症例検討会
「摂食障害でPEG造設後、施設で褥瘡発症し褥瘡治療目的で再入院となった事例」
症例提示
80歳代女性。 認知症、摂食障害、糖尿病
PEG造設目的で入院してきたが、糖尿病と逆流性の誤嚥の既往があった。
グルコパルを使う予定とし、リフラン(半固形化剤)を使って半固形化予定とした。
しかし、PEG造設にあたり、同じことが施設でできないといけないので、病院のNSTが、施設と連絡し合い、PEGの管理や半固形化での注入ができるかを確認しあって、大丈夫との確証を得てからPEGを造設した。
造設後、10日間で施設へ戻っていった。
この時、身長149cm、体重46.3Kg、BMI 20.9であった。
SGAでは、栄養状態良好で、TP 7.9、Alb 3.6、Hb 13.6であった。
しかし、数ヶ月後右背部に褥創を発症し、褥瘡治療目的に再入院となった。
この時のデータは、体重3Kg減少して、BMI 19.5。TP 7.2、Alb 3.7、Hb 12.5、CRP 1.61であった。
PEGからは、グルコパル6Pで合計、960Kcal、タンパク48gが、投与されていた。
ここで、問題点は何でしょう? と質問された。
会場からは、3 Kg の体重減少が問題ではないか。
960Kcalは少ない。
糖尿病のコントロールが悪かったのではないか。
等の意見が出ました。
問題点がまとめられ、
- 褥瘡ができているので、創傷に配慮した栄養投与が必要になる
- 体重減少がある
- 投与される栄養が少ない
が挙げられました。
実は退院時に、必要栄養量のゴールは1200Kcalであると計算し、栄養情報提供書に手紙として書いておいたが、伝わらなかったとのことでした。
この方に関しては、病院の入院期間として、3ヵ月間しか治療できないことが大きな問題となっていました。これほど深い褥創は、治癒には通常半年以上かかります。
そこで栄養投与計画が立てられました。
ハリスベネディクトの式からは、基礎エネルギーは1000Kcal、侵襲に対し1.3、アクティビティーに関しては、1.2とし、全体の必要量は1500Kcalとなりました。この内タンパクは1.3g/Kcalとして、56gとされました。
水分は、1400~1600ml、鉄は15mg、亜鉛 15mg とした。
そこでグルコパルを9パックとしたところ、エネルギー1440Kcal, タンパク72g、この内アルギニン15.6g、鉄は18mg、亜鉛 27mgであった。
ここでまた質問が出ました。
この栄養計画で問題点はないか。
それに対し、糖尿病に対し、カロリーオーバーとなり、糖尿病のコントロールが悪くなるのではないか。
タンパク72gは、高齢者の腎機能に対し大丈夫か。
等の問題点があがりました。
糖尿病のコントロールに関しては、低GI食になるので、高血糖になりにくく問題はないとのことでした。
しかし、高齢者に72gの蛋白質は、腎障害の危険が確かにあるとのことでした。そこで、主治医に腎臓に負担になる可能性について話したところ、週1回、しっかりと血液検査でモニターしてくれた。フィブラストスプレーは併用したが、1ヵ月もしないうちに肉芽がドンドン盛り上がってきたとのことでした。そして、目標の3ヵ月では、DESIGN-Rは3点と、かなり治癒に近くなっていました。
ただ問題点があり、このような背部になぜ褥瘡ができたのかが、結局不明であったとのことでした。円背もきつくなかったとのことでした。
会場からは、原因となる圧迫やズレが、少なくとも入院中はなかったため、すごい速度で傷が治ったのではとの意見が出ました。
まとめとして、高血糖は創治癒に良くないので、血糖値は180未満でコントロールし、HbA1cは7未満になることが重要とのことでした。この方は、グルコパル効果で、血糖値は高くて150以下であったとのことです。褥創の患者では、糖尿病があるかどうかについて、気をつけていることが求められます。
予定より早く治ったのには、高蛋白食が良かったのではとのことでした。
会場からは、CRPが高くなっており、感染がかぶっていたのだろうとの意見がありました。
「感染がある創でCRPが高いと、アルブミン値が上がってこない。CRPを下げる目的で、積極的にデブリードメントをしているとのことでした。
この症例はCRP 1.6であったものが、デブリードメントにて0.3に下降した。
この例では、腎機能を GFR でモニターされたが、少しGFRが下降してきたので、栄養剤を1パック減らすことで、腎機能が回復したとのことでした。
この例では、褥瘡チームとNSTで、チームケアを一生懸命やり、良い結果が出た。どの病気でもそうだが、特に褥創はチーム医療が重要だと実感したとのことでした。
相談タイム(施設で大量購入するマットレスの選定法)
相談 800Kcalとか、700Kcalでも太ってくる人がいるがどうすればよいのか
あまり動かないと、筋肉量が減り、必要エネルギーが減って脂肪がたまってくる。したがって一見太っているようだが、皮膚はがさがさしており元気がない。実はサルコペニアの前に、サルコペニアオベスティーという状態がある。筋肉は減るが脂肪が増えていく状態である。
この時、投与カロリーを減らしても改善しない。必要なのはリハビリで、座位でも少しは運動になる。タンパクをしっかり取ってもらい筋肉量を減らさないようにするとのことでした。拘縮があっても、サルコペニアオベスティーでは、むしろ動かして欲しい。専門のリハビリに入ってもらい、運動をしていくとのことでした。
相談 胃瘻の人のカロリーを上げると吐いたり逆流したりするがどうするか
経口摂取では食事に時間ががかるが、胃瘻ではこちらのペースでドンドン入れられる。しかし、ボリュームを増やすと、胃の容量を超えて膨らみ、嘔吐を起こす。またスピードを上げると下痢になる。そこで、1 Kcal/mlが標準だが、1.5Kcal/mlや、2Kcal/ml等、濃い栄養剤にして量を減らす。ボリュームが増えれば、半固形化しても吐きやすくなる。
しかし、濃度を上げると、水分が減り、栄養剤投与後に水分を入れる問が胃が膨らむ。
実は水分は胃からの排出が早いので、まず水分を入れてから、栄養剤を投与する。特にOS-1などは、もっと胃からの排出が早くなる。高濃度の栄養剤では、必要追加水分を先に入れてから、15~20分時間を開けて、半固形化で高濃度な栄養剤を入れると良いとのことでした。
相談 栄養剤の濃度を上げたり、半固形化たりなどは一度に変えて良いのか
栄養剤の変更は、少しずつやるとのことでした。変更は少量からするとのことでした。でもAからBへの変更は、AとBを混ぜるのではなく、Aを投与してしばらくしてからBを投与するなどして、少しずつAからBへ変更していくとのことでした。つまり「慣らし」が必要とのことでした。
相談 施設では、職員の関係で、朝の投与のあとは、3時くらいに投与し、夜の投与はないなどするがどうか
血糖の変動やインスリン分泌を考えると、あまり時間を開けすぎるのは良くない。夕方なら、早くても5時くらいからの開始にして欲しいとのことでした。
相談 類天疱瘡の方で、褥創好発部位に類天疱瘡があり、類天疱瘡として処置をしていたら、深い褥創になってしまった。類天疱瘡から褥創になるのか。
類天疱瘡は、表皮の病気で、いわゆる「部分層創傷=中間層創傷」であり、真皮まで至らない創傷です。したがって、ステロイドなどを使い、スキンケアをすれば比較的早く治癒する創傷です。しかし、その創傷が、皮下組織に及ぶような傷になれば、それは類天疱瘡ではなく、別の潰瘍ということになります。感染がかぶって傷が深くなったのか、あるいは褥創のように皮下組織が主に障害する傷であることになります。
類天疱瘡の治療をしていて真皮よりも深い状態になったら、別の病気を考えましょうとのことであった。