第52回 「軽症だが難治褥創と姿勢保持」

2011年1月20日

<症例検討>

1.治るようで治らない褥創

施設では、褥創の局所治療としては、ラップを用いテープで留める方法を標準にしているとのことでした。
症例は90歳代男性で、障害高齢者の日常生活自立度はC2、認知症高齢者の日常生活自立度はIIIaで、要介護4の方です。多発性脳梗塞後の方で、左半身不全麻痺があり、下肢の強い拘縮のため丸くなっておられます。
左腸骨部に3×4cmの褥創があり、洗浄の後、1日1回ラップを交換し、ミリオンエイドテープで固定しているとのことです。食事は全粥1500Kcalを全量摂取しているとのことです。
体圧分散用に,モルテンのルフラン(ウレタン製)を使用。血液データはAlb 2.3、Hb 9.2です。体位をとっても、すぐにマヒ側の左を下にして右手で柵につかまっているとのことです。
写真ではステージII程度に見えましたが、ずっとこのような状態で悪化したり、このように改善した状態になったりを繰り返しているようです。

質問は、「ずっと治らないがラップ療法でよいのか? と、ケアをする方から質問され困っている」とのことでした。

これに対し、エアーマットレスなどの導入が勧められましたが、ふわふわしていやがるとのことでした。しかし、寝具のルフランは褥創治療用ではないので、もう少し厚いウレタンマットレスにしてはとの意見がありました。

また、左向きで外を見ているとのことばがあったことより、右は楽しい風景がないようなので、ベッドを180度回して、右向きになると外が見えるようにしてはとの意見がありました。

ポジショニングの工夫として、麻痺側を挙げると不安が強くなるのが一般的ですが、麻痺側である左側にクッションを入れて少し右向きにするとともに、その時下になる右膝の下などにもクッションを入れて安定するようにしてはとの意見がありました。

これらの意見を試してみるとのことでした。

2.仙骨部の治らない褥創

90歳代女性で、多発性脳梗塞で寝たきりとなり、呼名にも応じないとのことです。C2、IVで要介護5とのことです。仙骨部にステージII褥創があり、ラップを貼ってテープ固定し、毎日交換しているとのことです。
エアーマットはケープのスタンダードを使用しています。
PEGが入っており、CZ-Hiを(400-100-100)900Kcal投与し、水分は1420mlにしているとのことでした。血液データはAlb 3.4,Hb 8.7でした。「どうすれば治るか」との質問でした。

仙骨部の薄皮が1枚はがれることを繰り返しているとのことでしたが、これはPEGの注入時に圧とズレが加わるためだろうとの意見でした。PEG挿入時は30度にギャッチアップしているとのことでした。

「麻痺があるのか」との質問に、上下肢が拘縮しており動かさないとのことです。また丸まった状態とのことでした。

ラップの端をテープで留めていることに対し、別の方から自分たちもラップを使っているが、ワセリンを塗ってラップをしてテープで留めると皮膚が蒸れるので留めないようにしている。皮膚が浸軟してぺろっと皮膚がむけるのではないか。との意見がありました。
また、このような例ではラップを用いず、ワセリンやゲーベンクリームを塗布し、直接おむつをあてた方が良いのではとの意見がありました。

この発表ではワセリンを用いずにラップを貼っているだけなので、それほど蒸れないのかもしれない。ラップと皮膚の間で、多少の摩擦やズレがあってもラップが少し動いて解消してくれているのかもしれないとの意見がありました。さらに、最近このようにズレのある浅い褥創に対し、ハイドロサイト薄型やメピレックスボーダーを貼ると、ズレを微妙に吸収してうまくいく例があるとの意見がありました。さらに在宅や介護施設ではこれらの創傷被覆材は使いにくいので、ガーゼと同じ扱いのアルケアのエスアイエイドが同様のズレをうまく吸収してくれるとの意見がありました。しかし、エスアイエイドもそれほど安いわけではなく、難しいかもとのことでした。

結局、ワセリンなどの油性軟膏をたっぷり用い、直接おむつをあてる方法と、今の方法、およびラップを用いてテープ固定しない方法を行い、最も良い方法を選ぶのがよいだろうとの結論になりました。

栄養に関して,PEG注入中のギャッチアップが褥創の原因と考えられるので、CZ-Hiの注入量を200mlずつにすればよいのではとの意見が出ましたが、現場の都合があるようだとのことでした。また、半固形化をしてはとの意見がありましたが、勉強不足との返事でした。それに対し、施設の管理栄養士に相談すると半固形化を試みてくれるかもしれないとの意見もありました。

3.左臀部の難治褥創

80歳代の女性で、C2、IVで、要介護5の方です。脳挫傷、外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫などで寝たきりになり、自力体位変換ができないとのことです。左臀部にステージIかIIの4×2.5cmの褥創があり、ガーゼ保護のみで1日1回交換しているとのことでした。しかし、便などで汚れるとガーゼも交換しているようでした。
栄養は、PEGからCZ-Hi 1000Kcal(200-400-400)が入っており、血液データは Alb 3.4、Hb13.4とのことでした。
トライセルが使われており、体交枕3個使っているとのことでした。
当初イソジンシュガー + ガーゼを使い、3カ所あった褥創は1カ所となり、乾燥したのでガーゼのみとしているとのことでした。ガーゼをはずすとビランして悪化するとのことでした。

これに対し、オムツの中のキズとのことで便や尿が付着して皮膚がいたむのではないかとの質問に、そうだとのことでした。フィルム材を貼るとかぶれるので使えないとのことでした。
便や尿による皮膚のビラン対策が必要なので、ワセリンなどの撥水性の軟膏を多めに塗布してガーゼを用いない方法が勧められました。その際、硬めで持ちの良いセキューラPOも勧められました。

臀部で骨突出のない部位とのことでしたが、体位保持の時に横方向に強いズレ力が働き、その部位が骨突出部に移動していないかとの質問がありました。それに対し、やせて皮膚の動く方なので可能性はあるとのことでした。
そうであれば、スキンケアの問題だけではなく、体位保持後に圧抜きを必ず行うようにしてはとの意見がありました。

相談タイム

  1. 治らない褥創があたったとき,介護士が「何ができているの」「なぜ治らないの」「ポジショニングが大切と分かるが具体的にどうしたら良いのか分からない」と聞かれ、どうすればよいか困る。との質問がありました。
    それに対し、褥創の治療と言うより、結局スキンケアが一番大切である。褥創ができてからではなく,褥創ができにくい皮膚を作ることが大切ではないかとの意見がありました。
    その際、「お風呂ではゴシゴシ洗わない」「石鹸は首回りと脇の下、会陰部などのみに使い、他には使わない」などが重要との意見が出ました。ゴシゴシ洗うと皮脂が取れて痒みの原因になってしまう。入浴後できるだけ早く皮膚に潤いを与えるよう保湿剤を塗ることが勧められました。
    同様の意見が出て、石鹸などを使い入浴すると皮脂が取れるが,入浴直後は角質に水分が一番多く、すぐに(30分以内)に保湿剤を全身に塗ると、水分が閉じ込められて,長いと1日水分の多い皮膚が保たれるとの情報が提示されました。
    さらに、保湿剤として、ワセリン4,ウレパール3、レスタミン3の比率で混ぜ、100グラム程度の軟膏を使用しているが、大変都合がよいとの意見が出ました。
  2. エアーマットを使わない介護が提唱されているが、これはどうか との質問がありました。
    それに対し、エアーマットに頼るのではなく、正しいポジショニングをして、全体で圧を分散する方法が提唱されています。しかし、この方法を行うには大量のポジショニング枕が必要で、かつ技術も必要です。コストもどちらかというとエアーマットよりもかなりかかることを知っておいてください。しかし、自分がされる場合どちらを選ぶかと言われれば、よいポジショニングをしてもらう方法を選びます とのことでした。
  3. 施設での技術や知識を高めるのにどうしたら良いかとの質問がありました。
    それに対し、何と言っても院内研修が重要で、勉強会を繰り返すことだとの意見が出ました。日本在宅褥瘡創傷ケア推進協会ではコアスタッフを募集しており、コアスタッフになると「床ずれケアナビ在宅版」という本の内容をパワーポイントにし、その解説も付いたCDを貸し出してもらえる。それを使って院内研修をすれば力が着くとの話しがありました。
    なお、そのCDは北陸地区では高岡駅南クリニックが管理しております。
    是非会員となり、コアスタッフの申請をし、CD貸し出しを申し出てください。
    また、「高岡駅南クリニックから車で30分程度の地域であれば、介護施設などの施設研修に、夜出張で講義をします。講義料は3000円でお受けします。」と高岡駅南クリニックから提示しました。
  4. DESIGN-Rでは急性期に使えないとなっているが、待ってから使うのかとの質問がありました。
    それに対し、DESIGNは外部からの肉眼的な判断になっており、急性期には見えない部分で褥創が進行している場合があり、DESIGNで点数が低いから危険性が低いとは言えない。そこで「使えない」という表現になっているのではないか。「使えない」のではなく、DESINGの値のみを絶対視してはいけない。と読んだ方が良く、急性期はもちろん慢性期でも、DESIGNの値のみで評価するのではなく、全体的総合的な視点が常に必要との意見が出ました。
    結論として、急性期・慢性期にかかわらず使用して良いだろうとの意見でした。
  5. 現在何の創評価もしていないが、DESIGN等の評価法を導入した方が良いか。しかし、導入を提案しても賛同されるとは思えない。との意見がありました。
    創の経過をみていく時は、何らかの評価をしながら行う必要があるとの意見が出ました。しかし、その評価は全ての褥創患者に実施し、かつ継続していける方法でないと意味がないとの意見でした。
    例えば、メジャーを入れてデジタル写真を撮るのみで、経過表にベタベタ貼っていくだけでも良いのではとのことでした。さらにそこに、感染徴候有りとか、どのような壊死組織があるとか、臭いがあるとか、等のコメントを書き足せれば、もっと良い経過表になるだろうとの意見でした.その結果、これだったらDESIGNやPSSTをつけようかと全員が思えばもっと良いだろうけど、介護施設や在宅では、そこまでは無理だろうとの意見でした。
    別の方から、デジタル写真は良いけれど、どこを取っているのか分からない局所のみのが多すぎる。全身の写真が必要で、そうすれば、拘縮の程度や、表情、姿勢、やせ具合など、後からみても一目瞭然である。できれば最初だけでも真っ裸にして全身の写真を撮ることを勧めますとのことでした。また全身や局所など何枚でも撮っておくことが重要との意見でした。
    そこに、たくさん撮るとファイリングの工夫が必要になる。ファイリング法も是非考えながら撮ってくださいとのコメントが入りました。

さいごに

今回は、重症ではないものの治りにくい褥創の提示がありました。それに対し、局所療法のアイデア提示もありましたが、姿勢保持や体圧分散用具、栄養面からのアドバイスが目立ちました。
相談タイムでは、スキンケアの重要性が強調されました。また、体圧分散の問題、教育や評価の問題などの質問も出ました。