症例検討会
「在宅療養中に発症した褥瘡の1例 ー難治に経過した1例ー」
<症例呈示>
60歳代男性で、仙骨部褥瘡例。要介護5で、寝たきり状態。
デイサービスを週2回、ショートステイを週1日利用。
経管栄養で、ラコールNFを1000~1200ml 白湯を300~400ml注入。
内服はタケプロン、ノルバスク、ラキソベロン。
17年前に脳出血を発症し、左半身マヒ。昨年脳出血を再度発症し、右半身マヒとなり、寝たきり状態となった。
9ヵ月前に仙骨部に発赤が出現し、拡大。8ヵ月前から仙骨部褥瘡の治療に介入。
48x45mmの褥瘡の中心部には壊死組織があったため、これを無麻酔でデブリードメント施行。ステージ3の褥瘡であった。
局所療法は、フィブラストスプレーを噴霧し、カデックス軟膏を使用。
8ヵ月前から7ヵ月前にかけては、サイズが縮小し良好な経過であったが、その後褥瘡拡大傾向もみられた。現在はテラマイシン軟膏に変更しているとのことでした。
創のサイズと体重の関係を表に示されましたが、体重減少が見られ、それにつれて褥瘡の治りが低迷している様子が分かりました。
経過 | 8ヶ月前 | 7ヶ月前 | 6ヶ月前 | 5ヶ月前 | 4ヶ月前 | 3ヶ月前 | 2ヶ月前 |
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面積cm2 | 21.6 | 7.36 | 8.4 | 9.8 | 8.64 | 11.1 | 9.45 |
体重Kg | 56.9 | 54.9 | 52.5 | 51.2 | 50.8 | 50.4 | 50.0 |
在宅診療において、皮膚科では外来初診時の皮膚疾患は32%が褥瘡、19%が真菌、25%が湿疹という報告もあるが、任せてくれとは言えない。また褥瘡は1ヵ月に1回程度の往診で見ていることも任せてくれといにくい面があるとのことでした。
在宅診療をしている医師でも、「在宅寝たきり患者処置指導管理料」を知らない方もあり、これを取ると、2013年から創傷被覆材を保険で置いてくる事ができる(重度褥瘡処置を行った場合に限る)ようになった。
また在宅診療では、在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院、訪問看護ステーション、管理栄養士などとの連携を行いたいが、なかなか難しいとのことでした。
以上のご発表に対し、ディスカッションが行われました。
体重が減っていることから、管理栄養士からはラコールが1200mlであるが、あと200ml入れて欲しいとの要望がありました。
これに対し、皮膚科医が内科や外科の先生に栄養アップをお願いしにくいとのことでした。内科や外科の先生は全身管理をしているプライドがあり、栄養のことを言うと怒られてしまうとのことでした。しかし、患者さんのために「もう少し栄養を入れてもらえないか」と素直に言ってみることが会場から勧められました。
創面が乾燥傾向にあることも指摘され、もう少し湿潤に保つことが提案されました。
これに対し、1ヵ月に1回程度の訪問であり、感染が最も怖いため、カデックス軟膏を変更しにくかったとのことでした。そこでテラマイシン軟膏への変更を行ったが、最近往診依頼がなくその後の経過は分からないとのことでした。
それに対し、訪問看護やデイサービス、ショートステイなど、週に3~4回誰かが創をみていることから、そのような方からの情報をもらうことで、感染の不安を減らせると提案されました。こちらからそれらの施設へ連絡し、変わったことがあったら知らせてもらうと良いとの提案がありました。それが在宅での連携とのことでした。
しかし、訪問看護は外科の先生から指示をもらっており、聞きにくいとのことでした。
聞くのはドクターが聞くのではなく、医院の看護師から聞いてもらうと聞きやすいことが提案されました。また、喜んで情報をくれることも話されました。
しかし、内科や外科の先生が主治医であることがほとんどである在宅患者において、皮膚科の先生が褥瘡を見にいく時の連携の難しさが痛感させられました。
体圧分散のエアーマットレスについて質問がありました。それに対し、厚めのエアーマットレスであり、また、空気の入り具合については毎回触って適正であることを確かめたとのことでした。家族も空気の入り具合については気にかけていたとのことでした。
軟膏類について質問がありました。
それに対し、カデックス軟膏は一定の濃度で徐放性に長期間効くので選択している。またゲーベンクリームやプロスタンディン軟膏も使うことがあるとのことでした。会場からは、カデックス軟膏は、創面が乾燥しやすい。一度きれいな肉芽創にカデックス軟膏を選択し、1週間くらいしてから見たら、創面がからからに乾き壊死を起こしていたことがあってからは、カデックス軟膏は使わなくなったという方がいらっしゃいました。
カデックス軟膏とユーパスタ軟膏は、外見は似ているが、吸水力はかなり違うので、滲出液が減ってきたら、カデックス軟膏を使う際は極少量にしなければならないとの話しがありました。
また、フィブラストスプレーに関しては、高価でもあり、壊死組織があれば外科的デブリードメントを優先し、壊死組織がなくなってから使うようにしているとの意見もありました。
全体的なまとめとしては、栄養摂取量を増やすことが最も大切であろう。また、創面を乾燥させないドレッシング法を考えた方が良い。その場合、感染がおこりやすくなることも考えられ、いろいろな業種が介入していることから、それら多職種の人に連絡し、変化があったらすぐに連絡をもらうよう、また変化が無いか適宜連絡することで安心した治療ができるようになる。
在宅では、こまめに連絡することが大切で、これが在宅での連携との意見でした。
相談タイム(殺菌剤軟膏関連)(水疱を伴う蜂窩織炎)
相談1 ゲーベンクリームか亜鉛華軟膏か
下肢の潰瘍に対し、ゲーベンクリームは創周囲皮膚を傷めるとのことで、皮膚にやさしい亜鉛華軟膏の使用をするように職場で言われている。しかし、亜鉛華軟膏を使うと傷がドロドロしてあまり良くないようだが、ゲーベンクリームより亜鉛華軟膏の方が良いのでしょうかとの質問でした。
ワセリンも含め亜鉛華軟膏は古くからの薬で、まだ抗生剤等がない時代から使用されており、当時はそれしか選択できなかったのだろう。しかし、多少静菌作用はあっても抗菌作用はないので、感染がおこりやすく浅い傷しか治らない。また皮膚がただれたところに亜鉛華軟膏を使えば感染は必発だとの意見が出ました。
他に、感染が無く、壊死組織もなく、やや乾燥気味の浅い創が適応ではないか。逆に、壊死組織があったり、感染している創、滲出液が多い創ではゲーベンクリームを選んだ方が良いとの意見がありました。また、ゲーベンクリームはたっぷり使用しないと効果がないとの意見もありました。
創にとって感染は最初に対処しなければならない状態であり、多少周囲皮膚が浸軟しても、まず感染をコントロールすることを優先するとのことでした。
さらに、亜鉛華軟膏がよいのか、ゲーベンクリームの方が良いのかは一般論で論ずべきではなく、傷の状態に応じて、亜鉛華軟膏の方が良い傷とゲーベンクリームの方が良い傷がある。要はここの傷において、今どのような状態でどうしたいのかをアセスメントしてから軟膏類を選択するのが基本とのことでした。
相談2 糖尿病の方にイソジンシュガーを使ったら、糖尿病が悪化するとしかられた
ユーパスタ軟膏は、ブドウ糖を使っているのではなく白糖を使っており創面から吸収されず、創面に残っている。したがって糖尿病には影響しないとの意見があり、一気に解決されました。イソジンシュガーに使われているのはショ糖であり、分子量が大きくて吸収できないようです。
相談3 脂肪壊死を起こした蜂窩織炎症例
70歳の女性で、脳出血のために左片麻痺があり、リハビリをするも効果なく寝たきりで経口摂取だが全介助の方だそうです。慢性関節リウマチを発症しステロイドやメトトレキサートで治療されたが、落ち着いて1年くらい前から抗リウマチ薬は使っていない方でした。
突然左上肢に発赤と水が出現し、腫脹、疼痛、発赤、全身発熱を生じました。
蜂窩織炎と診断され抗生剤の点滴が開始され、発熱は治まりましたが、左上肢の壊死が進行したとのことでした。
やがて白色の硬い壊死組織で被われ、耐性菌が出現してきたため、ゲーベンクリームで軟化させようとしましたが軟化しないため壊死組織の切除をしたとのことでした。
切除してみると、それは脂肪壊死であり膿の流出はなかったとのことでした。その後も同様の処置を継続にて、壊死組織はようやく無くなり、今全面肉芽で被われる状態になっているとの事でした。
このように、水疱を伴う蜂窩織炎は重症化しやすく、蜂窩織炎は切開すればすぐに落ち着くと考えていたが、今後もっと気をつけなければならないと思ったとのことでした。
褥瘡や深部熱傷だけではなく、このような蜂窩織炎も深部での壊死が進行し、極めて危険で難治な状態になりうることが分かりました。傷の処置においては、どのようなものでも、初めから安易にすぐ治るとは言わずに、少なくとも数日見てからコメントした方が良さそうだと分かりました。