第57回 「改善悪化を繰り返す踵部褥創」

2011年11月17日

症例検討会

<症例提示>

改善悪化を繰り返す右踵部褥創

症例は80歳代女性。要介護4で、日常生活自立度はA1、認知症高齢者の日常生活自立度IIbでした。原疾患は、脳梗塞、高血圧、認知症、糖尿病です。夫、次女、3女と同居。
ショートステイの利用が開始となり、ショートステイでの関わりが始まりました。
サービス利用状況は、ヘルパーが週3回、ショートステイが水・木・金、訪問看護が月2回。
ショートステイでは、高血圧食で、キザミトロミ食、主食は軟飯で、1500Kcal、蛋白60g、水分1200mlです。自律摂取可能です。
尿はバルーン留置ウリナアールでの間欠排尿です。紙おむつと尿取りパッドも装着。便失禁しており、時に摘便も行われます。
週1回シャワー浴。以前バルーンカテーテルの自己抜去があったことから、つなぎ服着用。
寝返りはでき、また車イス座位も可能。
褥創は右踵部にあり、当初は黒色痂皮となっていました。少しずつ改善していましたが、2ヶ月後くらいに、左上腕骨の骨折が判明。ちょっと時間が経っているとのことでした。
5~6ヶ月後には、褥創はかなり改善し一旦治癒しました。しかし、すぐに再発し、現在は白色の硬い壊死に被われています。
治療をどのようにしたらよいか分からず、相談したいとのことでした。
またショートステイでは、創の観察・処置を統一するようにするものの、うまく伝わらず、さらに他の施設に対しては、より伝わらない。介護連絡帳に書くようにし、情報を伝えるように努めているとのことでした。

会場からの質問

麻痺はあるのかとの質問に対し、左手が麻痺しているとのことでした。
本人は帰宅願望が強く、時に車イスを自分で操り後ろ向きにこいだり、立ち上がろうとするとのことでした。移動などは介護者が行っているとのことでした。

拘縮はあるのかとの質問に、ベッド上では下肢は伸展しており、屈曲拘縮はないようでした。現在は足は動かさないとのことでした。ショートステイでは、興奮して大声を出すこともあり、ほとんど車イスに乗っているとのことでした。

体圧分散寝具についての質問がありました。初めはプライムレボを使っていましたが、7ヶ月後から施設で大量に購入した「アクアフロート」(中心がゼル状になっている)を使っているとのことでした。
ベッドはギャッジアップはせず、食事は3食ともデイルームで食べているとのことでした。

褥創発症の原因について話し合われ、車イス座位での踵圧迫ではないかとの意見が出ました。会場からは、車イスが原因であれば、尾骨や坐骨部にも褥創があるのではないかとの質問がありましたが、踵のみに褥創があるとのことでした。
車イスに乗っている写真では、踵のある靴を履いており、この靴を履いているのであれば、車イスによって踵の先端部に褥創はできにくいのではとの意見が出ました。

糖尿病があるとのことから、糖尿病性の末梢神経障害により、踵の褥創が発症しても痛みがないため、改善しないのではないかとの意見が出ました。それに対し、処置の時痛みを訴え末梢神経障害は考えにくいとの返答でした。糖尿病のコントロールに関しては、全くデータをもらっていないため分からないが、申し送りではコントロール良好とのことでした。
糖尿病の神経症による靴擦れではないかとの意見が出ましたが、この部位に靴擦れはおきにくいのではという意見も出ました。

会場から、ショートステイでの発症の話しばかりだが、家での発症も検討した方が良いとの意見が出ました。家で車イスを使っているのかとの質問に、分からないとのことでした。
もし、車イスを家でも使っているのであれば、家の中で靴を履くことは考えにくく、裸足かスリッパで車イスに乗っている可能性があります。そうであれば、このような踵の先端部の褥創は、むしろ必発ではないかとの意見が出されました。
家でベッドに寝たきりは考えにくいので、車イスを使わなくてもイスに座っているのではないか。その場合も踵にズレと圧迫が加わる可能性が高いとの意見が出ました。

会場からは、車イスのサイズが合っていないため、ずれて横座りになり、それが自分の好きな体位になっているのではないか。そしてその時に圧迫とズレが起こるのではないかとの意見が出されました。
対策として、クッションなどを使って姿勢を正してはとの意見が出ました。
車イスはレンタルなのだから、車イスを生活用のものにし、サイズも合わせて快適に座れるようにした方が良いという意見が出ました。
取りあえず、クッションを踵の部位に用いて、圧迫とズレの解除を図ることが提案されました。

処置について質問が出されました。
アクトシン軟膏を使っていたが、今はガーゼをあててフィルム材で覆っているとのことでした。
処置する時に前のドレッシング材はずれていなかったかとの質問が出されましたが、意識しておらずはっきりしないとのことでした。
アクトシン軟膏は水溶性軟膏でかなり水分を吸うので、このような乾いた状態では創面がさらに乾いてしまうため、勧められないとの意見が出ました。

在宅にいる時、テレビなどの方向が同じで、いつも同じ方向に向いているのではないかとの質問がありました。また、そうであれば、逆の方向を向くように工夫すればよいとの意見が出ました。
ベッドは壁につけていることは確認しているが、同じ方向を向くかどうかは分からないとのことでした。

なにしろ、踵には圧迫とズレがかかっており、家族と相談し原因を予想してみることが勧められました。
また会場からは、車イスの変更が改めて勧められました。しかしショートステイには、PTやOTがいないとのことでした。
理学療法士か作業療法士のいる大きな病院を受診し、車イスの選定をしてもらうことが勧められました。また、車イスが来た際にも受診し、調整してもらうことも勧められました。いずれも、ケアマネに相談し計画することも勧められました。

発症者からは、局所療法がどうすればよいかとの質問がありました。
創面は乾いており、湿潤状態を保つ方法が勧められました。具体的にはゲーベンクリームに穴開きフィルムの貼付が提案されました。他からは、ゲーベンクリームを塗布した上から直接吸収パッドで覆うことが提案されました。これによってクッション効果も期待できるとのことでした。

相談タイム

<相談1>

過剰肉芽ができてきた殿部褥創

80歳代男性で、寝たきりの方。自宅のベッドからずり落ちたが、家人では重くて持ち上げられなかったとのことで入院となったようです。骨突出のない臀部に3×4cmの褥創があり、治癒しないとのことでした。
当初ゲーベンクリームに穴開きフィルムを貼り、尿取りパットをあてていたとのことです。ホコホコの浮腫状になったため、薬局に効いたところ、フィブラストスプレーのサンプルをくれたとのことです。これにデュオアクティブを用いたところ、浮腫は消えたが、とろとろになって出血しやすくなり過剰肉芽もできてきた。これが今日の写真とのことで、持参されました。
高機能エアーマットを使っているとのことでした。

会場からは、肉芽の色は良くこのまま続ければよいのではとの意見が出ました。
しかし、他からは、肉芽の中に出血があり、また中に線が入っており、色も悪いところがある。さらに肉芽表面に白い壊死が付いているところもある。
これらを総合すると、いろいろな方向からズレが発生しており、創縁が肉芽の上に重なっていることが想像される。
これらのズレは体位変換時のポジショニング枕の入れ方が悪く、ズレとなって創面に影響しているのではないかとの意見がありました。

デュオアクティブは創面を含め大きくあてないと剥がれてしまうとの意見が出ましたが、この方は10×10cmのものを使っており、ちょうどよい大きさとの指摘がありました。ドレッシングは3日間持つとのことでした。
会場からは、ハイドロサイトのように吸収力のあるものがよいのではとの意見もありました。

この方の栄養について質問があり、胃瘻から1000Kcal入れているとのことでした。
会場からはこれに対し、145~150cm位の人ならそれでよいが、もう少し大きければ1200Kcal位は必要なのではないかとの意見が出ました。
また、この方は重くて体位変換も大変とのことでしたが、1000Kcalで重い状態は考えられないとの意見も出ました。

まとめとして、今の局所療法でよいが、ハイドロサイトなども試してみること。
ズレが関与していると考えられ、体位変換のあとには、除圧グローブなどを用いて圧抜きを毎回することが勧められました。

<相談2>

フィブラストスプレーの適応創は何か

「フィブラストスプレーは切開創などで有用なのか。糖尿病などの創部に使うとよく治るが、適応はどのように考えればよいのか。どのような創でもよいのか。」との質問でした。

フィブラストスプレーはグロースファクター製剤で、グロースファクターのバランスが崩れ治りにくくなった創面に使うと効果があります。グロースファクターは創傷治癒に必要な細胞を創面に遊走させ、その細胞の増殖を刺激する高分子の糖タンパクです。
切開創など新鮮創では、グロースファクターのバランスは取れており、使って害はなくても、治癒促進効果は期待できません。
逆に難治創であっても、感染していたり、壊死組織があると、それ自体が創治癒を遅延する大きな要因であるため、グロースファクターを投与しても効果を発揮できず、まずは感染をコントロールし、壊死組織を除去することが優先されます。
このように感染がコントロールされ壊死組織が除去された状態、つまり肉芽で被われた慢性創にフィブラストスプレーを投与すると、肉芽増殖と表皮化促進が期待できます。
熱傷においても、治癒が遷延しているような状態の時フィブラストスプレーは効果を発揮します。新鮮熱傷に使って効果があるかどうかは、何とも言えません。慢性創に移行するタイプ(先にならないと分からない)では有効でしょうが、速やかに治癒が進むタイプでは使っても変わらないでしょう。治りが悪そうと考えれば、使えばよいのではないでしょうか。