症例検討会
<症例提示>
「頭頸部後屈状態の患者に発生した褥瘡のポジショニングの検討 ~梱包エアークッション使用して~」
症例:
70歳代女性。身長158cm、体重50.1Kg、BMI 20.1、日常生活自立度 C2。
変形性膝関節症にて手術予定であったが、発熱で中止となり、その後寝たきりになった。右臀部と左大腿部に褥創を発症し、当院へ紹介入院となった。
胃瘻栄養でCZ-Hi 1.5が用いられ、1日1500Kcal入れていた。Alb値は3.3。
右臀部と左大転子部の褥創は、治療によって治癒した。
しかし、後頭部に褥創を発症した。頭頸部はかなり後屈している患者であった。
治療計画にあたり、頸部の可動範囲を調べると、正常は前屈が60度まで、後屈は50度までであった。この方は後屈35度で固縮していた。
高い圧が問題と考え、タオルで隙間を埋めて圧をはかったところ、73.6mmHgと高値であった。タオルに加え、メディエフパッド(吸収パッド)と床ずれシート(シリコンシート)を併用すると、48.7mmHgに低下した。さらに大粒の梱包用エアークッションを併用すると、28.2mmHgへとさらに低下した。ただし、エアークッションが劣化すると、48.2mmHgへと圧は高くなってきた。
このように頸部に体圧分散の工夫をおこないつつ、局所療法は改善するにつれて ゲーベンクリーム → アズノールワセリン → 生食洗浄 としてくことで治癒した。
今回の検討では、梱包用エアークッションをいろいろ試してみた。小粒・中粒・大粒のエアークッションがあったが、実際圧を測定すると、小粒では33.3mmHg、中粒では32.0mmHg、大粒では28.2mmHgであったため、大粒のものを使用することにした。
また、同一体位となるため、位置変換を何時間ごとにするべきかの検討も行った。1時間経つと28.2mmHg、2時間後には30.0mmHg、3時間では33.0mmHg、4時間後には42.6mmHgであった。この結果から、2~3時間ごとに位置変換をすることにした。
以上から、ケア方法としては
- 組み合わせは、床ずれ予防シート + メディエフパッド + 梱包用エアークッション の3つを併用する。
- 頭部の位置変換は3時間以内が効果的であった
- 情報の共有や、除圧法の統一が有効であった
そしてこれらの工夫をするにあたって、梱包用エアークッションという、身近にあるものを使うことも良い結果を生んだ。
質疑応答
以上の報告に対し、会場からは後屈に対しクッションなどを入れ、圧を軽減することで褥創は治ったが、後屈そのもののは改善したのかとの質問があった。
それに対し、角度は実際は測定していないが、見ためは良くなってきたように思う。顔もうつむき加減になってきたとのことでした。今からでも測定してみるとよいと思われた。
圧が時間と共に上がっていったが、その理由は何だと思うかとの質問に、時々からだが硬くなるのだが、その時に頭部も力が入ってズレなどが起こり圧が高くなっていくのではないかとのことでした。
情報共有の重要性は分かったが、どのようにして情報を共有していったのかとの質問があった。
褥創が発症したら、患者のところへ職員を集めて、圧をはかるなどして比較をし、ポジショニングや使用用具の提案などをして、納得してもらうとのことでした。とにかく患者さんの所で実際にやってみることを基本としているようでした。
栄養は1500Kcalとのことだが、ギャッチアップ時間はどれくらいで、普段も上げているのか。また、フラットにした時に後屈はひどくないかとの質問があった。
栄養注入は2時間ギャッチアップしておこなっている。また、後屈が強く誤嚥しやすいので、通常も少し上げているとのことでした。ギャッチアップすることで頸部の圧を抜いていたとのことでした。
また、フラットにする場合も、説明で述べた方法で肩から首の下に3つの組み合わせのものを入れている。実際はさらにU字型のクッションを入れて、肩から首頭を持ち上げているとのことでした。このU字型のクッションは、当初買えなかったので布団で作っていたが、今は市販のものを使っているとのことでした。実際はこれも重要であるとのことでした。U字型のクッションを使った場合も、頭側から順に、床ずれ予防シート+メディエフパッド+梱包用エアークッションの3つを組み合わせることで除圧効果と保護効果が出て良いのだとのことでした。
3点セットを使っているところの写真はないのかとの質問に、もってこなかったとのことで、さっそくモデルを机の上に寝てもらい、どのようにやっているかの実演がおこなわれた。
まずはU字型クッションを入れて肩から首頭を持ち上げる。首の下にタオルを織って入れる。大粒の梱包用エアークッションを1枚敷く。メディエフパッドを敷く。その上に床ずれ予防シートを敷く。床ずれ予防シートは粘着面を頭側にすることで頭のズレが起こらなくなるとのことでした。
エアーマットを敷いても、頭が後屈しているとかなり高い圧になってしまうため、このように肩から上を挙上することが重要とのことでした。
会場からは、梱包用エアークッションは使ったことがないが、やはり後屈が強度で身体も硬直している方がいた。何かのおりに、エアーマットを通常のものからキルティング状(亀の甲羅状?)のタイプに変えたところ、ストーンと身体の硬さが無くなった方がいた。大きさは違うが、このようにプチプチとしたものは、何か身体の力を抜く効果があるのかもしれないとのコメントがありました。
最後に発表者からは、「何でも大粒の梱包用エアークッションが良いのではなく、他の方では、大粒のものでは圧が高く、中粒の梱包用エアークッションが一番圧が低くなった。実際圧を測りながらどれがよいかを決めていくことが重要だと思う」とのことでした。
相談タイム
穴開きフィルム法
滲出液の多い方に穴開きフィルム法をおこなっているが、うまく滲出液が出てこない。穴の数はいくつくらいがよいのか。また開ける穴はガーゼの大きさか、超えてはいけないのか。との質問がありました。
それに対し、発案者の日本褥瘡学会初代理事長の大浦武彦先生は、フィルムドレッシング材の穴は、創面を超えず、1cm2に10個が基本とのご意見です。また、滲出液の出が悪い時は、穴開けパンチで大きな穴を開けるとのことです。
ただ、私はいい加減なので、穴は創面を超えても関係ないと思い適当に開けています。穴の数も、気が向けばたくさん開け、そうでなければそこそこしか開けません。というのは、私は比較的多く開けることが多いのですが、可なり少なく開ける方もいて、同じ患者で様子をみると、穴の数はあまり関係がなかったからです。
問題はガーゼの使い方です。ガーゼが創面をはみ出すと、ガーゼは滲出液を吸って創周囲皮膚を浸軟させます。また、ガーゼが水分を吸うため、せっかく開けた穴から水分は外へ出しにくくなるようです。さらにガーゼが多くて厚みがあれば、ガーゼによってフィルムが持ち上げられ、そこに滲出的が入ってフィルムがはがれやすくなってしまいます。
ガーゼは原則的に創の大きさを超えません。また極力薄いガーゼとし凹んだ創面であれば、ガーゼが創内に収まるようにします。
もっといえば、ガーゼを使わないで軟膏を創面にとどめられるのであれば、ガーゼは使わない方が良いのです。そのようにすれば、フィルムの穴の範囲は創面を超えてもどうでもよく、穴の数もあまり神経質にならなくてよいでしょう。
穴開きフィルム法では、もう一つ注意点として、油性軟膏は使えません。油性軟膏が皮膚に少しでも残っているとフィルム材は接着できません。併用する軟膏は水溶性軟膏かクリーム剤です。つまり、プロスタンディン軟膏やアズノールワセリン軟膏はダメで、ゲーベンクリーム、オルセノン軟膏、リフラップシート、ブロメライン軟膏、ユーパスタ軟膏、カデックス軟膏などが適しています。ブロメライン軟膏は壊死組織を溶かすために使いますが、これを使う場合は必ずフィルム材で覆う必要があります。ガーゼで被ったりすると吸水作用の強いブロメライン軟膏は創面を乾燥させ、壊死組織を減らすつもりがかえって感想化から壊死組織は増えてしまうからです。
おわりに
今回は、一人の褥創患者に対して、問題点を考え、対策を模索し、その過程では体圧測定などで科学的に裏付けを取りながら、職員皆が納得する方法を提示し、方法を統一して成果を出されていました。質問もおもしろく、素晴らしい勉強ができました。