第63回 「皮膚の保湿、多発褥創のポジショニングは困難」

2012年11月15日

症例検討会

<症例提示>

皮膚トラブル改善に向けて

症例1

80歳代女性。要介護4。身長147cm、体重37.1Kg、BMI 18.3、日常生活自立度 B2、認知症高齢者の日常生活自立度IIIa。
うっ血性心不全、脳梗塞後遺症。左大腿骨頚部骨折でしたが手術は施行せず。
全粥・柔らか菜を全量摂取。来所当時は720Kcalを1000Kcalへ増量。Alb値は3.6。
全介助で移乗。離床時間は7~8時間。夜間はオムツとし、2時間ごとの体位変換をしている。
臀部(尾骨部)にビランが出現し、アクトシン軟膏と亜鉛華軟膏で治癒したが、また再発し、同様の処置をするも治らず、皮膚科受診で、デュオアクティブCGFに変更され、2週間で治癒。その後は予防のためワセリン塗布としている。しかし、またビラン再発した。
この例ではどのようなスキンケアがよいのだろうか。

症例2

80歳代男性。要介護5。身長151.6cm、体重41.6Kg、BMI 18.1、日常生活自立度 B1、認知症高齢者の日常生活自立度IIIb。
脳出血後遺症、右半身不全麻痺。
食事は1400Kcal出ているが、半量摂取で700Kcalしか摂っていない。
自力体位変換は不能だが、夜間に覚醒し、自力で車イスに乗り部屋から出てくるとのこと。
離床時間は20時間以上になる。
右坐骨部付近に掻きむしったようなキズがあり、翌日にはさらに増えて大きくなった。デュオアクティブCGFで、2週間で治癒。その後保護のためワセリン塗布とされました。
しばらくしてキズが再発。プロスタンディン軟膏塗布とされた。
臥床時間を増やすため、エアーマットレスを使用し、まとまった睡眠を取れるようになった。今はワセリン塗布で皮膚の乾燥を防いでいる。

以上のような症例が多いため、日々の保湿ケア、栄養改善が必要と考え、勉強会を実施した。その結果、石鹸、洗剤、衣類に触れることなどで乾燥することが分かった。
予防としては、熱い風呂に長時間入ることを避ける。洗剤の多量使用を避けることなどを行った。
また白色ワセリンは肥厚している皮膚に、親水軟膏は皮膚のカサツキ状態に塗布することにした。また常に尿により皮膚が汚染している場合には、リモイスバリアを使用した。
最近、入浴後10分以内に、ベーテル保湿ローションを塗っている。カサツキトラブルが減ったようだ。
保湿にはどのような軟膏などが勧められるのかお聞きしたいとのことでした。

<ディスカッション>

会場からは、保湿剤軟膏については、40~50代くらいの若い人では、皮脂腺や汗腺の活動があるため、ワセリンのようなベターとした保湿剤でも問題ないが、70~80歳などの高齢者では、汗腺の働きが落ちているため、ワセリンなどを塗布すると汗腺や毛嚢が閉鎖し、かえって皮膚障害を起こしやすいので注意が必要である。
高齢者の方では、魚鱗のようになっていたり、角質がこびりついていることが多く、このような例ではウレパールなどの尿素軟膏が勧められるとのことでした。
会場からは、確かに90歳代の男性で、全身の痒みの強い方にワセリンを塗布したが、湿疹ができた。その例では、内服のかゆみ止めを2週間飲んで湿疹が治った。その後は、ウレパールと市販の保湿剤で維持しているとの発言がありました。
発表者からは、ワセリンからベーテルローションに変えて、皮膚が良くなったとの発言がありました。
その発言に対し、会場からは、全てワセリン、全てベーテルというのではなく、この方は魚鱗癬のような角質だから○○を、この方は白い粉が吹くような皮膚だから○○を、この方は一見普通だが痒みが強いので○○を。など、もう少し分類して選ぶようにできればよいのではないかとの発言がありました。
それに対し、皮膚科の先生が月1回きてくれ、皮膚にあった処方をしてくれている。改善したらベーテルをつけるという使い方にしているとのことでした。

提示した2例は、褥創なのか、褥創でないのか、教えて欲しいという意見がありました。
それに対し、1例は肛門に近い所のビランであり、恐らく尿か便の失禁があり、それに対しオムツを使用し、そのオムツが臀裂に食い込んで、食い込んだオムツが尿などを吸い込んで硬くなり、その硬さで発症したと考えれば、褥創でしょうとの意見でした。
また、もう1例は尾骨部であり、ここは崩れた座位やギャッジベッド姿勢でズレと圧迫が加わる場所である。これは褥創の好発部位であり、褥創でよいのではとの意見でした。

さらに局所療法について質問がありました。
肛門周囲の褥創については、貼りもの(デュオアクティブやハイドロサイト)では尿失禁とズレのある部分には対応できないので、貼りものではなく、油性軟膏がよいのではとのことでした。ここではプロスタンディン軟膏が使われたようだが、それでよいだろう。あとはセキューラPOのような、もう少ししっかりした油性軟膏も勧められるとのことでした。
尾骨部については、圧迫とズレが関与しているので、まずはずレが起きないようにすることが先決。その上で、ズレがあってもスルリとズレを逃がしてくれる、シリコン接着のドレッシング材がよいだろう。ズレが可なり解消されるようなら、ハイドロコロイドドレッシング材も十分使用でき、治癒も早くなるとのことでした。
この例では、車イス離床時間を減らし、臥床時間を増やすことが、結局ズレ防止の役を果たしたようです。その結果、デュオアクティブCGFも剥がれず、治癒させることができたのだろうとの意見でした。

相談タイム

<相談症例>

70歳代男性。うつ病、CO中毒、糖尿病、貧血。
体重45Kg、BMI19.3、Alb値3.1。HbA1c 5.1。
6年前に両大転子部と仙骨部に褥創ができたが治癒。
すぐ後で全身状態が悪化し、寝たきりになり褥創を再発。日常生活自立度 C2。
処置は、ゲーベンクリームにガーゼをあて、尿取りパッドを用いている。車イスでホールに出るが、全く意思疎通できない。
5年間、褥創は良くなったり悪くなったりしつつ治らない。
左大転子部はステージIII~IVでゲーベンクリームを使用し、今はガーゼ無しでオムツ直接にしているとのこと。
仙骨部はステージII程度で治癒したり再発したりしている。ハイドロサイトADジェントルを週2回の入浴時に交換使用しているが、コストがかかって大変というのが悩みとのことでした。
食事はミキサー食全量摂取とのことでした。
質問は、長期間治らないが、局所療法はどうすればよいのかということでした。

会場からは、局所療法を考える前に、特に治らない左大転子部の褥瘡難治化の原因を探すことが先決との意見でした。この部分に圧迫かズレ、あるいは両方が関与している。何しろ現場に行って、先入観無くよく観察し、どこに原因があるのかを見極めることだとのことでした。
例えば、左ばかり向いている、身体が捻れて左ばかりが接触する。車イスがあっていないか、車イスのポジショニングが快適ではなく、ズリズリとずれて左下があたるような格好になってしまう。などしっかり観察する。

局所療法について答えとして、ゲーベンクリームにガーゼをあてパッドをあてるのは勧められない。ガーゼは使わず直接パッドをあてた方が良いとの意見が出ました。
質問者からは、今はガーゼ無しで直接おむつをあてているとのことでした。
さらに会場からは、仙骨部は良いが、左大転子部は壊死組織を伴うポケットが広がっているのではないか。であれば、ズレ対策と体圧分散が行われたことが前提であれば、緊急で切開をした方が良いだろうとの意見が出ました。
病院に外科系、あるいは皮膚科の医師はおらず、他病院を受診しなければならないため、大変難しいとのことでした。
では、ゲーベンクリームではなく、もっと感染創に強いカデックス軟膏かユーパスタ軟膏を使用した方が良いだろうとの意見でした。ただし、カデックス軟膏やユーパスタ軟膏を塗布し、ガーゼのみで被うと創面が乾燥して具合が悪い。小さなガーゼを用い穴あきフィルム材で覆うことが必要と指摘されました。

<相談事項>

会場からは、仙骨部と大転子部など複数の褥創がある場合、その原因を推測して対策をたてる場合、一つの褥創に対する対策でもう一つも改善するのが理想だが、それが普通か、そうとも言えないのかどうかとの質問がありました。
それに対し、実はそこが悩みで、一つの褥創が良くなっても、別の褥創がかえって悪くなったり、ひいては新たに褥創が発症することもある。複数の褥創がある場合、うまくいかなくて悩むことがあり、それが課題との意見が出ました。
複数の褥創ができる場合、それは多くはポジショニングに問題があることが多い。角度や圧力測定など、科学的にやることが推奨されているが、実は「安楽」がキーワードではないかと思う。安楽なポジショニングをすると、患者から力が抜け、身体を硬くしてゴロゴロ動くこともなくなり、複数の褥創も同時に改善していくだろう。
しかし、この安楽なポジショニングが難しく、今も悪戦苦闘している。苦し紛れに移動用シートを敷きっぱなしにして、身体とベッドに働く摩擦を軽減することで、ズレを解消することもしている。
何しろ難しいとの意見でした。
これに対し、会場の作業療法士からは、ポジショニングは担当者が患者さんの所で、「ああでもない、こうでもない」と言いながら、良い方法を探していくのがよいとのことでした。また、これに作業療法士や理学療法士を巻き込み、アイデアを出してもらうことが大切との意見でした。

おわりに

今回は、スキンケア特に保湿ケアについてディスカッションしました。また、長期難治な複数の褥創に対し、まずは原因を特定して対策することの重要性が話し合われましたが、実はポジショニングが関与しており、対策は容易ではないことも話し合われました。