1.精神科病棟の方の褥創
症例は70歳代男性で、アルツハイマー型認知症の方でした。既往に50歳代の時に脳梗塞があります。60歳代で認知症を発症し退職されています。精神科病棟へ入院時、声かけには不明瞭な発声が少しみられる程度でした。歩行は困難で車イス使用でした。
身長172cm、体重53Kgで、2055Kcalの栄養を全量摂取していました。1年後には、右股関節、右膝の拘縮が進行し、座位困難になっており、ギャッチアップにて食事摂取となり、食事量も減少しました。体重は43.5Kgと1年で10Kgの減少がみられました。
やがて仙骨部に発赤とビランが出現し壊死していきました。浸出液が多量となり、壊死組織が切除されました。この時、体重は38Kgまで減少していました。大きなポケットも形成していました。
褥瘡対策チームが関わるようになり、問題点が挙げられ、PEG拒否であったため、経鼻胃管が挿入され1500Kcal/dayの投与、ウレタンマットレスからアドバンへの変更がされました。
創洗浄を積極的にし、ビオレによる洗浄、イソジンシュガー軟膏にガーゼを用いフィルム材で密閉が行われました。またギャッチアップ時間の短縮が図られました。ポケット切開も予定されましたが、家族の反対で切開無しでの治療となりました。
現在、創は2cmまで収縮し、ポケットの深さも1cm程度になりましたが、周囲皮膚の肥厚が著明で治癒は遷延しています。
当研究会での勉強などで、今はより早くの症例への関わり、個別な対応、院内での情報交換の点で、改善してきているとのことでした。
この症例提示に対し、「病院にNSTがあれば対応が早かったのでは」との質問がありました。それに対し、「褥瘡対策委員の中に管理栄養士いたのだが、全量摂取という情報のため、少しずつ下がっている体重変化に気がつかず、サポートも入らなかった」とのことでした。今は改善し、より早期に対応できるようになったとのことでした。
「エアーマットレスの導入が遅くないか」との質問に対し、「確かにそうで、褥瘡対策チームとして関わらなければいけなかった」と、この症例にたいして反省が行われたとのことでした。それまで、チーム委員はブレーデンスケールを付け、それを褥瘡対策会議で報告することで精一杯で、個々の症例を検討するに至っていなかったとのことでした。今は個々の例に早く関われるようになったとのことです。
「この例は改善して良かった」とのねぎらいの意見がありました。
「一般的に自立度のアセスメントが使われているが、精神障害・小児・認知症には当てはまらないことが話題になっている」との意見が出ました。「これらの疾患では、歩いているのに褥創があるなどの例があり、また急に体重が減り、浮腫ができたり、発赤ができることがあり、対応が遅れることがある」とのことでした。
これに対し、「確かにブレーデンスケールが良くて、歩いている人に褥創ができ、すぐに治った例がある。これからもそうした目で見ていきたい」とのことでした。
「精神科や認知症の例では、急に状態が悪くなり不穏となったため鎮静したり抑制すること、歩いていても寝ている時に不随意運動が強かったり体をズリ動かす例、体圧分散マットレスをいやがる例などの特徴があるかもしれない」とのことでした。
これらは今後の課題として、何か特徴があればまた報告したいとのことでした。
仙骨部のポケットが塞がらない点に関して、右に麻痺があり右方向へ傾きやすいことがあげられました。しかし、このように左右差のある拘縮の場合のポジショニングは難しく、患者さんが安楽に感じるように、拘縮した四肢の重さを均等に受けるようにクッションを入れることが大切だとの発言がありました。
2.家族介護状況と褥創ケア
発表者の施設では、在宅褥創の往診時、往診前に情報収集に努めること。問題点を抽出する。簡単なケア方法を提案する。家族に説明し、ケアマネを通して関係するケア提供者全員に伝えてもらう。を基本にしています。
1例目は80歳代女性で、要介護度4。転倒後歩行困難となりました。息子夫婦と孫2人と同居ですが、家族は仕事のため日中は一人です。
左右大転子部に褥創を発症し家人が本人を連れて来院されました。両方ともユーパスタ軟膏を使用しモイスキンパッドで覆いました。
現場の様子をみる必要を感じ、往診して現場で問題点の抽出を行い、対策を立てました。この時、家人およびケアマネと一緒に話し合い、納得の上、具体的な方法を決めました。
それまで、月1回の入浴、ヘルパーが1日2回来ておむつ交換と創交換をしていました。
介入後は、訪問看護を週1回とし、介護用ベッドとエアーマットを導入し、ヘルパーを1日2回、毎週3日間ショートステイ、デイサービスも検討し、創処置はなるべくサービス提供機関でできるようにしました。
ところで、要介護度4では、1割負担の限度額は30,600円ですが、ヘルパー、ショートステイ、スロープ、ショートステイ食費、部屋代などの1割負担合計額は、55,720円で、限度額をオーバーし、差額は全額負担となりました。これだけ払っても、家族は外出しているため、1日のほとんどの時間帯は一人での生活でした。
創処置は、片方はデュオアクティブを用い、表皮化治癒しました。しかし反対側は切開をし、当初はゲーベンクリーム、後にユーパスタ軟膏を用いた穴開きフィルム法にしました。
反対側も改善傾向にありましたが、38度の熱発が続き、訪問点滴を行いましたが改善せず、肺炎にて入院となりました。
2例目は80歳代男性で、腰椎胸椎圧迫骨折にて、激痛で寝たきりになっています。同年代の妻と二人暮らしで子供はいません。妻は夫に付き添い、高血圧と不眠で寝付きも悪く、強い不安状態でパニックになっていました。ただし、妻は介助ができず、おむつ交換もすることができませんでした。
要介護認定を受けていないため、往診で点滴を開始しました。トイレ歩行も不能で汚れたオムツを着けっぱなしにしており、仙骨部などをみると発赤があり、仙骨や大転子部にステージ1~2の褥創を発症していました。
介護認定申請をすることを勧め、主治医意見書を書くと共に、暫定プランでエアーマットレスレンタルを開始し、自費のヘルパーの派遣によっておむつ交換をしてもらうことにしました。
仙骨部はデュオアクティブを貼付し、左右大転子部はフィルム材で保護しました。
まず訪問点滴を3日間施行し、サービスは、訪問看護に必要性を納得してもらい週2回開始し、ヘルパーには1日3回のおむつ交換をしてもらいました。 この方は結局要介護3となり、介護にかかる1割負担限度額は26,750円でした。ヘルパー、訪問看護、ベッド等で、1割負担合計額は、46,970円になり、差額は全額負担となりました。これだけ払っても、食事や保清は不十分でしたが、妻は心配しながら常にそばでみていました。
1ヶ月後、仙骨部褥創も治癒し、体圧分散寝具はエアーマトレスからウレタンマットレスへ変更しました。腰痛も軽くなり、大便はトイレまで歩行するようになりました。端座位の時間も取れるようになり、ヘルパーも1日3回から2回へ減らし、食事はベッドから離れて食べるようになりました。妻も昼のみ訪問給食を利用して負担が減りました。
以上の2症例では、毎日介助サービスが入り、創処置は全てサービスに依存していました。違うのは、1例目では1日中一人でいる時間が多く、2例目では、常に妻が付き添っていました。
1例目では、結局肺炎となり入院となりました。2例目では順調に経過しました。
どのようなサービスが入っても短い時間で区切られており、24時間みているのは家族です。疾患に差はありますが、在宅ケアでは家族の存在が重要だと思いました。また、ケアマネを中心にしたサービスのネットワークが重要だと感じました。
ディスカッションでは、「富山では何世代も一緒に暮らす家庭が多いが、これは全国的には珍しく、東京など大都会ではすでに一人暮らしが多くなり、あと10年20年したら、一人暮らしの高齢者が何十万人単位で急増し、これらの2症例のような寝たきりの方では、サービス提供のみで24時間介護しなければならなくなる」との話しがありました。そうすると、「在宅は無理で入所となるけれども、入所施設はほとんど無く、結局在宅での介護になり、大変な問題が出てくるのでは」との意見がありました。
2例目に対し、「医療機関が関わるケースであり、痛い時のみ病院に入院した方が良かったのでは」との意見が出ました。それに対しては、「病院への入院を勧めたが、絶対にいや」とのことでした。
さらにこの意見に対しては、「入院したくても、圧迫骨折では入院させてくれない」という意見がありました。また、「入院しても3日くらい、最大でも1週間で退院になる」とのことでした。
また、「入院や介護施設へ入ると、お金がかかり、それでいやだという方も結構いらっしゃる」とのことでした。
要介護4や5の方に対し、「二つの症例とは逆に、利用限度額以内に納めて、満額に近いサービスプランを考えても、その1割負担が払えないとのことでサービスを減らす方が多いがどうしたらよいか」との質問がありました。
それに対し、「現場をみて絶対必要なものはよく説明をして納得してもらい導入する」とのことでした。「具体的には、エアーマトレスと訪問看護師の導入はぜひ必要なので、必要な理由を説明する」とのことでした。「例えば、訪問看護師に関しては、創処置など専門的に全般をみられる訪問看護師が週1回入れば、訪問看護師が状況を詳しく報告してくれるので、医師の往診は毎週でなく2週間に1回でも十分になり、安心で、しかもその結果負担額が減ると説明する」とのことでした。
「いずれにしても、治療にとって重要性の高いものを優先的にサービスに入れ、まずは限度額を考えないでプランをたれるとのことでした。その上で、家族が負担が重いと言うようなら、重要性の低いものは家族と相談して外していくことが大切で、その時ケアマネが一緒にいると費用が分かりすぐに結論が出る」とのことでした。
「費用のうち、ベッドとエアーマットレスなどのトータルの費用が1,450円はいかにも安くないか」との質問に対し、「認定結果が出る前に導入が必要で、自費になる可能性も考え、業者に圧力をかけたようで、かなりの割安の価格設定になった」とのことでした。確かにベッドは必要最低限の機能のものでしたが全く問題ないとのことでした。
入浴サービスについての質問に対し、この方は入浴が嫌いでデイサービスもいやとのことで、結局入浴はせず、身体介護でおむつ交換と清拭を入れているとのことでした。
「骨折にエアーマットレスは痛くないのか」との質問に対し、「骨折で痛いのは圧切り替え時で、この方はアドバンを静止型の低圧で使ったところ、骨折の痛みは軽減し大変喜んでおられた」とのことでした。
エアーマットレスに関して、「最近3層式で背上げをしてもズレを逃がしてくれたり、背上げをした時、背抜き効果のあるものも出たようだけれど、実際はどうか」との質問がありました。それに対しては、使用経験者が居なくて返事がありませんでしたが、どのようなエアーマットレスやベッドを使っても、背抜きは必要で、体の下に手を入れて、体へのあたりを和らげる行為の代わりにはならないだろうとの意見がありました。