症例検討会(難治褥創3例と便秘等の相談)
「難治褥瘡の3例」
症例1:
70歳代。 日常生活自立度C2、認知高齢者の日常生活自立度Ⅰ
右肺化膿症、肺性胸水、右無気肺で、右胸腔ドレーン挿入し、気管切開されている。
中心静脈栄養にて、フルカリック2号(820Kcal)+生食500ml 抗生剤。
血液データ:TP 5.9, Hb 8.2, CRP 4~7
モルテンのエアーマットレスが導入され、体位変換されている。
意識ははっきりしており、文字盤で会話する。体位変換が不快なためか、動いて枕がむしろ褥瘡にあたっている。
IVH、胸腔ドレーン、膀胱留置カテーテルにて、前病院からの申し送りで「抑制必要」とのことで、上肢は抑制されている。
入所1ヶ月後に、仙骨部と両腸骨部に褥瘡発症し、治らない。
局所療法は、当初のゲーベンクリームから、最近ネグミンシュガーに変更した。ガーゼ処置である。仙骨部の褥創は横方向に長くなっている。
質疑応答
仙骨部は骨突出からみても中心部に発症することが多いが、これは横に線状になっており、おむつが関与しているのではないか。両腸骨部もおむつが関与する場所のようだとの質問がありました。
それに対し、おむつが原因と考え、まずパッドをあて、その上からおむつの端が当たらないようずらして用いているとのことでした。
ガーゼを用いて、その上にパッドをあて、さらにずらすとはいえオムツをあてると、かなり厚くなりこれが圧迫となっている。もし使うとしても薄いガーゼのみとした方が良いとのアドバイスがありました。
さらに、創面は乾燥しており、ネグミンシュガーよりもゲーベンクリームの方が好ましい。また痂皮の切除をした方が良いとの意見に対し、医師は切除を好まないとのことでした。そこで、ゲーベンクリームにし、むしろラップ療法で湿らせて痂皮が軟化したら、ピンセットでつまんで少しずつ壊死組織を除去してはとの意見がありました。
オムツの厚さについての意見が追加され、中心静脈栄養で排便はほとんど無く、尿も留置カテーテルで尿汚染もないとのことだったので、オムツはアウター1枚でよく、褥瘡部をずらして緩くあてることが推奨されました。
中心静脈栄養では、栄養がうまくつかないので、経腸栄養や経口栄養も加えてみてはとの提案がありましたが、院長の同意は難しいとの話しでした。中心静脈栄養を増やす提案がありましたが、血糖値が高くなり難しいとのことでした。
CRPが高値の時は、糖尿病のコントロールが難しくなるとの意見がありました。それに対し、点滴の中に速効型のインスリンを10~20単位入れるとコントロールしやすいとの提案もありました。
体位変換は必要かとの質問があり、この方は自力で身体を動かせるので、必ずしも体位変換はしなくても良いのではとの意見がありました。
症例2:
糖尿病性壊疽で、右膝から下が切断された方の、左踵部に難治性の褥瘡があるとのことでした。インスリン使用でした。
オルセノン軟膏とゲーベンクリームを混合した軟膏を塗布し、ガーゼをあて、ストッキングで固定しているとのことでした。創の中心部には白色壊死があり、創周囲は瘢痕で盛り上がっていました。
エアーマットレスが導入されており、自分で背を上げたり下げたりし、寝返りも出来るとのことでした。
質疑応答
血流障害について質問があり、膝窩動脈は触知するとのことでした。
創面が乾燥しており、ゲーベンクリーム単独の方が良いのではとの意見があり、薄いガーゼのみとし、その上からフィルム材で覆うと良いとの意見がありました。ゲーベンクリームは周囲皮膚が少し浸軟するくらいに多めに使うのがコツと話されました。
症例3:
60歳代男性。浸潤性膀胱癌、慢性腎不全で血液透析。
経口摂取と中心静脈栄養を併用。
仙骨部に浅い褥瘡があり、ネグミンシュガーとガーゼで処置されている。
質疑応答
写真では、ガーゼによる圧迫あとがあり、ガーゼが厚すぎる。薄いガーゼにし、フィルム材で固定することが提案されました。非固着という意味でも、アルケアの「デルマポア」が勧められるとのことでした。ガーゼの値段と遜色はないとの話しでした。
相談タイム
(便と臀部の質問)
相談1 寝たきりの方では便が出にくいが、何か工夫はないか?
排便後のオムツ交換時に、交換前と交換のあとで、腹部をマッサージすると貯まった便が出てきてきやすくなるとの話しがありました。
褥創の処置などで、側臥位にすると便が出てくるが、仰臥位より側臥位の方が便は出やすいのではとさらに質問が出ました。
それに対し、仰臥位は直腸肛門角が鋭角となり、排便しにくい体位であり、また同じ姿勢をしていると腸の動きは悪くなる。褥瘡処置で側臥位にすると、ねじりの動きが入ることや、直腸肛門角が緩くなるなどの効果で、排便するのだろうと説明されました。
そこで、排便する時は仰臥位より側臥位の方が良いのではとの意見が出ました。これについては、各自検討して、その結果はまたこの会で報告してもらいたいということになりました。
相談2 下剤にはグリセリン、レシカル坐剤、シンラックなどや、カマ(蚊酸化マグネシウム)などがあるが、どのように使い分けているのか?
それに対し、便秘には直腸指診をして、直腸に便が詰まっていれば摘便をし、残った便に対し、レシカルボン座薬やグリセリン浣腸を行う。逆に言えば、直腸に全く便を触れないような例では、グリセリン浣腸やレシカル坐剤の適応はない。
シンラックやアローゼン、漢方で麻黄の入った薬などは、大腸の刺激性下剤と呼ばれる。これらの薬が大腸に達すると、大腸粘膜を刺激して腸液を分泌するとともに、大腸を刺激して蠕動を起こさせる。その結果便の水分が増え、蠕動が起こって排便される。これらの薬で、服用後5~10時間後くらいに排便が起こる。人によって違うので、服用後どれくらい後に排便があるかを知ることで、介護現場では排便予定時間から逆算して薬が投与される。便秘の時のみ服用する。毎日服用すると腸管が刺激されなくなることから、薬の量が次第に増量されることとなる。毎日服用するのであれば、この後に説明する塩類下剤にする。
それに対し、過酸化マグネシウムなどは塩類下剤と呼ばれ、食物線維と同じ働きがあり、便から水分が吸収されるのを防いで便の水分量を増やし、ひいては便量も増やす作用がある。便量が増えることで大腸が刺激されて蠕動が起こり水分の多い便が排出される。薬の効果は服用後1~3日後に最大となることから、以下の点に注意する。便秘だからと飲んでもすぐには効かない。逆に下痢になったからと服用を中止すると、そのあとで便秘になる。服薬の変更は急激に行わず、毎日一定量を服用することがこの薬の特徴である。
何れにしても、便秘には水分摂取が重要で、水分が足りない時に下剤を使うと、より脱水がひどくなる。脱水状態での下剤使用は禁忌である。また当然脱水状態下での下剤はすぐに効かなくなる。
以上のことが話された。
相談3 摘便はどこまでやればよいの
肛門から届く範囲の便が無くなるまで行うとの意見がありました。そのあとで坐剤を使って残りを出すとのことでした。また、肛門などを指で刺激することで、蠕動が起これば、摘便しなくても排便できる。人それぞれでどれだけ摘便すればよいかが異なるとの意見が出ました。
他に、まず指1本で肛門の周囲をマッサージして出る力のある方はそれで出せる。それでダメだったら指2本で摘便するとのことでした。
ここで会場に対し、指1本で摘便するか、2本で摘便するかとの質問がされました。8割の方は指1本で、2割弱の方は指2本とのことでした。
会場はざわめき、いろいろな話が出ました。1本の方は、摘便は難しく、やっているうちに血が出てくるとのことでした。2本の方は、2本以外考えられないとの意見で、2本でなければ摘便は出来ないと言い切る方もいました。会場の雰囲気として、これからは指2本でやろうという感じになりました。
相談4 5月からデイサービスに務め始めたが、お尻がダブダブで両方のお尻があたるところにかぶれが出来た方が何人もいる。どうすればよいか?
1日1回はシャワーできれいに洗うことを勧める方がいました。また、吸湿性の良い下着着用や、紙製ではなく布製のパッドも良いとの話しもありました。
しかし、一人暮らしの方や、その他生活が皆違うので、ケアマネとその方を交えて担当者会議のようなものを開いて、生活を考えて個別対応が必要との意見が出ました。
殿部が直接触れないように、油性の軟膏でコーティングすることも勧められました。この時ワセリンでは毛穴が塞がりまたより皮膚が浸軟する危険があるので、もっとサラッとした製品が勧められるとのことでした。例えば、セキューラDC、サニーナ、ソフティー等です。
発想を変えて、臀部皮膚をきれいに洗ってから、フィルム材を貼付することも勧めあれました。フィルム材を貼ると外部からの水ははじかれますが、身体から出る水蒸気を通すことから、フィルム材を貼った皮膚は乾燥しふやけを予防します。皮膚が重なって浸軟する部位にフィルム材貼付も勧められました。
以上、今回も結構盛り上がったのでした。