症例検討
症例1.フィルム材で悪化する褥創
症例は90歳代女性で、障害高齢者の日常生活自立度はC2、認知症高齢者の日常生活自立度はMで、要介護5の方です。12年以上入院されていたとのことです。
55年前に子宮癌の手術、20年前に直腸癌の手術をされています。18年前に老人性認知症と診断されました。
筋力の低下がみられるようになり、関節拘縮も強くなってきました。5ヶ月前に誤嚥性肺炎になった時から、食事量が減り、褥創を発症しました。
3ヶ月前から、褥創に対し、ワセリンにツッペガーゼを用いオプサイトでカバーされました。その後、ゲーベンクリームにツッペガーゼ、オプサイトを用いられました。
2ヶ月前に褥創周囲皮膚に至る広い範囲にびらんが起こり、オプサイトの使用を中止し、ゲーベンクリームに亜鉛華軟膏を重ね塗ったり、ワセリンに亜鉛華軟膏を重ねて塗ったりされました。
この方法で良くなったり悪くなったりを繰り返しているようです。最終的にワセリンと亜鉛華軟膏を用いた後に直接おむつをあてるようになっているとのことでした。
当初全粥にしていた所、体重は減り28Kgになったようです。その後経管栄養で900Kcalと+水800mlを摂っているとのことでした。現在体重は36Kgになっているとのことでした。
体圧分散寝具はウレタンのオムニマットを使用中で、血液データは WBC 6600, TP 8.7, Alb 4.5 でした。
時々唾液による誤嚥性肺炎を発症しているようです。
症例2.亜鉛華軟膏での改善例
80歳代女性で、障害高齢者の日常生活自立度はC2, 認知症高齢者の日常生活自立度はMで、要介護度は5です。2年前からアルツハイマー型認知症と診断されています。その他、心不全、高血圧、甲状腺機能低下症の既往があります。
褥創は尾骨部にあり、ステージ3で、ゲーベンクリームやスクロードパスタが使われました。良くなったり悪くなったりを繰り返しているようです。
今、ワセリンと亜鉛華軟膏を用いているが、これを使わないと悪化し、良くなるのに3ヶ月くらいかかるとのことでした。
経管栄養で、1600Kcal、水分1300mlを摂っているとのことでした。膀胱にはバルーンカテーテルが入っており、体圧分散寝具はモルテンのアドバンを使用中です。
血液データは、TP 6.4, Alb 3.4とのことで、身長150cm 体重34Kgとのことでした。全体的に筋肉が脱力してダラーとしているとのことです。
症例3.重ねオムツの例
80歳代女性で、日常生活自立度はB2、認知症高齢者の日常生活自立度はMで、要介護度4です。2年前から認知症があり、収集癖や、異食症があります。拘縮が強く、2.5×1cmのステージ2褥創が左腸骨部にあります。この部をすぐこするため、良くなってもまた悪化するとのことでした。
対策として、Mサイズのオムツを2枚重ねた上からLサイズのおむつをあててしっかり留め、こすっても創部にまさつが働かないようにした所、治癒の状態を保っているとのことでした。
こすらなければ、ワセリンのみで1週間で治るが、その後オプサイトを貼って保存的処置をすると、かゆいのかこすって悪化するとのことでした。ワセリンのみではこすらないとのことでした。
栄養は1700Kcal、タンパク70gです。
ウレタンのオムニマットを敷くと、たこ焼きと言ってマットをちぎって食べるとのことです。シーツや布団など全てのカバーを外し、オムツや衣類も外してしまうので、ツナギにしているとのことでした。
以上の症例提示に対し、「ワセリンと亜鉛華軟膏を用いているが、包帯交換時に除去するのが大変ではないか」との質問がありました。
それに対し、薄くつけると取るのは大変ではないとのことでした。具体的には、下にまずワセリンをつけ、上に亜鉛華軟膏を薄く綿棒でつけると良いとのことでした。
良くなってから止めると、ずれて滲出液が出てくることがあるので、治った後も軟膏を塗っておくと悪化予防になるとのことでした。特に皮膚がかさかさになっている時に良いとのことです。
症例1のお尻は、オムツかぶれのようだがと言う意見がありました。
それに対し、ゲーベンクリームの上から亜鉛華軟膏を塗ったら良くなったとのことでした。
これは褥創かとの意見に、オムツかぶれかもしれない。オプサイトを大きく貼っていたら、その下全てがただれてしまったようです。
臀裂のところにオプサイトを貼ると、却ってその下に尿や便が貯まり、何もしないよりも皮膚に悪い。最近は臀裂部の褥創にはフィルム材の使用はやめて軟膏のみにしているとの意見がありました。
それに対し、その通りで下に入っていきやすく悪化してしまうとの賛同がありました。
これらに対し、原因は別にして、この部分の皮膚は細菌感染か、真菌感染ではないだろうか。皮膚感染に対し、ゲーベンクリームの塗布は効果的であり、それでこの例では良くなったのではとの意見がありました。
また、臀裂部にフィルムを貼る場合、以前は臀裂を引っ張って平坦にしてフィルムを貼っていたが、これではやはりフィルムが浮き上がってはがれてしまう。今は、臀裂部にフィルムの角が来るように、つまり菱形になるように貼っている。このようにすると臀裂が横に引っ張られても引っ張られなくても、フィルムには影響なく常に皮膚にくっついているのではがれないとの意見がありました。
亜鉛華軟膏がよく使われているが、良いのであればその機序を教えて欲しいとの意見がありました。
それに対し、「亜鉛は昔から創傷に有用と使われている。静脈うっ滞性下腿潰瘍に対しても、亜鉛ゼラチンを含ませた包帯で巻く方法(ウナブーツ)が西洋では第一選択で使われていた。またストーマケアでただれて苦労したストーマ周囲皮膚に対し、亜鉛含有のテープが西欧で市販されている。自分も患者に使ってみたが大変良かった。作用機序はよく分からないが、確かに亜鉛は創傷治癒に有益だという印象を持っている」との意見がありました。何か酵素的な作用があるのかもしれません。
亜鉛は有用だとしても、皮膚に付いた亜鉛華軟膏を取るのが大変だが何か良い方法はあるのかとの質問に対し、植物油脂で取るのがよいとの意見がありました。
例えば、ベビーオイルやオリーブ油などが勧められました。サニーナなども良いのではと思われました。
症例3についての質問もありました。
皮膚が乾燥しているように見えるが、老人性の皮膚そう痒症ではないかとの質問があり、ワセリンのような油性の保湿剤を塗ることで痒みが無くなったのではないかとの意見がありました。
同様に、抗ヒスタミン剤の内服が良いのではとの意見がありました。これに対し、抗ヒスタミン剤は眠くなるので、夜飲んでもらうとよく眠るので痒み対策と同時に睡眠にとっても良いのではとの賛同意見がありました。
過去の経験の中で、ポケットを形成した褥創の方で痒みからかオムツに手を入れたり体をずらしてばかりいて、結局ポケットは治らず転院していった。縛っちゃいけないし、有効な意見を聞きたいとの質問がありました。
オムツいじりに対し、綿の軍手にスポンジを入れて握ってもらうと、汗も吸収し気持ちいいのかオムツいじりもせず落ち着いておられたとの意見がありました。
症例提示の方からは、症例3の例では、下半身は強い拘縮があり動かさないのだが、両手は細かい動きもでき、ひもも結んだり外したりできることから、ミトンなどは無理であり、また手でスプーンを使って食べることもでき、抑制は考えられないとのことでした。
オムツに手が行く時は、オムツが不快の場合がある。この例では、いつオムツに手が行くのかとの質問がありました。
それに対し、寝る前と朝方5時頃が多いとの返事でした。
それに対し、その時には弁か尿をたっぷりとしているのではないかと聞いた所、確かに尿がたっぷりと出ていたとのことでした。
夜間に尿を3回くらいして尿取りパッドがあふれんばかりとなって不快になっているのだろうから、尿取りパッドは止めて、3~4回の尿を十分吸収するオムツのみにした方が快適ではないかとの意見が出ました。
それに対し、ユニチャームの方の講習を受け、また尿量の調査をし、十分吸収する尿取りパッドとオムツのベストな組み合わせを考えて個別に対応しているとの意見でした
しかし、尿取りパッドでは、夜間の尿全てを吸収させるためには、結構大きめのものが必要であり、かつ大量の尿を吸った尿取りパッドは大変不快と考えられる。やはり、ここは尿取りパッドとの組み合わせにこだわらず、アウターのみにしてはどうかとのすすめがあり、試してみることになりました。
相談タイム
相談1
80歳代くらいの男性で、仙骨部にポケットを伴う褥創があり、内部に腱が見えている。局所療法はどうしたら良いかとの質問でした。
栄養は経管栄養をしていたが、誤嚥性肺炎になってから褥創が進行したため、IVHでの栄養に変更になっている。1300~1400Kcalの投与を行い、アミノ酸も入っているとのことでした。
これに対し、やはり問題は栄養だと思うので、しっかりと栄養の内容を確認することが勧められました。それに対し、フルカリック3号とビーフリードが使われており、栄養的には問題ないとされているとのことでした。
しかし、栄養的には、経口栄養が最も勧められ、次に経腸栄養で、IVHでの管理をすると、腸管も使われないため、意識状態が悪くなりボーとなっているのではとの質問がありました。そうだとのことでした。
体圧分散寝具について質問があり、薄めのエアーマットレスとの返事でした。まずはしっかりしたエアーメットレスでの体圧分散が勧められました。
原疾患についての質問があり、脳梗塞後遺症で寝たきりとのことでした。
局所療法に関しては、難治のポケットがあるのなら切開開放が好ましいのと意見が出ました。
それに対し、ゲーベンクリームにオムツ使用で対応しているが、ポケット部分の皮膚は失われて、今はポケットがほとんど無くなっているとのことでした。
壊死組織の状態と骨が触れるかとの質問に対し、白色の壊死組織があり、骨は触れる。また熱発はなく、あまりいたがらないとのことでした。
その情報により、骨髄炎にはなっていなさそうだが、骨膜の壊死はあるようで、あまりよい状態ではないようだとの意見でした。
また、コストはどうなっているのかとの質問に、処置費用は介護費に含まれており、薬剤費は請求できないとのことでした。
ゲーベンクリームを塗布してガーゼ処理する場合は、大量にゲーベンクリームを使わないと効果が期待できないことより、少量でよいカデックス軟膏を薄いガーゼにつけて創部に用い、その上から穴開きフィルムを貼っての処置の方がコストを安くできるかもしれないとの意見が出ました。
いずれにしても、高機能エアーマットレスの導入と、投与栄養剤の検討が勧められました。
相談2
低温熱傷でも初期に氷冷が勧められるのか、またどれくらいの時間行うのかとの質問がありました。また、低温熱傷の写真では水疱が見られないが、水疱がない時、低温熱傷を疑うのかとの質問がありました。さらに水疱のある熱傷では大量の滲出液が出てデュオアクティブはすぐ溶けてしまうがどのように使うのかとの質問がありました。
まず、低温熱傷も初期は水疱などの症状で発症する。しかし、痛みもあまりなく軽く考えるが、次第に悪化し広がってきてびっくりして受診すると考えられる。症例でも受傷からしばらくたってからの受診になっているとの返事でした。
低温熱傷では、組織障害はすでに深部に及んでおり、「直接作用」の段階よりは「続発作用」の段階となっており、受診してから冷やしてもあまり効果は期待できない。あたかも一見軽くみえる褥創でも、すでに皮膚だけではなく皮下組織も障害を受けており、エアーマットレスを導入しても、ステージ3以上の褥創となり、それが1~2週してからはっきりするのと類似の経過を取るのだとのことでした。
一般的な熱傷は、受傷後早期に来院されるため、まだ「続発作用」を防げる段階だ。したがって氷冷によって次々と起こる続発の炎症反応をストップさせることが大切だ。恐らく30分くらいでは不十分で、2時間くらいの氷冷が必要と考えているとのことでした。
氷冷の方法は、ビニール袋に氷と水を入れ、患部のみを冷やすとのことで、冷たくて痛くなったらちょっと離し、また再開するを繰り返すとのことでした。
水疱のある熱傷では、基本的にデュオアクティブなどのハイドロコロイドドレッシング材の貼附を基本にしているとのことでした。ドレッシングは貼りっぱなしとし、水疱が破れなければそのまま1週間程度貼りっぱなしにすることもあるとのことでした。
組織障害が深いと水疱はすぐに破れ、またそうでなくても1週間以内に自然に破れてドレッシング材のわきから滲出液が漏れ出すので、その段階で貼り替えをする。
貼り替えた後は、滲出液が多いため毎日の交換が必要になる。しかし、1~2週間以内に表皮化が始まり、それにつれて毎日交換しなくて良くなっていくとのことでした。
さいごに
今回の症例提示は、フィルム材で悪化したり、亜鉛入り軟膏が良さそうとか、オムツの使い方についても問題などいろいろな意見が出ました。
質問タイムでは、なかなか改善しない褥創や、低温熱傷に関する質問が出ました。
今回も広い面からの質疑ができ、大変勉強になりました。