腿が浮かないよう、しっかり掛かるようなポジショニングをする。症例2では傷のある下腿部ばかりに注目してポジショニングされているが、ポジショニングは中枢から考えていく。
体重の掛かるべき所に体重をかける。

足に褥創ができると足を浮かそうとするが、足にはストッキングをはかせるだけであまり浮かさなくても良いように思う。足の裏は圧迫に一番強い部分だが、ずれに弱い組織である。したがって踵に傷ができるのは、圧迫ではなくズレであるから。圧迫を減らすことを考えるのではなく、ズレを減らすことを考えた方が良い。
足にストッキングをはかせて摩擦を逃がすことと、ギャッチアップなどをしたとき、必ず足の圧抜きをすることが原則と考えている。

下肢の拘縮についての意見があった
片側のみ屈曲する人はよくみられる。曲がったところにクッションを入れると、むしろどんどん拘縮が強くなる。この方法で治ったのは全く経験しない。
最近は無理に入れず、仰臥位と左右30度の体位変換としている。自然に重力で自分で伸ばしてくれることを期待してやっている。
この方は左完全側臥位が得て体位かもしれない。そのため逆側を向かせると不快で拘縮が進んでいるのかもしれない。
ポジショニングピローが不足しているので、上半身に布団を丸めてU字型にしたものを使い、上半身を安定させると落ち着く例がある。

別の方からも意見があった
拘縮が気になる下肢に目を向けるのではなく、上半身の体幹の捻れを無くす。両肩の線、大転子部の線が水平になり、体幹をまっすぐになるようにする。まず肩甲帯の所からしっかり密着させてあげる。 肩に軟らかくて大きな素材のものを作って安定させる。
肩の後ろまでクッションを密着させる。両上肢をU字クッションに乗せてあげると、上半身の力が抜ける。上半身の筋緊張を緩めてあげると、下半身の筋緊張も取れる。
膝の間ではなく、横に向いた脚を支えるようにクッションで支えてあげると筋緊張が取れる。

筋緊張をとる方法として、骨盤をローリングするように動かしてあげたり、上肢を転がすように動かしてあげることを勧めるとのアドバイスがありました。
また、筋緊張は腹部にもあり、お腹をさすってあげると腹筋の緊張が取れるだけではなく、腸の動きも良くなるとの話があった。

ポジショニングは難しいが、職員がモデルとなり、患者と同じ姿勢を取ってクッションを入れてみて、安楽なクッションの入れ方を検討することが勧められた。

これらの提案に対し、持ち帰ってPTなどと話し合いながら試みるとのことであった。

まとめ

下肢拘縮はよく遭遇するものであり、実はポジショニングが拘縮の原因となり、対策の重要性は十分に理解されるようになってきた。しかし、そうは言っても個々の症例ではどのように対応すればよいのかは、本当に難しい。今回は、ディスカッションの中で、具体的な考え方がかなり明確に示された。後は実際にやってみる中で結果を出していくことだろう。
また、症例提示者においては、皆で話し合うシステムができており、またポジショニングについては病棟職員と理学療法士が一緒になって対策を考えている点が素晴らしいと感じました。