第67回 「長期間治癒しない慢性褥創」

2013年7月18日

症例検討会

<症例呈示>

70歳代男性。反復性うつ病性障害(自傷行為例あり)、一酸化炭素中毒後遺症、糖尿病、貧血がみられる。50歳代に脳梗塞を罹患し、60歳代から糖尿病治療がされている。
7年前に一酸化炭素中毒にて他院に入院。その時両大転子部と仙骨に褥創を発症したが治癒。
6年前にアフターケア目的に転院してきた。転院後褥創を発症した.当初ゲーベンクリームとガーゼ処置が行われた。
褥創は縮小しても,発熱があると悪化した。半年後には会話ができるようになった。
1年半前、この研究会に症例を相談し、局所療法についてはあまり指摘されなかったが、ポジショニングとオムツのあて方に問題があるのではと教えられ、作業療法士と一緒に検討した。
その結果オムツがきつくて圧迫になっていることが分かり、緩くすることで褥創は治癒に向かった。
4ヵ月前くらいに,向精神薬の量が増えると共に食欲が低下し、左大転子部と仙骨部褥創が悪化。局所療法は、アルジサイト銀、ハイドロサイトADジェントル、ゲーベンクリームなどが用いられた。
現在仙骨部はほぼ治癒に近い状態だが、左大転子部は、一旦感染徴候が強くなり、その後表皮化が始まっているが、依然としてポケットもみられる。
栄養は、経口摂取でエネルギーは1120Kcalで、タンパクは45g。検査データは、体重42.5Kg、BMI 18.3、Alb 3.1、Hb 9.2、HbA1c 5.4とのことである。

質疑応答

体圧分散用具は何かとの質問に、商品名は今分からないが、厚手のエアーマットレスだとのことでした。
局所療法については、ハイドロサイトADジェントルは週2回交換。ゲーベンクリームは毎日交換とのことでした。

体位変換について質問があり、左にできているので、仰臥位と右側臥位でやっているとのことでした。右大転子部には褥創はないとのことでした。

会場からは、大転子部の褥創は治りにくい。大腿を動かすと大きく皮膚が動き、それが褥創の治りを悪くする。逆にマヒが進行して動かさなくなると治りやすくなるとの発言がありました。

仙骨部褥創は、尾骨にかかっており、車イス乗車時の姿勢が悪いために発症したのではないかとの質問がありました。それに対し、以前は車イスに乗っていたが、今は乗れなくなりベッド上であるとのことでした。今、仙骨尾骨部は治っているので、前に車イスに乗っていたときに発症し、車イスを止めたので治ってきたのかもしれないとのことでした。

食事姿勢についての質問があり、ベッドのギャッジアップは60度以上にしている。右膝は曲げるが左は伸ばしたままであるとのことでした。
この姿勢は、左に傾く姿勢であり,この時左大転子部に圧迫が加わる可能性が考えられました。また、この姿勢は、オムツによる圧迫をおこす可能性も考えられました。

肉芽の色について指摘があり、これは不良肉芽であり、栄養状態が悪いのではとの指摘がありました。糖尿病のコントロールは悪くなさそうなので、もう少しカロリーを上げ、たんぱく質も増やすことを提案されました。
不良肉芽に関して、本日の講義であった、難治性のバイオフィルムが関与したクリティカルコロナイゼーションの状態が疑われました。したがって、細菌増殖を引き起こす閉鎖性ドレッシング材を長期間交換しないのは創治癒にマイナスとの指摘がありました。クリコロであれば、デブリードメントが第一にするべきことであり、ゲーベンクリームやユーパスタ軟膏、カデックス軟膏などを用いることが勧められました。
実際、ゲーベンクリームの使用にて、一番新しい写真では表皮化がかなり進んでいます。
ここで、各軟膏の使い方が解説され、ゲーベンクリームはたっぷり用いることが大切と説明されました。
カデックス軟膏やユーパスタ軟膏は、吸水作用が非常に強いため、ガーゼでカバーすると創面が乾燥して壊死するため、フィルムに18G注射針で穴を開けた「穴開きフィルム法」を行うことが必要と説明されました。

写真を見て会場からは、緑色の横シーツがあてられているが、シワシワになっており、これも圧迫の原因になるのではとの指摘がありました。会場からは、さらに伸展性のない横シーツを用いると、たとえ高機能エアーマットレスを使っても効果が半減し、低機能エアーマットレスと同程度の体圧分散効果しか無くなることが指摘されました。
そこで、なぜ横シーツが必要かとの議論となり、オムツのあて方が間違っており、それで排せつ物がオムツから漏れるため、横シーツ使用となっているのではとの指摘がありました。

オムツのあて方について解説があり、オムツはギャザーをしっかり立てて皮膚にあたるようにギャザーを引っ張ることが第一のコツだと説明されました。
ギャザーがしっかりとあたっていれば横漏れの心配がなくなるため、オムツのハジは鼡径部のシワに添って内側に持ってくる。また、下側のテープ止めも大腿部の動きを妨げないように、かなり角度を上方向に引っ張ってマジックテープを留めるようにする。これらの工夫によって鼡径部の動きによってオムツが引っ張られなくなると解説されました。

会場からは、側臥位を止めて仰臥位のみにしてはどうか。側臥位にするから股関節を曲げ、大転子部の安静が保てない。仰臥位だけにすれば、下肢に拘縮が起こって大転子部の褥創も治っていくのではないかとの提案がありました。
これに対しては、ちょっとそれはないだろうとの意見がすぐに出て、「今左側臥位が禁となっていても褥創は治らないのだから、右側臥位姿勢は有効ではない。であれば、仰臥位、右側臥位、左側臥位と、通常のように体位変換をしてはどうか」との意見が出ました。ただし、この時は完全な側臥位ではなく、緩い側臥位が提案されました。ポジショニングのポイントとして、例えば左側臥位時には左大腿部から膝~下腿部にかけて薄い枕を入れて下肢が捻れないようにすることが重要と指摘されました。身体が捻れると不快となり、身体が硬くなっていくと説明されました。

ベッドをギャッジアップしての食事は,ポジショニングが大変なので、背中がリクライニングすると共に、座面も傾く(ティルトする)ティルトリクライニング車イスの使用が勧められました。ティルト車イスを使うことで、背中、大腿部、足底の広い範囲で体重を受け止めると共に、ズレが起こらず,食事中も安定できることが示されました。
問題は、病院にティルト車イスがあるかどうかですが、リハビリスタッフに聞けば意外と用意されている可能性が高いと説明されました。

写真では、つなぎ服を着ているようでしたが、ここでつなぎ服についての指摘がありました。つなぎ服は足を曲げるとかなり突っ張り、それが大転子部の圧迫原因になっている可能性が指摘されました。対策として、値段は張るものの伸展性のあるツナギ服にすることが提案されました。
それに対し、つなぎ服を着る原因を考えることが大切で、ツナギを着る前に不快なことがあり、そのために服を脱いだり、オムツをいじったりしたのではないか。その不快なことに対する対策をすれば、そもそもツナギを着る必要が無くなるのではないかとの意見がありました。しかし、これには、安楽なポジショニングや、快適にオムツを着けられるように適切なオムツ選択と正しい装着法を行われることが必要で、いずれも高い知識と技術が要求されます。スタッフの中に、これらについて得意な方がいれば、ぜひチャレンジしてもらいたいとの期待がありました。

同様に提示された写真から、皮膚がドライになっているように見えるが、皮膚のドライスキン対策として、ワセリンの塗布などが提案されました。さらに皮膚乾燥から、脱水があるとすれば血液濃縮があり、Alb 3.2は名目上で、もっとひどい低栄養状態が隠されているのではとの指摘がありました。

結論として、長期間治らない褥創に関して、現場をよくみることで、より詳細に褥創発症原因と難治性となった原因を皆で検討すること。栄養付加を考えること。バイオフィルムを伴う慢性創であり、抗菌作用のあるドレッシング材を考えた方が良いこと等が、挙げられました。

まとめ

慢性化した褥創に対し、症例提示者はいろいろ工夫してやっておられる。栄養にも注目し、またオムツや局所療法も工夫がみられる。それでも会場からは、ポジショニングの工夫、栄養改善対策、車イスの問題、食事姿勢、肉芽の色から局所療法の工夫、横シーツの問題、寝衣の問題など、いろいろな指摘があり、症例提示者はさまざまな示唆をもらったようでした。