第51回 「経口栄養と胃瘻:嚥下評価とケアの心構え」

2010年11月18日

<症例検討>

在宅での嚥下評価と訓練、胃瘻の位置づけ

褥創の訪問診療は、医師・看護師・管理栄養士がチームを組んで行っている。最近嚥下内視鏡検査による嚥下評価を開始した。医師が内視鏡を操作し、看護師が全身の観察と介助、管理栄養士が食品を口に運んで食べてもらった。
嚥下障害があった場合、管理栄養士が食事の姿勢のとり方を考え、肩や首などのマッサージを行い、食品を使った嚥下訓練を担当した。食品を使った嚥下訓練は、歯科の五島先生考案の、棒付き飴やスルメを使った方法を用いた。これらの方法は飽きが来ない。まず匂いで食品と気付いてもらい、食欲を出してもらう。口に含んで舌や頬などを刺激し、唾液分泌を刺激する。これらを食事前1~2分行ってもらっている。
嚥下内視鏡検査は6名に行った。在宅で胃瘻から栄養をとっている方では、食事ができることがわかったが、家族が口からの食事摂取を望まず、デイサービス時での投与を依頼したが、施設でも賛同を得られず、実際の食品摂取には至らなかった。
このような嚥下訓練や評価をするようになり、口の中に興味を持つようになると、歯の治療を要する方が多くいることに気付いた。そして訪問歯科治療を依頼するようになった。
訪問歯科診療によって、口腔ケアや入れ歯の修理など、いろいろな連携が始まっている。

これらの発表に対し、胃瘻が作られ経口摂取していない人では、食べる意欲が無く、嚥下リハビリなどをしても、認知能力がなければ訓練も拷問のようで、苦痛以外の何者にもならないことがある。
認知能力が低下した人では、特に顕著である。との意見がありました。

また、嚥下内視鏡検査自体も誤嚥を起こす危険があり、VEの結果で食事を始めると、それが誤嚥性肺炎という結果をもたらす危険がある。と言う意見もありました。

さらに、胃瘻を作る患者の場合、反復性の誤嚥性肺炎を繰り返すような人である。このような方では、すぐに胃瘻を作れないくらいに衰弱して低栄養状態になっており、まず経鼻胃管で栄養状態を持ち上げ、ようやく胃瘻を作れる状態になる。とても食事を口から食べるような元気はない。との意見でした。

それに対し、栄養状態が低下して強制的な栄養で栄養改善しなければいけないような状態になる前で、「この頃よくむせる」などの時期に嚥下内視鏡検査などを行い、誤嚥しない食形態のものを摂り、嚥下訓練で嚥下能力を改善することが正しいのだろう。また、胃瘻を作って栄養状態が良くなったら、そこで嚥下内視鏡検査による評価をして、食事が摂れるのか、どうすれば取れるのかを調べることも意義があるのではと意見が出た。

ここで、在宅などでも本人が食べる意欲がない場合、どのようにすれば食べる意欲が出るのか、そのような経験があれば教えてほしいという質問が出た。

それに対し、胃瘻を作った患者が在宅へ帰ったとき、主治医は食べてはダメと言ったが、本人は食べたく、家族も食べさせたかったので、責任は家族が持つとして本人が好きなものを食べさせたところ、元気になった例を紹介された。

また、食欲が無くどんどん食べられなくなったが、過去の大好物だったものを出したところ、食欲が出た例がある。
嚥下障害があっても、その人が好きだった食べ物に近い味にして、ゼリーとして出しているとの話しもあった。

認知症で入院中の方で、食事量が減って経管にしたら、食べなくなり寝たきりになった方があった。
経管の方でも吸う力があり食べられそうと食事を出したら、また食べられるようになって改善した例があった。
経管でもお粥を少し摂れる方がいる。等の話が出た。

そこで、このように確かに経管や胃瘻を行っていても、食べられる方がいるので、その時にダメ元で食べさせるのではなく、しっかりと嚥下評価をして、安全を確認してから食品による訓練をしていくのがよいのではないか。その時使うのが嚥下内視鏡である。と訴えられた。

意識レベルが一番大切ではないか。訓練や検査を行うにあたっても、認知が進んでいる人には訓練ができないのではないか。
食べられなくなって、点滴や胃瘻になって一番の問題は、介護する時間が少なくなってくることだ。経口摂取しているときは、何十分かかっても,一生懸命話しかけて食事介助している。これが患者にも伝わる。しかし、PEGになると無言でチューブをつないで流すだけで去っていく。刺激が無くなり、認知機能が進行し、また廃用が進み,しばらくするととても口から食べられる状態ではなくなってしまう。との意見が出た。

確かに、経口摂取を止めてPEGになると、食事ではなくなり、栄養投与という作業になってしまう。本来は、PEGからの栄養投与でも、その前に口腔をアイスマッサージなどで刺激し、これから食事だと話しかける。食事の時と同じように安楽な姿勢にしてから経管栄養をつなぐべきだと思う。ベッドを挙上し、身体が傾いた状態では、体中の筋肉、特に腹筋と首の筋肉が緊張し、腹圧は高まり、腸の動きは低下し、呼吸も小刻みで小さくなる。
このような状態で胃に栄養を入れても、食道逆流やPEG周囲からの液漏れを起こしても当然であろう。また、このような姿勢によって拘縮が進行していき、褥創も発症しやすくなるとの意見が出た。

「経腸栄養の時も、食事と考え、話しかけたりしながら行おう」と皆で納得した。また、食べる意欲のある方や、飲み込みが悪くなってきた方には、積極的に嚥下内視鏡検査などで嚥下評価をし、現段階で安全に食べられるものを科学的に明らかにするとともに、摂食嚥下訓練を開始することも重要と認識した。

<自由討論の時間>

1.胃瘻の漏れと皮膚障害

体に強度の拘縮がある方に、胃瘻周囲のビランがあって治らない。現在ハイネゼリーを1日3パック入れているが、漏れるため半分ずつにして、6回で入れているとのことでした。
便秘気味で下剤の投与もしているとのことでした。
局所ケアとしては、「ペグケア」を用いているが、改善無く、デルマポアなども用いている。どうしたらよいだろうかとの質問であった。
また姿勢についても質問があり、拘縮がひどくギャッチアップ30度にしているが、頭が浮いている。との事でした。

写真の提示があり、それをみて、ストッパーの形、あるいはペグケアの形で皮膚が赤くなっている。経腸栄養を数日止めて皮膚の状態を改善してはとの意見がありました。

また、腹圧がかかっており、さらにオムツでの締め付けが原因では?との意見もありました。

この前のPEG研究会の講演では、注入前にエアーを抜いたり、栄養を注入してから1時間後に開放してドレナージしてはとの意見もありました。

不安定な体の挙上によって、拘縮が強くなり、腹圧も高くなっている。さらに不安定さによる筋緊張によって胃腸の動きも悪くなり便秘も起こっている。ポイントはポジショニングではないか。仰臥位では膝なども曲がっており安楽な姿勢はとりにくいため、少し横向きにして膝の下などにポジショニング枕を用いて安楽な姿勢にすると、体が軟らかくなり、腹圧も下がって注入しやすくなるのでは、との意見も出ました。

2.多系統萎縮症での四肢の動脈硬化性ミイラ化

人工呼吸器をつけているが、意識はあり、目と口は少し動かす方とのことでした。右大腿部から遠位と、左足首から遠位がミイラ化しており、今後どうなるのかとの質問でした。

ミイラ化した部分に感染が起こり、敗血症で危険な状態が待っているのではとの意見がありました。

逆に、ミイラ化した部分は、意外と感染から敗血症になる例は少ない。乾燥ミイラ化した部分はそのままにするが、問題は生きている部分との境目である。この部分を乾燥させると、深い傷となって拡大していくため、ワセリンなどを塗ると自己融解して溶けていく。やがて骨が残るがこれを切ると結構出血する。断端形成はできないとのことでした。
境目の部分は大量の水で良く洗うようにしたとのことでした。
悪臭がひどくキムコや消臭スプレーを使いビニール袋に入れて、においが漏れないようにする。とのことでした。結構悲惨とのことでした。

これを聞いて、境目のところはゲーベンクリームを塗ってはどうかとの意見が出ました。そうすればワセリンよりは抗菌作用があり、乾燥もしないとのことでした。
さらに、においが強いようならカデックス軟膏を使うとよいとのことでした。しかし、カデックス軟膏は創面を乾燥させるので注意がいるのと、こぼれるとざらざらして扱いにくい点に注意が必要とのことでした。

さいごに

本日は、嚥下内視鏡の検査についての話で盛り上がり、PEGの適応から、挿入後の食事をどうするか、あるいはケアの考え方に及びました。PEGも食事との考えが必要で、PEGにしたら手間が減るとの考えでは、やはり食事が食べられるようにはならず、一時的にでも栄養を改善したいという想いでの挿入が望まれました。
相談タイムでは、2つしか質問はありませんでしたが、現場で困っていることがよく現れていて、発展的な意見も多く出ました。