第39回 「糖尿病と創管理」

2008年11月20日

1.糖尿病とポケット褥瘡

症例は60歳代男性。157cm、66Kg。糖尿病があり、慢性腎不全で透析をしています。
車イスで入院し、当初ADLは自立していましたが、突然の病状悪化で人工呼吸器装着となりました。ADLは全介助となり、仙骨部に褥創を発症しました。体圧分散寝具はトライセルが使用されました。
褥創対策チームが関わるようになり、透析中は普通マットレスでしたが、ウレタンマットレスの使用になりました。しかし、褥創部に疼痛があります。創表面には白色痂皮が見られました。
やがて悪臭と膿の流出が見られるようになり、皮膚科にて白色痂皮を切除したところ、ポケットの存在が判明し、培養にてMRSAが検出されました。ポケットの方向は左方向に5cm程度でした。左向きが好きでテレビもそちらにあったため、テレビの位置を変えたそうです。
局所処置はユーパスタだったものを、ゲーベンクリーム+ガーゼに変更したとのことです。
ポケットは次第に浅くなりましたが、開口部も小さくなって洗浄が難しくなりました。その都度、皮膚科医師が開口部の痂皮を除去し洗浄できるようになったとのことです。しかし、ポケットは存続しているとのことでした。
栄養的には、食事は好きなものを自由に摂って良いとし、中心静脈栄養として1日1700Kcal、タンパク60g程度になっており、経口からは1日でプリン2~3個くらいとのことでした。

この症例提示に対し、会場からは透析中の体圧分散には問題があり、透析前後で体重測定があるためエアーマットレスが使えず困っているとの意見がありました。
それに対し、この例では体圧分散ウレタンマットレス使用なので、問題なかったとのことでした。しかし、透析4時間、セッティング等を含め5時間、ずっと仰臥位を取り食事もその間できないなど、透析中の体圧分散は依然として難しいとの意見でした。

ポケットに関して、治癒遷延しているポケットを切開してみると、ほとんどで壊死組織がみられ感染していた。この例でも感染した壊死組織があると考えられ、切開開放が勧められるとの意見でした。
「なかなか医師が切開しようとしない」との苦言に対し、「皮膚科は骨が出るのがいやがる」との発言が会場からあり、それに対し、「切開をいやがるかどうかは皮膚科とか、科によるのではなく、個人の資質の問題である」との意見がありました。他にもそのような意見があり、皮膚科でも積極席に切開をする先生の多いことが分かりました。

そのほか切開法に関して、炎症による血流増加があり、透析をしている方なので、電気メスを使うことが必須であるとのアドバイスがありました。

切開の話の時に、切開をしてもポケットができた原因を解明して対策しないと、治癒はやはり望めないのではと指摘されました。
同じような経験をされた方から、30度側臥位がされているのではないかと指摘がありました。30度側臥位などを取るとき、裸にして皮膚がどのようであるかを観察した経験を語られました。すなわち、皮膚がたわんだり引っ張られたりして、かなり無理がかかっていたとのことです。この方でも裸にして側臥位を取り皮膚の観察をすることを勧められました。
いずれにしても、「どうも側臥位の時のずれに問題がありそうだ」と結論され、トライセルが入っているので、圧を適切に調整されていることを確認の上、90度側臥位などを取ることも選択肢ではないかと指摘されました。

透析患者ではかなり高栄養投与が必要と考えられ、1700Kcalでは少ないのではないか。またタンパク質が多すぎないかとの質問に対し、1700Kcalになってから褥創は治癒傾向がみられるようになったこと、また透析中はタンパク質を十分に与えても、尿素窒素が除去できるのであまりタンパク制限をしていないとのことでした。
会場からも、ベッド上の臥床でありカロリーはそれほど要らないのではないかとの意見がありました。

以上、現在進行中の症例に対し、会場からいろいろとアドバイスがなされました。

2.糖尿病と社会復帰

症例は50歳代男性。要介護2で、糖尿病にて、腎症・神経障害・筋萎縮症・網膜症を発症しています。母親との二人暮らしです。
8年前、糖尿病と診断され、4年前からインスリン療法が開始されましたが、治療をいつの間にか打ち切っていました。すぐに糖尿病は悪化し歩行困難となりました。2年前、高血圧で半年間ほど入院し、リハビリによって車イス移動による自立が可能となりました。
退院後も、通所リハビリなどを利用し、血糖値も内服のみによって100~130と良好に経過しました。ベッドや車イスへの移乗も自立し、T字杖での歩行もできるようになりました。
しかし、体重は58Kgから78Kgへと増加し、それにつれて糖尿病のコントロールも悪くなっていました。
とはいえ、半年前には仕事を試しにやってできるまでになり完全復帰を予定していました。

そのような時、食欲低下と腹痛にて急きょ入院となりました。腫瘍マーカーは高値となっていることが分かり肝転移がみられましたが、原発は不明でした。そして入院1ヶ月後に亡くなられました。
生活が苦しく、退院後は3ヶ月に1回程度の簡単な血液検査しか受けておらず、もっとしっかり検査をしていればと、社会復帰目前だっただけに悔やまれるとのことでした。

この例に対し、家に帰ると食べてしまいコントロール不良になるのは、家族関係に何か問題があるのではとの質問がありました。それに対し、本人はすぐにモチベーションが下がる傾向にあり、母親もモチベーションが下がりやすい方とのことでした。
それに対し、リハビリに関してはリハビリスタッフが積極的で、短期・長期目標を立てて、モチベーションの持続が可能であったとのことでした。

母親と中年男性の関係は、糖尿病など生活習慣の改善が必要な状況では、うまくいかない例が多い印象との意見があり、このような例で食習慣を改善する方法はあるのかとの質問がなされました。
それに対し、本人は運動などしっかりやっても食事がうまくいかない。それは母親がすぐに甘やかし、また本人は母親に過度に甘えてしまう関係となり、それが生活改善失敗をもたらす。双方に生活指導をしても、やがて聞く耳を持たない状態になり大変困っているとの意見も出ました。

対策として、母親と息子二人という関係は、家庭における過疎と呼べる状況です。食事に関して悩んでいるはずで、その解決が安易な方法や間違ったやり方という結果になっているようだ。頻回に訪問して一つ一つの問題について、調理法など具体的で簡単で有効な方法を示していくことが重要という意見が出ました。そして、そのやり方としては、訪問が無理なら毎日電話して聞くことに徹し、何に悩んでいるのかを知ることが大切とのとでした。
生活指導や栄養指導に走るのではなく、まずは悩んでいる内容を聞き出し、そのあとで最低限の適切なアドバイスをするのがベストな方法のようでした。

残念ながら亡くなられたことで、介護に関わったものにかなり強い喪失感があるようでしたが、全体としては社会復帰目前までいったということで、少なくとも後悔するような点はないように思えました。

今回は、糖尿病にまつわる内容でした。一つは病院での例で、もう一つは在宅を主として例でした。病院では管理はしっかりできますが生活のにおいが感じられません。在宅では暖かい血の流れが感じられますが、管理がどんどん不完全な方向へ行きがちです。