<症例検討>
1.硬性コルセットの方の車イスによる坐骨部褥創ケア
症例は70歳代男性。
要介護度5・胃癌上腹部転移・多発性骨髄腫・認知症・多発骨転移。
自宅で転倒し整形外科に入院し、胃癌末期と判り紹介されてきたとのことです。
尾骨部と両坐骨部に褥創を発症したとのことです。ひどい貧血があり輸血も行ったようです。
ショートステイを火曜から金曜日に利用しています。局所療法はハイドロサイト薄型を使用しています。食事はセッティングすれば全量摂取するとのことです。軟飯・軟菜とのことです。尿失禁・便失禁で、水様便が出ているようです。
移動は車イスで、介助で移動し、両下肢が麻痺しており、硬性コルセットを体幹に使用しています。この研究会で相談しロホクッションを使うよう言われ、それが効いてか左坐骨部のみの褥創が残っており、かなり小さい状態だとのことです。
相談したいのは、硬性コルセットをつけた状態では、段ボールなどを工夫して挟んでいるが、90度の良いポジショニングは不能で困っているとのことでした。
車イスをティルトタイプにしてはどうかとの意見に対し「サービスの限度額がいっぱいで車イスを購入したはず」とのことでしたが、会場でサービス提供書を見たところ、車イスはレンタルとわかりました。そこで、車イスをティルトタイプに変更することが提案されました。
ティルトタイプ車椅子を勧める理由としては、仙骨尾骨部へのズレと圧迫を減らすためです。ティルトタイプ車椅子では背中・大腿部に均等にズレがない状態で広い範囲に圧が分散するとともに、重力の影響で腰や膝が伸びて拘縮も取れていくためと説明されました。
発表者より、ベッド上ではあぐらをかいており、何か対策はないかとの質問がありました。
それに対し、ベッド上座位時に坐骨部などの圧迫を軽減するパッドの使用が勧められましたが、施設にはないとのことでした。
エアーマットレスの使用が勧められましたが、プライムレボがあり使ったが、動きが激しく、ベッドから転落して床の上にあぐらをかいていたことがあり、使用中止したとのことでした。プライムレボはオーバーレイタイプであり、単独使用は勧められないとメーカーの意見でした。「ベッド上ではなるべく寝ているようにし、車イス上での生活を多くして車イスを良いものにしては」という意見が大勢でした。
坐骨部の褥創は、左右で違い、左が大きいので、ロホクッションも4分割の調整ができるロホクッションクアドトロにすることが勧められました。クアドトロの説明がされ、スイッチで4分割の空気をフリーとし、右に体を傾けた状態でロックするとちょうどよい状態になると説明がありました。
あぐらをかく方では、麻痺のない方を曲げるので、曲げたときに足先を大腿部の下に入れて左が下がらないようにしてはどうかとの提案がされました。
これに対し、事故で足の指先が無くなっており、また反り返っているのでそれは難しいとの返事でした。
硬性コルセットをつけると、下のところがあたるため、90度の角度をとることは辛くなる。ティルトタイプ車椅子への変更がやはり大切との意見が出ました。
結局、車イスとロホクッションのレンタルを、ティルトタイプ車椅子とロホクッションクアドトロにすることが当面の対策となりました。
<自由討論の時間>
1.廃用症候群で屈曲の強い方の多発褥創
廃用症候群があり、股関節や下腿が屈曲しており、右足は左方向へ回旋している方に、右臀部と仙骨尾骨部に褥創ができている。ティルトタイプ車椅子がないため、車イスの座面の前方が高くなっているクッションを用い、車イスの背面のベルトを緩めることでティルトタイプに近い状態をめざして使用している。屈曲が強く、端座位は不能で、寝ていても座っていても不安定だとのことでした。
マヒはないが、左の方が拘縮が強く左へ少し傾いているのに、なぜか右臀部に褥創があるとのことでした。
腕を動かさないかとの質問に対し、右は動かすが左は動かさないとのことでした。
この例もティルトタイプ車椅子がよいのではとの意見が出ました。また、ポジショニングが必要だが、普通に用意すると大量のポジショニング用具がいるため、空いた布団をポジショニングに使うと良いとの意見がありました。
膝関節の拘縮は急性期の時に側臥位をとることが多いためではないかとの意見が出ました。仰向けを基本とすれば、仰向けで膝を曲げるには大変な力がいり、仰向けでは膝が曲がる拘縮は起こりえないとの意見でした。そこで仰臥位でのポジショニングを基本にしてはどうかとの意見でした。
車イスに座ると,円背もありつぶれたように曲がっていくとのことでした。このような姿勢では腰が伸びる時間が無く屈曲拘縮がおこるようです。従ってやはりティルトタイプ車イスの使用が勧められるとの結論でした。
ティルトタイプ車イスはなかなかすぐには購入してもらえないと思われるので、通常の車イスを後ろ向きに傾けて固定することで、腰を伸ばした姿勢が取れ、屈曲拘縮を軽減できるのではとの意見が出ました。これに対しては、会場から少しでも動ける人の場合、車イスを安定に保てず,すぐに傾けた固定がはずれ大変危険であったとの使用経験が語られました。 これに対して、工作がうまい方にやってもらえば、安定あるものを作ってもらえるのではとの意見もありました。
側臥位に対し、側臥位よりもっと強く傾け、最近よく話される130度側臥位(うつぶせに近い)にする案も出ました。
2.定時での体位変換の方法は
施設では背臥位で左右に斜めのクッションを入れて体位変換している。皆さんはこのような体位変換をしているのか? また、側臥位や仰臥位はしないのかとの質問でした。
「基本的に経管栄養をしている方には、夜間の通常巡回の時、つまり2時間に1回は、右30度→左30度とやっている。体位変換をする人を決めてやっている」とのことでした。「それ以外の人や、少しでも動くような人では、ちょっとクッションを入れるくらい」とのことでした。
別の施設では、「おむつ交換の時間が決まっているので、陰部洗浄をして、膝関節を動かすなど、その人にとってのよい体位をとるようにする」とのことでした。「このように個別に良い体位を決めてやっており、3~4時間を目安にしている」とのことでした。
「在宅ではエアーマットが入っており、ほとんど体位変換をしていないが、新たな褥創はできたことはない。エアーマットを使えればOKではないか」との意見が出ました。
他の施設では「80人入っているが、全例エアーマットか低反発マットを使っている。しかし職員の気持ちとして、それで安心してはいけないと体位変換もやっている」とのことでした。
手足を動かせる人では、体位変換は要らないのではとの意見がでました。
それに対し、ある程度動けて、体圧分散マットを使っている人がいて、夜間介助に行くと怒る人に対し、体位変換をしなかった。貧血があり全身状態も悪くなったが,体位変換をしなかったら大転子部に褥創ができたことがあるとのことでした。自分の好きな側臥位になっていて発症したとのことでした。
大転子部や腸骨の褥創発症には、テレビの位置が固定していることが原因のこともある。マヒのある方では,マヒのない手で柵などを持とうとして、マヒ側に褥創ができる。側臥位になるのがいけないのではとのことでした。
基本的に仰臥位のみでよいと思っているとのことで、30度側臥位はほんの少し傾けるだけで良いと思うとのことでした。
エアーマットを使っていると,仙骨部に褥創を発症することはほとんど無いのではとのことでした。大転子部や腸骨部では、エアーマットを使っていてもすぐに発赤する。よくみると自分で側臥位になっている。こういう人ではどんどん足も曲がり拘縮になっていく。
一人一人に合わせて、体位変換をやっていくことが大切と考えるとのことでした。
3.円背がひどく座位・仰臥位になれない方の腸骨部褥創
円背がひどくてやせていて、右腸骨、左腸骨、仙骨、背部などに褥創が多発している。体幹の回旋、骨盤の回旋がひどく、臥位になれず側臥位にしかなれないとのことでした。
右側臥位にすると足がベッドからはみ出すくらいに拘縮が強くなっているそうです。
食事の時のみ、ベッドに寄りかかって食べているとのことでした。
これに対し、下元先生のDVDを見ると、上半身のポジショニングを決めてから下半身を決めていくと良いようだ。つまり、体が起きたような状態で頭だけではなく、首や肩の後ろにもクッションを入れて上半身を安定化して安楽な状態にする。次に下半身にもクッションを入れていって下肢が伸びて上半身下半身の広い範囲で体重を支えるようにする方法が示されました。
それでは仙骨部に体重が集中しないかとの質問に、上下半身の広い部分で体重を支えるので仙骨部の圧はかなり少なくなっているとのことでした。もし仙骨部が心配であれば、殿筋の替わりとして、両臀部に小さな枕を挿入すれば良いと話されました。
さいごに
本日は、症例も相談も拘縮の強い例に関連した問題でした。いずれも車イスやベッドでのポジショニングに関する内容でした。
今ポジショニングが大変注目されており、富山では11月7日に移動移乗およびポジショニングの、動作介助実習セミナーが開かれます。
動作介助は、勉強すればすぐに使えるわけではなく、実践と実習を繰り返すことで上達する実技です。これを少しずつ身につけていくことで、拘縮に苦しむ利用者の方が減っていけばと願っています。