第45回 「足の褥創対策と、ストーマ周囲皮膚障害」

2009年11月19日

1.拘縮の強い超高齢者の足褥創症例

100歳代女性で、要介護度5。変形性膝関節症、狭心症があり、8年前に左大腿骨頸部骨折をし、4年前に腎盂腎炎にかかり、1年前に胃瘻が造設されました。訪問看護が週3回、デイサービスを週2回行っており、適宜ショートステイに来ているとのことでした。
今回の症例の検討は、このショートステイ時に行われたようです。
右第1趾内側部を中心に、黒色の皮下出血を伴う褥創がみられました。モルテンのプライムが使われ、リクライニング車イスが使用されていました。
栄養は、メイバランス3P 900Kcalで、加えて白湯300mlを3回投与されていました。ショートステイの度に、デュオアクティブETの貼付を行っていたとのことですが、今年からゲンタシン軟膏ガーゼをフィルム材で固定する方法になったようです。
ショートステイ入所時にADLを把握し、ケアプランをたててケアを行ったそうです。このような方法は、状態をしっかり把握できて良いのではとのことでした。

質疑応答では、この部位に褥創はどうしてできたと思われるかとの質問に対し、エアーマットレスは使っていたが、下肢の拘縮が強く、膝がくっつかないように、また下肢がクロスしないようにとクッションを用いて圧迫を回避した。こうするとどうしても右第1趾内側部に圧迫がかかってしまったためとのことでした。

エアーマットレスをせっかく使っていても、足を動かす度に下肢に枕を入れていくと、エアーマットの効果が無くなってしまうので、何も入れない方が良いのではとのコメントがありました。

PEGで経管栄養をしているが、この例では1800mlの投与となり、時間200mlとしても9時間かかる。その間ギャッチアップしているならかなり圧迫がかかってしまうのではないかとの質問がありました。また、速く注入すると下痢になってしまうとの意見がありました。
それに対し、メイバランスは200mlが300kcalで3パックでも水分462mlであり、白湯900mlを加えても、1400ml以下で、注入には時間がかからなかったとのことでした。また、下痢に関しては、もともと便秘症で酸化マグネシウムを使っていたが、今でもシンラックを適宜使って排便をしており、下痢にはなっていないとのことでした。
またこの方は腎盂腎炎があることから、メイバランスを選択したとのことでした。

この方の褥創発症にはズレが関与していると思われ、ズレについては、「この方は写真では厚い靴下をはいているようだが、これでは足の滑りが悪くズレがおこるのではないか。むしろスベスベした靴下をはかせた方が良いのでは」との意見が出されました。
足にズレをおこさないポジショニングを工夫すればよいだろうが、拘縮のある方では大変難しいとの発言もありました。
会場からは、「足の下に忘れ物の雨傘を壊して、傘の布部分を足の下に敷いてはどうか」との意見が出されました。「こうすることでズレがおこっても、簡単に解除されるのでは」との発案でした。試してみる価値がありそうでした。

右第1趾内側にあるのであれば、写真では右側臥位があったが、左にも褥創が発症しているのでは、との質問に対し、大丈夫だったとのことでした。

下肢にあてているクッションは固いのではないか。低反発のクッションなどがよいのではとの質問がありました。
それに対し、特別なものは使っておらず、家族にクッションを持ってきてもらい使用しているとのことでした。三角形のクッションなどが施設にあり使っているが、家族からは「何がよいのか」と質問され返事に困るとのことでした。
「ポジショニングに掛け布団を1枚使って、いろいろな形にして用いると、意外に便利だ」との意見が出されました。会場でも、「足の裏側に掛け布団を用いてみたところ大変良かった」との意見が出されました。
家族には、「掛け布団を1枚持ってきてください」等が正解かもしれないとの意見が出され、ただし「汚れるかもしれない」とはっきり言っておかないといけないだろうとの話も出ました。

2.介護施設入所者のストーマ皮膚障害ケア:連携の方法

ストーマケアも褥創ケアも、同じ創傷ケアとして扱う部分があるとのことでした。身体的な変化その他によって、ストーマには便漏れや皮膚トラブルが発生し、その際QOLは低下します。その際、装具の交換やケア方法の変更が必要になりますが、不安が伴い決断が必要になります。
症例は80歳代男性で、記録が無く病院は不明ですが、17年前に尿と便が同時に漏れるようになり、S状結腸ストーマが作られました。脳梗塞を発症し左半身麻痺となってからは、妻がストーマケアをしていましたが、妻が病気となり入院となったため、介護施設に入所となりました。
介護施設では便漏れから皮膚障害を発症し、装具が貼り付かなくなりストーマ外来受診となりました。長期貼用型の装具から短期型の装具に変更し、用手形成皮膚保護材の使用など、ケア方法が変更になりました。担当看護師に実際のケア方法を見てもらい、施設での交換が依頼されました。
頻回に連絡し、様子を聞きながら問題点に対しアドバイスを行っていったとのことです。例えば、パウチ内が真空となり便の潜り込みがおこるため、エアー抜きを塞ぎ、ガスは便排出部から出すようにしたとのことです。またストーマ部全体が圧迫され便が潜り込むことから、タオルを馬蹄形にしてストーマ袋の上に置き、腹部が圧迫されても便の通り道ができるように提案されました。また、ストーマ周囲皮膚がただれやすいことから、リモイスコートを併用したところビランが改善したとのことです。
これらの変更を行った後は、電話で様子を聞き、うまくいっているかの確認がされました。
問題が起こったらすぐに連絡をもらい、すぐ対策をしてもらうようにしたことがよかったとのことでした。また、装具やケア法の変更後は、早めに連絡をして様子を聞いたことがよかったとのことでした。

会場からは、「手技が難しいと思うがどのようにしたか」と質問がありました。
看護師が少なく、夜間など緊急時には看護助手が対応せざるをえなかったようです。そこでなるべく簡単な処置方法を提案するようにしたとのことでした。また、担当看護師に手技を見てもらい、それをパネルなどに書いて看護助手に説明をし、対応できるようにしていたようで、すばらしいことだったとの印象を述べられました。結局看護助手がうまく対応してくれるようになったとのことでした。
その結果、以前は「どうしたらよいか」という質問がほとんどでしたが、最近は「こういう状況だったので、こういう風にした」と事後連絡がほとんどになったとのことでした。

「ストーマ周囲皮膚が痛むと装具交換が毎日となり、かえって皮膚が傷むように思うがどうか」との質問がありました。
それに対し、「この方は漏れていない時はもともと2~3日用の装具を使用し、そのように交換していたが、皮膚障害がおこると、皮膚を守る作用があるが毎日交換するタイプの装具に変更して、毎日交換を基本にした」とのことでした。「この装具は粘着が弱く毎日交換しても皮膚は守られ、皮膚障害は改善していく。皮膚の状態がよくなれば、再び2~3日使用するタイプのものに交換する」との返事でした。
これに関連し、会場からは、「褥創でも全て同じ局所療法をするわけではなく、創の状態、例えば感染しているとか肉芽で被われたなどの状況に応じて、処置法が変わるはずで、ストーマケアにおいても、皮膚の状況が変われば当然使う装具やケア方法が変更になることは理解できると思う」との発言がありました。

ストーマ装具周囲の皮膚の痒みを訴える方が、かゆい時にリンデロンローションを付けていたが、外科の主治医に「この程度の軽いものには付けてはいけない」といわれ、どうすればよいのか困るとの質問がありました。
それに対し、リンデロンローションは装具を付けている時には使わない方が良く、全面皮膚保護材の装具に変更すると良いとの意見が出されました。
また他からは、「軽いものでリンデロンローションを1回付ければそれで治まり、そのまま何週間も必要ないのであれば付けてよいのではないか。しかし、装具交換のたびに付ける必要がある場合は、原因を解明し、装具を変えるとか、ケア方法を変えるとか原因に即した改善を行った方が良いだろう。また、この外科医が言うようなもっとひどい潰瘍やビランには、リンデロンローションでは対応できず、同様に原因を解明し、装具による創治癒環境を整えて創傷を治すことを考える」と話されました。

3.自由討論

「足の内側外側など関節部の壊死はどうするのか」との質問があり、「これらの壊死を切除したら、切除部に感染が起こり関節腔が開き大変な状態になった。関節部の壊死の切除はどうすればいいのか」とのことでした。
「膝などの壊死部が感染すると関節腔の感染となり、だいたい死の転機を取る例が多いので、基本的に関節炎が明らかでなければ今は切除しない」との意見がありました。
しかし、「関節部の壊死でも、肉芽がでるかでないかのぎりぎりとところまで、あるいは出血が始まるぎりぎりのところまで切除している」との意見もありました。
対して、「足では原則的に壊死は切除せず、ASOがあれば、ゲーベンクリームを、ASOが無ければ強気でハイドロコロイドを使い、いずれも壊死を軟らかくして自己融解に持って行く」との意見もありました。
足の褥創では、圧迫よりもズレが原因と考えられ、圧迫の回避はできていてもズレ対策が取られておらず、このような場合壊死を除去すると壊死組織がズレを多少弱めていた場合、壊死組織を取ることで、創面により強いズレ力が作用し、結果として創面が悪化する可能性がある」と述べられました。
つまり、ギャッチアップやダウンした時に踵のズレを解除しなかったり、同様に横移動後に踵などのズレの解除をしなかった場合がこれにあたります。さらに寝たきり予防に車イスに1~2時間乗せておく時、体が下に移動し踵部が足乗せに強くあたるとともにずれが生じている状態があります。これらの状態を放置されているようであれば、改善はおぼつかないとの意見でした。

ここで、再び下肢では寝具との摩擦が絶えず起こりやすく、雨傘の布をルチーンに下腿部から足にかけて敷いておくことがよいのではないかとの提案が出されました。これで踵や内果・外果の褥創が減少するのであれば、すばらしいことだと思います。

PEGなど経管栄養をしている人は、どんどん拘縮が進み、経口摂取している人は拘縮が進まない印象があるとの意見が出ました。
仮説として、PEGの人は、栄養注入のためベッド上がほとんどになり、車イスなどに座ることはない。
経口摂取している人は、食べる時車イスなどに乗っており、それが拘縮予防になっているのではとの意見でした。そして、PEGをしていても、なるべく車イスなどにいる時間を作った方が良いのではとの提案がありました。
それに対し、週2回PEGの人でも入浴する時車イスに乗せるが、確かに拘縮は少ないとのことでした。逆にPEGで車イスに乗っていない人で拘縮の強い人がいるとのことでした。
また、PEGをしていても、整形の病院なので毎日リハビリに連れて行っており、そういう人では少なくとも上肢の筋力は落ちないとのことでした。
経管をやっていても拘縮が進む体質の人と、固縮が進まない体質の人がいるのではとの意見もありました。
PEGでも半固形化によって1回注入で入れている人では、ベッド上固定時間は少なく、拘縮も起こっていないとの発言もありました。
どうも結論として、PEGでも週2回位車イスに乗っている人では、拘縮は少なく、経管で自然落下して栄養投与している人では拘縮が多いようでした。また、半固形化をうまく使用すれば、ベッド上に固定される時間が少なくなり、拘縮への進行が防げるのではないかとの仮説が出されました。
別の意見として、PEGなどでギャッチアップして投与される場合、安楽な姿勢ではなく、不自然な姿勢保持が体を硬くさせて拘縮につながるのではないかという点が一つ。口や咽喉頭など食事を食べる時に使う筋肉や神経は膨大で、脳もかなりの範囲が使われる。経口摂取は脳を賦活し拘縮予防になるのではないか。それに対し経管栄養は口を使わず、したがって脳は休止状態となり拘縮へとつながるのではとの意見も出されました。

病院から在宅へ帰るにあたって、ベッド上で経管栄養をし、清拭をし、体位変換をしなど、全てベッド上でするような指導をしているが、これがよくないのではないか。もっと経管栄養でも車イスやイスに移動して行うとか、普段は車イスなどに乗ってもらうなどの指導をしてはどうか。病院では全てベッド上で行うようになっているが、これは病院の怠慢ではないか。との意見でした。

もっともなのですが、病院でできないことが、人的資源の少ない在宅ではもっと無理だろうとの意見がありました。在宅では介護者は一人であり高齢者が多いので、寝たきりの人をベッドから車イスへ頻回に移動するのは不可能ではないかとの意見でした。
在宅では、むしろからだが安楽になるポジショニングの工夫を主に行った方が良いのではとの意見が出されました。
その時、股関節が拘縮している方のポジショニングはどうすればよいのかとの質問が出されました。
具体的には、分かる人がおらず、ポジショニングは大変難しくそのために実践セミナーの開催を続けているとのことでした。富山県から一人でもポジショニングのエキスパートが育ってくれれば、その方が勉強会を開くなり、現場におもむいて指導することで、画期的にポジショニングが進歩するのだがとのことでした。