症例検討会
「適切な褥瘡ケアができず部位が移行した事例:背部褥瘡治癒後左大転子部褥瘡発生」
症例提示:
80歳代男性で、要介護5。
現疾患:高血圧、認知症、糖尿病
既往歴:左上腕骨折、肺炎、また高血糖と心房細動で総合病院に入院治療
現状:ADL全介助、胃瘻栄養、円背があり寝たきり、両膝に拘縮、車イス座位保持可
バルーンカテーテル挿入
栄養:ハイネゼリー 4パック 1200Kcal、白糖300m ×3回/日
介護サービス:ショートステイ(週4泊5日)、ヘルパー(週4日)、訪問看護(月4回)
エアーマットレスレンタル
褥瘡対策委員会:月1回開催し褥瘡対策経過表作成
現病歴:仙骨部に褥創が発症し、治癒した頃に背部に褥瘡を発症。背部褥創が治癒した頃に左大転子部褥創を発症。そしてこの左大転子部が発赤程度に改善した時、背部に褥瘡が再発した。このように治療しても、次々と褥瘡が発生する。 褥瘡対策委員会で検討しケア改革を立ててやっている。局所療法は、持ち込みの処置用品を使用することになっており、家族が用意した方法で局所療法をおこなっているとのことでした。
ディスカッション
会場から、このように治療しても次々とおこる褥瘡を経験したことがある。その例は、在宅例であるがデイサービスを利用しており、治療して良い創状態になっても、また悪化するのを繰り返した。ある時、デイサービスが頻繁になると、褥瘡が悪化することに気がつき、移動時にどのようにしているのかを調べた。そしたら、デイへの送迎時、何カ所もピックアップするため、1時間程度車イスに座りっぱなしとわかった。その間、体圧分散はなされておらず、車で揺すられることが褥瘡悪化の原因となっていることに気付いた。
症例提示の例では、在宅と施設ではエアーマットレスが使われ、体圧分散は良好でも、ショートステイへの送迎はどのようにされているのか、その時、体圧分散やズレ予防はされているのかとの質問でした。
ショートステイへの送迎は、一人だけなので短時間であるとのことでした。しかし、姿勢保持はされておらず、詳細はわからないとのことでした。
会場からは、短時間かもしれないが、一応姿勢がどうなっているのか、全く体位保持がされていないのか、等々調べてみてはとの意見が出ました。
入浴時の姿勢にも質問がありました。
入浴直後に創処置をしたことがあり、その時褥創から出血が見られ、入浴時に創部にズレと圧迫が加わっていることが判明した例があったとのことでした。そしてショートステイ時の施設内移動や車イス保持について質問がありました。
それについては、ショートステイ中は、ほとんどベッド上で経管栄養時のみギャッチアップとなる。シャワー浴は座位姿勢だとのことでした。車イス座位時には、クッション等使い姿勢保持をしているとのことでした。
ベッドでの体位変換と姿勢保持は難しい。膝の拘縮があり、膝の下にクッションを入れているとのことでした。
それに対し、膝下にクッションを入れると、より仙骨部の圧は高くなり、またクッションをはさみこもうとするため、膝の拘縮はより進行する。今は、上半身の姿勢保持に努め、下半身はしだいに重力で膝が伸びていくような位置にしているとのことでした。
会場からは、背中や大腿近位部で体重を受けるようにし、膝ではなく、下腿でも体重を受けるようにしてはとの意見が出ました。
しかし、これらポジショニングは大変難しく、訓練を受けたほうが良いだろうとの意見が出ました。理学療法士か作業療法士からのアドバイスが勧められましたが、施設にはいないとのことでした。そこで、タイカ(株)が、無料で出張サービスしてくれるので、何回か来てもらってはとの意見が出ました。ただしかなり人気で、すぐに来てもらえるかわからないとのことでした。
発表された症例では、膝の拘縮は進行していないとのことでした。
膝に拘縮があり、円背があれば、仰臥位は難しく、完全側臥位姿勢を取るのではないかとの意見があり、その際、褥創のある左大転子部や背部などに手を当てて圧迫やズレがないか確認が勧められました。
とくに、ベッドをギャッチアップして胃瘻からの栄養を入れている時、身体は左右にずれやすい。また枕でポジショニングしても既によじれていることがある。この場合も手を入れてみて、ズレのないことの確認が勧められる。さらにズレを背抜きで解除することが必要との話しもありました。
褥創が次々と発症するとはいうものの、治っているのでそう間違ってはいないのではとの意見がありました。毎月の対策委員会での検討は有効なようだが、できている褥創には有効でも、以前あって治癒した褥創への配慮がないのではないか。背部、仙骨部、大転子部の3つの褥創をひっくるめた介護法を、委員会で検討してはどうかとの意見が出ました。そして検討したケア方法について、皆で統一するようにしてはとの意見が出ました。
褥創治療の中心は誰がやっているのかとの質問に、訪問看護が中心になりケア計画を立てているとのことでした。これについては、他の施設でもショートステイでのケアは、訪問看護のやり方を続けるようにしているとの意見が多いようでした。変えたい時もあるが、混乱を起こすといけないので、よっぽどのことがない限り、訪問看護を重要視しているようでした。
最後に、本例ではショートステイに来る時、毎回家人が在宅での様子を伝言してくれるので、有り難いとのことでした。家族と、訪問看護と、ショートステイ施設との連絡がしっかりできている印象でした。
まとめとして、在宅送迎の方法について調査をする。車イス姿勢保持法について、勉強する。毎月の褥創対策委員会では、現在の褥瘡対策だけではなく、過去に褥創が発症した部位への保護も含めて皆で意見を出してケアプランを作る。等の結論となりました。
相談タイム(施設で大量購入するマットレスの選定法)
相談 施設でマットレスを購入してくれることになったが、そのアドバイス
今まで体圧分散マットレスは、レンタルを利用してきたが、今回体圧分散寝具を購入してくれることになった。
これまでは、ブレーデンスケールを使ってきたが、ベッド選択に関して、OHスケールを使用することとなった。高機能ベッドなど、どのようにベッドを選んで使用すればよいのかとの質問でした。
まずは施設の状態が質問され、130床の介護施設で、介護度の高い人が入っているとのことでした。リース利用だったが、今回5個の体圧分散寝具を購入してくれることになったとのことでした。レンタルしているマットレスは、ナッソー、ソフィア、アドバン、ビッグセルなど、いろいろである。
それに対し、ある施設では19床であり、過去に必要で購入した時は、高機能マットレスは10台、普通の除圧ウレタンマットレスは8台で、以前からある除圧マットレスは2台であった。移動可能な方や体位変換可能な方は、この普通型のマットレスを使用したとのことでした。
会場からは、体圧分散マットレスとしては、高機能型マットレス、厚いタイプのウレタンマットレス、割と薄めで体位変換が容易な薄めのウレタンマットレスの3種類を中心に考える。値段は高機能が一番高価であるとのことでした。
台数が決まっているのなら、値段の高い高機能型にしてはとの意見がありました。また、要介護度の高い方がいるということは、高機能マットレスの需要が一番大きいだろうし、 値段が高くレンタル料も高いので、高機能マットレスを中心に考えた方が良いのではとの意見でした。
会場からは、厚地のウレタンマットレスの方が丈夫で長持ちするし、手間がかからないのでよいのではとの意見が出ました。しかし、会場からは、体重が重いと3ヵ月でへたってしまう。いま、新しいタイプの中心部のみエアーが入り、体重の重い方から軽い方、体圧分散をより必要とする方からそうでない方まで、空気圧で調整できるタイプが発売された。それにしてはとの意見も出ました。
ウレタンマットレスは、へたりがむしろ早く寿命が短いと言われている。ウレタンマットレスは外見が変わらず、へたって底付きしていても気付かず使用されており、気を付ける必要がある。むしろエアーマットレスの方が長持ちすると思うとのことでした。しかし、エアーマットレスでも、24時間365日稼働しているし、ほこりの多いところに設置されている。定期的に機能をチェックする必要があり、本当はレンタルの方が、倉庫もいらず都会では主流になってきていることが話されました。
新製品のマットレスは評価が定まらず、慎重になった方が良いとの意見がありました。新製品のマットレスを選ぶ場合は、1ヵ月くらいお試しで使い、評価してから購入した方が良いとのアドバイスがありました。
大方の意見として、高機能エアーマットレスが勧められましたが、その際、世の中に出てかなり時間がたったものがよいのではとの意見でした。製品が出てからも改良が加えられており、評判がよいものは丈夫で体圧分散効果もよいと考えられるとの意見でした。
ということで、結論はかなりコンサーバティブな方向になってしましました。
今回は、再発を繰り返す褥創と、エアーマットレスの選定に関し、具体的にかなり突っ込んだディスカッションができました。