第58回 「在宅で自由気ままもありか」

2012年1月19日

症例検討会

<症例提示>

在宅褥創往診チーム

まず、在宅褥創チームについての説明があり、褥創の訪問診療は医師、看護師、管理栄養士、作業療法士で行っている。訪問診療に先立ち、様子を聞いて問題点を抽出しておく。また、できるだけ訪問診療時には、ケアマネやその他の担当者に同席してもらい、統一したケアが提供できるようにする。情報の共有を図るため、「介護連絡帳」を利用している。訪問診療後も、ケアについて問題がないか聞き、指導や助言をする。
訪問リハビリは、実施計画書を作成して実行している。そして自宅でできる運動やストレッチの指導をする。ポジショニングは、自宅にあるマットやクッションなどを使って指導や助言をする。車イスの選定や調整、背張りの調整や座位姿勢を確認し、フットレストの高さの調整やクッションの選定や調整もしている。

症例

症例は70歳代男性で、要介護度4。脳出血後遺症、糖尿病、右片マヒがある。
仙骨部、右坐骨部、右大転子部に褥創を認め、改善と悪化を繰り返している。訪問診療でチーム介入し、在宅での入浴介助はヘルパーによって週2回行っている。身障者1級を持っている。
家族は全く介入せず、ケアマネが入ってサービスの調整をしている。
栄養は、軟飯とラコール2袋、ビール大瓶2本がメインであり、1200Kcal、蛋白37gとなっている。栄養バランスが悪いため、栄養補助食品のジュースを飲んでもらったが、飽きたとのことで中断している。体重は40.8Kgであった。
今後の課題としては、家族の協力が少ないため、各サービス機関の連携を密にする。蛋白質のアップ。嚥下機能の維持などがあげられた。
以上の提示であった。

<ディスカッション>

以上の発表に対し会場から、「家族が関わらずに創処置は可能であるのか」との質問があった。
処置はデュオアクティブが主であり、週2回の入浴時に交換している。これは訪問看護で行っている。実は毎日ヘルパーが入っており、剥がれた時の緊急貼り替えや軟膏処置は、ちょっとやってもらっているとのことでした。
それに対し、「やっぱりね。局所処置を訪問看護のみでは、無理ですよね」との意見が出ました。

「糖尿病があって、HbA1cが7.7とのことで、血糖コントロールは家族の協力がないとインスリン注射や服薬は難しいがどうしているのか」との質問がありました。
それに対し、糖尿病に関しては内科の医師が経口糖尿病薬を出しており、HbA1cも変動があり、7%台と悪い時もあるが、6%台の時もあり、8%台の時もある。
褥創が悪化する時は、大体値も悪くなっており、「糖尿病をコントロールしないと、このような悪いHbA1cだと、褥創はドンドン悪くなるよ」と説明すると、次回の検査では改善しており、褥創も良くなるという感じだとのことでした。
クッキーなど食べているようだが、食直後にするように話している。しかしアイスクリームやお菓子を結構置いてあるとのことでした。

「糖尿病に良くないと思われるが、男性でありアルコールは止められないのか」との質問に、アルコールが生き甲斐であり、唯一の楽しみのようだとのことでした。
アルコールをとることで食欲が出て、食べるきっかけになるのではないかとの意見に、つまみになるもので栄養を補うものを作ってみたが、余り受けず2回目の要望は出なかったとのことでした。でも、アル中ではなく、たしなむ程度であり、いつもビール2本と決まっているとのことでした。

「アルコール大瓶2本、ラコール2袋では、脱水が心配になる。ノンアルコールビールや酵母の入った飲料などはどうなのか」との質問に、水もペットボトルが横に置いてあり、ちょこちょこ飲んでいるが、量の把握はできなかったとのことでした。

「このような例では、普通は通所介護を入れると思うが、どうか」との質問がありました。
通所は拒否し、週2回の入浴も自宅で、しかもヘルパーによる入浴介助になっている。はっきりと要求を言われる方ですとのことだった。
通所系のサービスは、リハビリや社会参加から勧めているが、この方の場合は、人の中に出ることより自分の部屋で自由気ままにやりたいようだ。家族の方の協力が得られないのも、自分の思うように生活したいことの表れともなっているのだろう。自分の意志をしっかり持っている。
片マヒで歩くこともできず右手右脚が不自由だったら、好きな時に酒を飲み、ケーブルテレビで競輪をみて車券を買い、好きなテレビドラマを見ながら1日を過ごす。部屋の中に必要なものを手の届く範囲において、こういう生活もありかなと思ってしまうとの賛同意見もありました。

会場からは、自分の父も似たところがあり、やっとデイサービスに行くようになった。30年以上前から片マヒがあり、家族も少しだけみるという関係だ。酒を飲むと立ち上がれないので止めろと言うが、それだったら死ぬ方がましといっている。
自分の意志を持っていて、他人からいわれるのが嫌なようだ。しかし自分が次第に弱ってきていることはたぶん自分でも分かっているのだろうとのことでした。

「このようなことは男に特徴的で、女にはないことだろうか」との質問に、私は女だが、お酒は好きであり自分も可能性があるとの意見が出ました。

つまみなども蛋白質のものを入れたり、つまみで体調が良くなったりすれば食事療法がうまくいくのではとの意見が出ました。
同様に、片マヒだから歩けないので、飲むことと食べることが楽しみだろう。理解できるとの意見が出ました。

在宅に関わるまでは「お酒なんて有りえない」と考えていたが、「在宅ではありかな」と思うようになった。リハビリも、本人のいやがるリハビリではなく、60%をめざして、20%や30%から導入したほうが在宅では定着しやすい。機能の更なる向上よりも、現在の機能を維持することが大切なのではないか。との意見がありました。

おつまみ系の話しもあったが、倒れる前はどんなものを食べていたのか調べ、それを勧めるのも良いのではないか。
「食べにくくなった」といわれたことに対し、首や肩などをみると硬くなっており、「首を柔らかくしないと酒も飲めなくなるよ」と言ったところ、自分でも首の運動を開始して実際軟らかくなったとのことでした。
この方の場合、モチベーションは「お酒」なので、それをキーワードに働きかけることが重要だろうとの意見が出ました。

以上、最後は自分に置き換えての、身につまされる意見が多く出て、大変おもしろい症例検討となりました。

相談タイム

<相談1>

予防的フィルム貼付の可否について

褥創を作らないという発想で、昔の病院でエアーマットがあまりないところだったが、フィルム材をベタッと貼っていたが、褥創が発症しなかった。例えば踵に褥創のある例でも仙骨部にフィルムをベタッと貼っていた。このように予防的なフィルム貼付はどう考えるかとの質問がありました。

それに対し、自分の施設でも同様にフィルムを貼っているが、確かに褥創はできにくい。移動や移乗、体位変換などではどうしても一人で摩擦を起こしながらすることになる。そのような時ズレなどによる褥創発症予防には、効果があるように思うと事でした。

反対意見として、ビラン創などに貼ると、貼るのはよいが剥がすのが大変で、脆弱な皮膚は剥離して皮膚障害を起こす。水疱でもフィルムを剥がす時に破れてしまう。ワセリンを塗っておむつをあてるなどの方がよいので、フィルムを貼らず、そのような対応をしてるとの意見もありました。

<相談2>

軟膏の使い分けについて

セキューラPOや、ワセリン、ゲーベンクリームなどの使い分けはどのようなしているのか。との質問がありました。

セキューラPO、ゲーベンクリーム、ワセリン、フィルム、およびキャビロン皮膚保護スプレーやリモイスバリアスプレー等の使い分けにつき、使い分けの考え方が示されました。
皮膚に浸軟が無く、予防的に皮膚保護をする場合、第一選択はフィルム材にしている。しかもなるべく水蒸気の透過性の高いものを選択している。滅菌のものにはIV3000があるが、高価なため未滅菌のロールフィルムである「エアーウオール」を使用する。但し、湿潤環境を作るためには、水蒸気透過性がもう少し低い通常のフィルム材を選択する。今はフィルム材は目的に応じて2種類持っていることが勧められると思う。
皮膚が浸軟しフィルムが貼れない状態の時、ワセリンがよいとの意見もあるが、ワセリンを塗るとサッと広がって、むしろ皮膚はさらに浸軟傾向になる。したがって、ワセリンは基本的に汚染のある創傷には使っていない。そこでセキューラPOを好んで使っている。セキューラPOはワセリンが入っていると思うが、いつまでも皮膚に残り、外部からの水分の多い汚染(水様便や尿)をブロックして皮膚の浸軟を予防してくれる。
皮膚が浸軟し、さらに皮膚感染を思わせる所見がある時、ゲーベンクリームを使用する。皮膚感染を思わせる所見とは、「滲出液が多い時」「毛嚢が赤く腫れている時」が当てはまる。
つまり、感染を疑う時はゲーベンクリームを選択。感染はなさそうだが皮膚が浸軟する、あるいは外部からの水性汚染がある時にはセキューラPOを選択。皮膚の浸軟や水様物の汚染のない部位に、予防的に使う時にはフィルム材を選択する。
だから最終的にはフィルム材をずっと使っていくことになる。という順序である。
また、皮膚が弱い部分にハイドロコロイドドレッシング材やフィルム材を貼る時には、あらかじめキャビロン皮膚保護スプレーかリモイスバリアスプレーを噴霧してから用いると、皮膚損傷の予防になる。
以上の使い分けをしていると話された。

<相談3>

フィルム材の貼付期間

フィルム材を貼って2週間くらい貼りっぱなしになっていて気付くことがあり、どれくらいで剥がすのがよいのか。剥がす時の皮膚損傷を考えると、2週間でも貼り付いているのであれば、そのように長期に貼った方がよいのかとの質問があった。
フィルム材を2週間貼りっぱなしにして剥がれないのであれば、それでよいけれども、実はフィルム材は必要がなかったとも考えられる。皮膚は新陳代謝をしており、大体5~7日くらいすると角質が剥がれてきて、もはやフィルム材は皮膚にほとんど粘着しなくなっている。ここにずれが生じればフィルム材は剥がれてしまう。2週間も剥がれないようなら、ここにズレはなく、したがってフィルム材貼付の意味は薄いであろう。
かといって、期日を決めてまだしっかりくっついているのにルチーンで剥がそうとすると、皮膚損傷の原因になるかもしれない。
皮膚保護の目的で用いるのであれば、5~7日を目安に、実際は個人差があるため、粘着が弱くなったら交換にすればよい。
また剥がす時の方法として、フィルムを180度の方向へはがすと皮膚には比較的やさしい。本当は、0度の方向へフィルムを引っ張りながらがしていくと、フィルムは伸びるが皮膚は伸びないため、皮膚損傷を最小限に抑えながら剥がすことができる。
但しこの方法は時間がかかるため、気の短い人がやると途中でエイッと引張りかえって皮膚を損傷しやすくなる。0度で引っ張る場合は、最後の最後までしっかりこの方法で行わなければならない。気の短い人は最初から180度方向に引っ張りましょう。