1.特養における布おむつのかかわり
<尿とりバッドを併用した布おむつの優位性>
尿とりパッドと布おむつを使って、患者の状態に応じたオーダーメイドな排泄ケアをしていくことで、スキントラブルが少なくなり、経済的にも安上がり。ゴミが少なくなることで環境にもやさしいという、大変大きなメリットがあるとのことでした。
やり方は、尿に対しては、防水性の布おむつカバーを使用し、中に布おむつを2枚ほど用い、一番内側に尿とりパッドを使う方法です。標準的には1日4回尿とりパッドを交換するとのことで、尿が多い場合は大きくて吸収力のある尿とりパッドにするとのことでした。
基本的に尿とりパッドで全てを吸収することを目指し、便失禁の有る場合には、肛門側にも尿とりパッドを工夫してあてがうとのことでした。
また、下剤使用時にはフラットな紙おむつをあてるとのことでした。
これら尿とりパッドをいろいろと使い分けるのが第一の工夫でした。
次に、布おむつのあて方も単一ではなく、縦に2枚の布おむつをあてるのを基本形とし、尿量の多い方では、布おむつは縦と横に用いるとのことでした。さらに男性では、前方に重点を置いて、縦2枚と前1枚などの使い方をするようです。
おむつカバーで皮膚が浸軟しそうな方では、布おむつが間に入るようにするようです。
このようにすることで、さらっとした布が皮膚の浸軟や乾燥を予防し、すっきりとした皮膚を保つとのことです。
ただし、陰部洗浄をしっかりやることと、体位変換も適切に行うことが重要であるとのことでした。
さて、汚物処理ですが、汚物除去機というものがあって、これで布おむつについた汚物を洗い流し、その後ハイターバケツに1時間浸けたのち、汚物除去洗濯機を使い90℃で洗濯乾燥させるそうです。
布おむつと尿とりパッドおよびおむつカバーは共用で、おむつカバーも毎日交換し洗濯するそうです。これらは全て施設で負担しているとのことでした。
経費については、布おむつの場合、尿とりパッドや水道光熱費その他を含めて、一人あたり約50円/日で、紙おむつの67円/日より少し安くなるとのことでした。
ディスカッション
これに対して、家へ帰る時も布おむつ使用を勧めているのかとの質問に対し、ショートステイでは布おむつを使うが、外泊などでは紙おむつを勧めているとのことでした。
質問者はエアーマットを使う場合で下痢の時にはおねしょシーツを使っているが、布おむつの場合はどうしているのかとの質問に対し、エアーマットにおねしょシーツは使っていないとのことでした。おむつカバーを使うことで便漏れせず、したがってシーツも汚れないためとのことでした。吸収は紙パッドが吸収し、それを超えた時に布おむつが防ぐとのことでした。横漏れが少なく、シーツを汚さないのでビックリするとのことでした。
おむつカバーがあたる部分は蒸れないのかとの質問に対し、直接カバーが当たればふやけやすいとのことでした。皮膚が弱くふやけやすい人では、横布を当ててカバーが当たらないようにするとのことでした。またシワができると良くないので、いろいろ工夫をして布がシワになって皮膚障害をおこさない工夫をしているとのことでした。
確かに最近の紙おむつにはヒダヒダがついて横漏れしにくくなっているのですが、問題はそのヒダヒダの外側が水分を吸収しない素材になっており、皮膚の浸軟や皮膚障害が高率に起こっています。昔の紙おむつにはヒダヒダがなく、もっと軟らかかった印象があります。またサイドの部分には吸水性はなく、この部分も蒸れが起こると思います。その意味で、布おむつで皮膚をカバーする方法の利点も出てくるのだろうと想像されました。 布おむつなどの昔からの素材も見直してみると良い面がありそうです。しかし、単純に昔に帰るのではなく、現在の良いものも利用しながら、昔の良い点も使っていくような「この特別養護老人ホーム」のやり方には大変感銘を受けました。
2.在宅褥創患者の現状と課題
<家族負担が増大し破綻を来した在宅褥創症例>
症例提示
60歳代の若い方ですが脳梗塞のために入院となり、その後痙攣発作が起こって寝たきりとなった例です。自発呼吸はありますが、呼びかけには応答しません。気管切開がおかれ、PEGが増設され経腸栄養が開始されたのち、在宅介護となりました。介護は妻が行っていましたが、褥創が発症しケアマネジャーの勧めによる主治医からの依頼で褥創のための往診が始まりました。
身長165.6cm、体重36.6Kg、Alb値3.1、Hb11.1、CRP5.38でした。経管栄養は1日3回行われ、1回1時間での注入がされていましたが、気切部からの栄養剤逆流などがみられていました。
主治医の往診、訪問看護、訪問介護、訪問入浴、そして褥創の往診と栄養指導など、多くの人が入れ替わり立ち替わり訪れる状況でした。
局所療法は時間のかからないゲーベンクリームを単純に塗布し直接おむつで覆う方法を採用されました。
管理栄養士からは栄養改善策として、経腸栄養剤を半固形化することにし、同時にカロリーアップと蛋白質量アップが図られました。これで注入時間は30分と短くなり、食道逆流も減ったようです。
当初比較的順調にいっていたのですが、気管吸引、褥創処置、経腸栄養剤の調合、ポジショニング、排泄のケアなど、介護者の負担はどんどん増え、介護者の休養が必要となりました。
そこでショートステイを利用した所、久しぶりに爆睡できたとのことでした。しかし、ショートステイから帰ると、高熱が持続して肺炎となり、褥創も悪化していました。帰宅後には却って介護負担が増えてしまい、介護サービスも増加し、毎日いろいろな人が訪問し、休む暇が無い状態となりました。訪問する人からさまざまな意見を聞き、介助者には混乱がみられるようになりました。
金銭面の負担も増え、2ヶ所からの往診、その他の負担で、1ヶ月の支払いが10万円を超えてしまいました。それにもかかわらず、状態の改善は全くみられませんでした。
ちょうどこの時、PEGの入れ替えのために病院を受診した際、長時間ストレッチャー上で待った事も関係してか、褥創は感染し壊死が広がり明らかに悪化していきました。関節拘縮はいっそうひどくなりポジショニングも大変になりました。
訪問看護は週5回になりました。
褥創は悪化し、拘縮はひどくなり、望みのない状態になりました。介護者は「全て自分のせいであり、家へ連れてきたのが全ての間違い」と嘆くようになりました。介護者のストレスは極限に達し、もう創もみたくない状態となったため、何とか手配をして入院先を探しました。
このような症例を経験し反省と考察が話されました。
病院の処置は在宅の処置と一致しないので、退院指導においては在宅の事情を含めた時間をかけた退院指導が必要ではないかとの事でした。また、介護者にとって介護は生活の一部であることも退院指導にあたっては配慮が必要であること。
かかわる全ての人々相互間の情報交換と意思統一が重要であり、これがうまくいかないと介護者を混乱させてしまいます。この例ではこの点にも問題があり反省させられるとのことでした。
退院後も医療機関と在宅との連携がとれるようなシステムの充実が必要との結論でした。
ディスカッション
以上の発表に対し、この例では半固形化は介護負担の軽減に役立ったのかとの質問に、あまり効果はなかったとのことでした。蛋白やカロリーアップのためと提案したが、主治医は「保険で使えるものにしたい」という考えで意思の統一ができない結果となり、かえって介護者を混乱させ負担になってしまったとのことでした。
また、他の方からは、自分が主治医であれば退院はさせなかった。この例は医療重視にあたる症例で、リハビリ、吸痰など、それを老老介護がやるのは無理との意見でした。やはり在宅でやっていけるのかどうかの見極めが必要との意見でした。
半固形化などは、病院の退院前にやっておくべきことではないか、また介護者がエスケープできるように、退院時に「何かあったらすぐ来なさい」と言っておくことが大切ではないかとの意見も出されました。
それに対し、インスリン量は大量に用いられており、これ以上無理とのことでした。
「このような例では誰がリーダーシップをとるべきであると思うか」との質問に、キーパーソンはケアマネジャーと思うとの意見でした。この例でも実際はケアマネが主治医を動かして褥創往診が始まったり、訪問看護師とのやり取りをしたり、ショートステイも手配してくれたりしたとのことでした。医師がリーダーシップを取るのではないだろうとの意見でした。
この例ではどうすれば良かったのかとの質問に対し、会場から、これは医療が必要なケースで療養型病床の範囲がこれにあたるのではないかとのことでした。こういった患者を療養型病床で診ており、これが家や老健へ行った場合はケアができない。これを在宅で診るのは家族では絶対みられない。家へ帰って亡くなってくれと押し付けているようだ。との意見でした。
このようなことは訪問看護師が感じていることであろうから、訪問看護師は「どうすれば良いのか」と声を上げて欲しいとのことでした。
この症例に関しては、どうしようもなかったとの印象が話されました。12月上旬にPEGが挿入され、12月末に退院。これはすでにおかしいのではないか。もっと栄養投与法に家族が慣れてからの退院でないとおかしく、もっと時間をかけてやって欲しいとの意見でした。初めからつまずいており、療養型などへの入院の話も全くなかったとのことでした。
療養型でもそうだが、老健などを想定する場合、チューブ類が入っていると受入れは難しいという現状も病院医師は知っておく必要があるとの意見も出ました。
さいごに
この例では、病院の対応の悪さが問題となりましたが、病院も医療費抑制策による経営困難や、在宅日数削減目標などがあり、決して非難ばかりができる状態ではないようです。
今後、批判はされても、このような例はどんどん多くなってくるのではないでしょうか。
多くの場合、在宅へ移行後1~2週間で亡くなってしまうと予想されます。
この方の場合、3ヶ月余りもがんばられたわけであり、本当に頭が下がります。そして3ヶ月という期間経過によって再び入院が可能となったようですが、時すでに遅く、入院後すぐに亡くなられたようです。
今回の症例提示は、布おむつから紙おむつへと大きく前進したと考えられていた排泄ケアですが、その中に潜む盲点に対し、両者の良い点を利用することで一段優れた排泄ケアのできる可能性について知ることができました。
そしてもう一例の症例では、現在の在宅医療・介護における負担が家族に大きく覆いかぶさっている現状、そして介護者に不可能な要求をする制度の冷たさをみた思いです。それでも最善の方法を選択し、少しでも介護者の負担を軽くしながら、在宅患者の状態を良くする方法を模索していかなければならないように思います。