1.胃瘻部スキンケアの取り組み
結核病棟50床の病棟で、3~4割に胃瘻が入っており、スキントラブルが大変多いことに気付き、処置法の統一を目指しての取り組みと結果について報告されました。
胃瘻部からの漏れが多く、発赤や滲出液、出血がみられ、肉芽形成するものもありました。行われている処置は、担当者によりまちまちで、Yガーゼやイソジンによる消毒が行われていました。
各地で行われる勉強会では、微温湯や生食による洗浄が主で、消毒は行わないことから、そのように統一したとのことです。その結果、チューブ周りや皮膚の汚れはなくなり、発赤も軽減していったようです。
ケアの統一を図ることで、発赤の軽減、滲出液の減少、出血例の減少という結果になったとのことでした。課題として、このような取り組みは一つの病棟のみで、他の病棟・病院全体としては、まだ手が着いていないとのことでした。
このような発表に対し、この会は在宅について連携を話し合うことから、退院した患者や、他の介護施設等へ移った方はどれくらいいて、申し送りや情報提供はどのようにやったかとの質問がありました。
結核病棟である点やPEGがある点など、受け入れ難い要因があることから、他の施設へ説明をしても受け入れてもらえていない現状とのことでした。また病気の性質と、極めて高齢者が多い点から、在宅への移行は今のところほとんど無いとのことでした。
PEG挿入部に肉芽が形成することが多いようで、その対応について質問がされました。この発表施設では肉芽は67%の症例にみられたとのことでした。
出血するとYガーゼを用いているとのことで、ティッシュによるコヨリをしようとしても、エビデンスがあるかとの意見があり変更できないでいるとのことでした。
これに対し、過剰肉芽の原因は、チューブがローリングするなど動くことや、チューブが瘻孔を圧迫することが原因になるとのことでした。したがって、外部バンパーを皮膚にテープで固定して動かなくすると良いとの意見がありました。
穴が大きくなって漏れが多くなるとの訴えがあり対策が質問されました。この場合チューブを太くするとさらに穴が大きくなるだけで、やってはいけないことであることが確認されました。
対策としては、漏れる原因を探すことで、造影剤で透視したり、内視鏡で調べることが勧められました。また、穴が大きくなったら半日ほどチューブを抜去した状態にするとよいとの提案もありました。
自然に抜けることがあり、その場合は何でも良いから穴に入れておかないとすぐ塞がると言われているとの意見がありました。バルーン型では、バルーンの水を抜いて入れて医師が来るのを待つことも推奨されました。
瘻孔からの漏れと肉芽形成に関して、再び意見が戦わされ、チューブを腹壁に垂直方向に保つことと、外部バンパーを絞めすぎないことが重要と述べられました。チューブが斜めに傾くと、倒れた方向と反対側に肉芽ができる。垂直に保つには、外部バンパーの上からY字スポンジなどで固定するとよいと提案されました。
この施設では、胃瘻チューブ用の腹帯を使って圧迫しており、それがかえってチューブを斜めにしている可能性が指摘され、中止して垂直にする工夫が勧められました。
その他、腹圧が高いと漏れやすいので、あまりギャッチアップ角度を高くしない方が良いとの意見が出ました。大体15度からせいぜい30度までに留めた方が良いとのことでした。
胃瘻からの注入時、30度のギャッチアップをしながら左側臥位にしているとのことでした。それに対しては、かえって胃排出が悪くなる可能性が指摘されました。また、それよりもギャッチアップしての側臥位はものすごく不快ではないかと意見が出ました。患者さんにとって苦痛な姿勢は腹圧が上昇し、漏れの原因ともなるのではとの指摘がありました。
この施設では、他病棟への手技の統一を勧めることや、チューブを垂直にする工夫を始めること、胃瘻から栄養注入時の姿勢の検討が課題となりました。
2.在宅でケアした閉塞動脈硬化症に伴う踵の糖尿病性潰瘍
症例は60歳代男性で、アルツハイマー型認知症、要介護5の方で、週2回デイサービスに行っていたようです。夫婦仲が大変良かったとのことです。
両踵部に皮膚潰瘍が出現し下肢切断が勧められたようですが、妻が猛反対し、手術せずに治してくれるところを探し、大学病院循環器内科を受診し、PPI(経皮的末梢動脈形成術)による治療の可能性があることで入院となったようです。
仙骨部と両踵に皮膚潰瘍があり、足背動脈後脛骨動脈の両方とも触知せず、ABIは0.8と悪い値であったようです。動脈硬化は全身の血管で起こることから、このように足の血流が低下した方では、心筋梗塞や脳梗塞の高危険群です。
病院では、PPIの入院期間は1週間であり、すぐに退院となりました。局所療法を行うため、病院WOC看護師、訪問看護師、ケアマネ、家族、医師で面談をし、介護介入を予定しましたが、過去に経験したデイサービスでの扱いが悪かったり、その他在宅支援に対し不満が強く、妻一人で全てやりたいとの意向でした。そのため、介護保険からは体圧分散マットレスの導入のみとし、2~3週間に1回外来通院のみとなりました。
外来では、当初プロスタグランディン軟膏処置で開始し、肉芽が盛り上がってきたことから、アクトシン軟膏に変更し、表皮化し鱗屑が多くなったことより、ワセリン単独へと変更して治癒に至りました。同様に仙骨部褥創も治癒しました。
この症例で、家族の愛の力はすばらしく「在宅恐るべし」との印象を持ったとのことです。
いずれにしても、PPIは有効であり後脛骨動脈も触知するようになり、足を切断せずに済んだこと、外来通院で治癒に至ったこと、家族の在宅ケアでの貢献の大きさなどによるものであったとのことでした。
そのあと、TASC II という、PAD(peripheral arterial disease)治療方針を2006年にまとめたものの解説がされました。
ABI(足関節/上腕血圧比)がよく用いられますが、忙しい外来でABIを全て計るわけではないこと。まして在宅では20万円するこのような装置は使えないこと。したがって、まずは、足背動脈や後脛骨動脈が触れるかをみる。また、足が冷たくなっていないかもみる。これで動脈閉塞の有無を確認できるとのことでした。血行再建するのか、内科治療で行くのか、切断するのか等の判断は、TASC II ではクリアーになっていますが、実は臨床の現場では極めてファジーで、外科系か内科系かでも異なり、また患者の意向も影響するなどが話されました。
このようなお話しに対し、以前心臓血管外科をやっていた時に血行再建や切断をしていたが、潰瘍や創部は消毒をしてイソジンゲルを塗っていた。結局壊死が進行しまた切断を繰り返すなどしていた。褥創治療をすることで局所療法を学び、今は湿潤環境を重視し消毒をしなくなって、以前の症例ももっとよい局所療法ができたのではと思うとのことでした。また、この症例も局所療法がしっかりといったからPPIの結果も良かったのだろうとのコメントでした。
心臓血管外科と形成外科や皮膚科との協同が行われることが大切と思うとの意見もありました。
大学病院では、循環器内科と皮膚科との協同ができる体制になっているのがすばらしいとの意見に対し、実はまだできていないとのことでした。近隣の病院では、糖尿病看護師が足外来を開いたとの情報があるとのことでした。詳細が分かるようだったら次回にでも詳しく知らせてほしいということになりました。
在宅ではこのように家族の力で、難治性の傷が治る例が多いことが強調されましたが、家族が獲得した技術や知識は、ケアする人が一人なのでより完成されていくことが話されました。しかし、正しい知識や技術が適切に伝えられることが前提で、それを誰がやるかが重要と話されました。
本例では、娘が病院の事務をしており、彼女を通じて質問が寄せられ答えることで技術が向上していったとのことでした。
在宅では、訪問看護師からの情報によって家族が向上することの方が多いように感じられました。
糖尿病性腎症で血液透析をしている方の、右足が壊死して黒くなり、左足も黒くなり始めた方がいるとのことでした。炭酸浴による治療を継続しているが、どう思うかとの質問がありました。
炭酸浴で黒色になってしまった足が回復する可能性はないであろうとのことでした。血行再建も難しいようなので、手立てがないだろうけど、何もしないと捨てられたように感じるため、期待できないが愛情を持って炭酸浴による足浴をすることは悪くないのではとの意見でした。