症例検討会
「事後報告を含め経過報告について」
<症例呈示>
90歳代女性 脊髄損傷他
要介護度5、日常生活自立度C2、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲa
身長150cm、体重43.8Kg
前回提示症例の再紹介
仙骨部に発赤が出現し、悪化し皮下に至る褥創となった。症例検討会では、局所療法よりも、食事摂取が重要であり、食事を摂ってもらう工夫をすることを勧められた。
検討会後、食事はミキサー食を止め、きざみ食や常菜など食欲が湧く様な食事へと変更した。また、食事もベッドごとリビングへ移動して食べてもらった。人手がある時は、なるべく離床して座位で食べてもらう様にもした。
ポジショニングも写真に撮り、統一した。体位変換もズレを起こさない様にした。しだいに褥創はよくなっていった。
このようにして2年間経過したが、この間に色々とあったので報告する。
リクライニング車イスから落下転倒し、腰椎、大腿骨、膝などを骨折した。自然治癒をはかることとなったが、シーネ固定などにより、仙骨部の褥瘡は悪化し、新たに両側の踵部、右足背などに褥創発症。食事量も減少した。
食事摂取量がかなり減ったため、病院の「嚥下パス」入院で調べてもらうことになった。
その結果、甲状腺機能低下症のあることが分かり、薬物療法が開始された。当初経鼻栄養が開始されたが、入院中経口摂取が進み経鼻栄養は終了して戻ってこられた。
帰ってこられてから、ポジショニング法を写真に撮って統一。体位変換の記録を取り忘れない様にした。食事前からリビングにベッドごと移動し、離床を進めている。離床を進めるにあたっては、職員3人でスライディングシートを使って行っている。活気が出て来てよくおしゃべりをするが、幻覚もある様だった。
食事摂取量にはムラもあるが、骨折前よりもよく食べている。
甲状腺機能低下症の治療が始まって3か月であるが、この間、褥創の改善がみられている。褥創については、足背は治癒し、両踵部も改善、仙骨部も著しく縮小している。
以上の報告に対し、会場とのディスカッションがあった。
今相談したいことはあるのかとの質問に、局所療法は、医師と看護師がおこなっており質問はない。現在特に相談したいことはないとのことでした。骨折部はまだ安定していないが、強い痛みを訴えることはなくなっているとのことでした。
今回の改善は、甲状腺機能低下症が診断され、治療が始まったことで食事も食べ、活動性も出てよい方向になったということでよいのかとの質問に、そうだとのことでした。
また、介護者が介護法を統一したことがよかったとの話しでした。
「嚥下パス」がポイントではなかったのかとの質問に、「嚥下パス」を依頼したことで、甲状腺機能低下症が分かり、また食事も食べられるようになったことが重要であったとのことでした。
そこで、「嚥下パス」とは何かとの質問が出ました。「嚥下パス」は砺波総合病院が行っている、1泊2日のプログラムだとのことでした。これは素晴らしいプログラムだとの意見が出て、他にやっているところはないかとの質問が出ました。
それに対し、南砺市民病院から1か月に1回施設に来院してもらい、毎回5名位問題のありそうな方をピックアップしてみてもらっている。その中で詳しく調べた方が良い方を南砺市民病院に入院してもらって嚥下を中心に評価してもらっているとのことでした。
済生会高岡病院では、そのようパスのようなものはないようだが、リハビリの一環として嚥下評価や訓練をしているようだとのことでした。
嚥下や摂食に問題のある方は多いと思われ、このような方を短期間の入院でしっかりと評価・訓練と指導をしてもらい、在宅や施設へ戻してもらえるシステムは、今後より重要になると考えられました。
在宅では、訪問栄養指導や嚥下に関する訪問リハビリも必須と考えられました。
薬剤師の方から、局所療法薬の選択などを重要視しているが、食事と褥創の関係はどの程度重要と考えればよいのかとの質問がありました。
この症例では栄養が大切であり、栄養が十分摂れていないと、特にカロリーがたりないと、どのような治療薬を使ってもドンドン褥瘡は悪化した。食事からは800Kcal位だったので、補助食品でカロリーなどを補ったとのことでした。
また、本人の食べる意欲が大事で、経管栄養の頃は局所療法をかなり努力されていたが、改善は乏しかった。経管が外れ口から食べるようになり、褥創は少しずる改善するようになったとのことでした。
創傷と栄養に関しては、傷が治るのは蛋白合成であり、そのための材料と蛋白合成のためのエネルギーが必要である。エネルギーはもちろん摂取カロリー量であり、傷が治るための材料は蛋白質の摂取である。つまり蛋白質とカロリーの両方が重要である。
高齢者の場合、摂取カロリー量が900Kcal以下では危険であり、摂取蛋白質量は35g以下が危険である。理想的には、1200Kcalと蛋白50g位は欲しいとの意見でした。
相談タイム
相談1(大転子部の膿の出る褥創)
くも膜下出血後遺症の方で、糖尿病もある。高熱が出て大転子部が赤く腫れ膿が流出する褥創を病院に紹介した。CTscanにて、筋肉間にガスがあり処置をされたが戻ってきた。
開放部が2ヶ所あり、その周囲広い範囲を押すと膿の流出がある。生食で洗浄しゲーベンクリームを充填しているが、発熱がみられる。発熱は抗生剤投与にて改善するが、止めるとまた発熱を繰り返している。病院からは何も指示はないが、この方法でよいのか聞いてくるように依頼されたとのことでした。
会場からは、この症例は骨壊死をしているのではないか。腐骨があり壊死組織が創内にあると考えられ、これを抗生剤だけで治すことはできないだろう。病院にもう一度行って大きく切開してもらった方が良いとの意見がありました。
また、これはガス壊疽といってかなり危険な状態である。抗生剤で保存的に処置されていて落ち着いていること自体が不思議。直ちに切開しても命が危ないかもしれないような創傷であるとの意見もありました。
結論として、病院からの指示はなくても、死亡などの結果になれば問題となる。直ちに切開をすることが勧められました。その際、切開して壊死部が全て開放されればよいが、壊死がどこまでも続いているようなら、切開はそこで止めて、直ちに病院へ搬送した方が良いとの意見にまとまりました。
相談2(高齢者皮膚の保湿法)
Skin Tearは余り聞かない名前だが、保護を主に考えればよいのかとの質問がありました。
Skin Tearは高齢者の皮膚の特徴的に起こるごく普通の創であり、昔からみられている。褥創や動脈性潰瘍などと比べると、表皮剥離であり取り立てて治療法について検討されてこなかった。しかし、最近この創が介護法などと関係があること、また治療法により治癒期間に差が出ること、痛いこと、繰り返すことが問題になってきた。もう一つ、最近シリコン粘着のドレッシング材が出て来て、治療が容易になったことなどから、西欧で注目されるようになり、日本にも名前が入ってきた。
今後、介護法が関与することから訴訟などの問題も出て来て、もっとしっかりと治療することと予防することが必要になると考えられました。
予防にワセリンを使うことはどうなのかとの質問がありました。
予防が大切で保湿が重要です。特に入浴後のスキンケアが重要です。保湿剤はワセリン基剤の物ものが基本でしょう。高齢者の皮膚はもともと皮脂が少なく、入浴によってさらに皮脂が失われます。入浴後時間の経過とともに、皮脂の失われた皮膚からは急速に水分が失われ、ドライスキンになっていきます。入浴後できるだけ早くにワセリンなどを入れた保湿剤の塗布が必要です。
しかし、高齢者の皮脂腺や汗腺はワセリンをしっかり塗ると塞がってしまいます。高齢者では角質の厚い場合が多く、ワセリンよりも尿素製剤の比率が多い方が、皮脂腺なども塞がらずよいとも言われています。
したがって、若年層の保湿剤にはワセリンの比率を多くし、高齢者ではワセリンの比率を少なくしてウレパール等の比率を多くするようにしています。1日1~2回の保湿剤塗布を勧めていますが、多くは1回の塗布で済まされています。
ウレパール系軟膏を毎日何回も塗ると皮膚が薄くなっていかないかとの質問がありました。
ルレパールは角質を溶かして皮膚を軟らかくするため、何度も塗ると確かに薄くなっていきます。したがって、そのような方ではむしろヒルドイドクリームなどのみにした方が良いかもしれません。要は、その方の肌の様子とか、几帳面かどうかなど総合的に判断するとよいでしょうという話しになりました。