今回は、寝たきりの方の腸骨部褥創と、脊損で車椅子を使っている方の座骨仙骨部褥創です。いずれも極めて難治性であり、治療にあたって局所療法だけではなく多くの要因が関連していることが考えられました。
<腸骨部褥創:洗浄とポジショニング>
第1例目は、腸骨部褥創です。
骨粗鬆症による多発骨折、認知症、慢性腎不全などで寝たきりの90歳台の女性。体格は身長130cm、体重29Kgと小柄で痩せた方で、要介護5で寝返りもできない方でした。
左腸骨部に2度の褥創が発症し、デュオアクティブを使用していましたが、3度へと悪化したため生食洗浄の後イワデクト(イソジンシュガーパウダー)を塗布しガーゼ保護してテープで留めていました。在宅にて介護していましたが、ショートステイ中下痢がひどくなり医療入院となりました。点滴1500ml/dayにて回復に向かい体力がつき食事が摂れるようになってきました。在宅に戻ってもらうことになりましたが、褥創は依然として白苔を伴っており今後の治療方針に悩んでいるとのことでした。
この症例に対し、体圧分散用具の質問があり、トライセル使用中とのことでした。
処置方法についての質問に対し、イワデクトはイソジンシュガーのパウダーであり、使いにくいのでユーパスタなどの方が良いのではとの意見がありました。その点に関し、深い褥創ではパウダーを塗布してフィルムで覆うとそれほど使いにくくないとの意見があり、また価格的に安上がりであるという意見もありました。
しかし、写真では感染が無いと思われるのでデュオアクティブにしても良いという意見がありました。しかし、その場合も白い壊死組織の下で深い所に感染がある場合もあり、毎日のドレッシング交換が原則で、異常に多い滲出液の場合は直ちに壊死組織の切開をして感染の有無のチェックをしなければいけないとのアドバイスもありました。
壊死組織をデブリードメントしにくいだろうからブロメライン軟膏を勧める意見がありました。それに対し、滲出液が多いようだと良いが、少ないとブロメライン軟膏は水溶性軟膏であり創面が乾燥して壊死が却って多くなる危険があると指摘がありました。さらに本例のように軟膏とガーゼの組み合わせであると創面乾燥の危険性がさらに高くなるとの意見がありました。
創洗浄の方法に関して、施設では生食にし、在宅では微温湯にしているが、微温湯でも良いのかとの質問がありました。それに対し、別の施設からは施設内でも微温湯を使っており問題ないとの意見が出されました。これらに対し、生食と水道水による外傷の洗浄についての報告がみられるが、ほとんど全てにおいて差はないとのことでした。したがって、褥創の洗浄で微温湯を使って問題はないだろうという意見でした。しかし、病院や介護施設など多くの方を同時にみる所での微温湯使用には院内感染の危険に配慮する必要が強調されました。
感染対策としては、本人持ちの用具を部屋から出さないのが原則であり、微温湯のボトルにすると必然的に汚染したボトルを持ちだしてまた持ち込むことになり、院内感染誘発の危険があります。さらに万が一院内感染がおこった場合、原因が微温湯だとなれば大変なことになるので、生食を勧めるとのことでした。しかも生食ボトルは大変安く150円程度であろうとのことでした。
左腸骨部の褥創のため、体位は右側臥位かパッドを工夫しての仰臥位とし左側臥位を避けたがこれで良いのだろうかとの質問がありました。これに対し、褥創のあるところを敢えて下にすることはしないという施設が多いようでした。また他の施設では車椅子に乗るので、その時間帯は健常部の圧迫が無いので大丈夫であったとのことでした。
他に、症例のようにガーゼを多くあてる方法では、その部を下にするとガーゼによって強い圧迫となり下にできないのではないか。ガーゼを用いずフィルム材を用いて薄いドレッシングとすれば下にできるのではないかとの意見が出されました。
他に褥創部を下にしても、下肢や胸部その他にクッションを用いるなどポジショニングを工夫すれば、褥創部の体圧を分散できる可能があるのではないかとの意見が出されました。いずれにしてもポジショニングの工夫でもっといろいろな体位が取れるという意見が出てきました。この場合体位保持時間に差をつけるとよいとの意見も出ました。
ポジショニングをしているときに、2時間とかずっと同じにしないで、手や足を動かしたり膝の角度を変えたりとこまめに動かすことも重要との意見が出ました。
<脊損患者の座骨仙骨部難治再発褥創:シーティング調節と心の問題>
第2例目は、脊損による半身麻痺の方の仙骨座骨部褥創例です。
10年くらい前に外傷にて脊髄損傷し下半身マヒになられた60歳台の男性です。脊損時に褥創管理のためにストーマが造設されたとのことです。褥創悪化のたびにこれまで10回以上の手術がされました。
今回褥創悪化のために入院されています。褥創の治癒がみられず相談のために来院されました。座骨仙骨部に深い褥創があり、深さ6cmで2/3周性のポケットを伴っていました。創処置は洗浄の後にガーゼが用いられていました。局所療法としては、ガーゼの使用を止め、直接おむつをあてるような指導のみとされました。
問題点として、車椅子の膝下長が短いこと、車椅子の足乗せが膜状となっており足が中央に集まってしまうこと、ロホクッションが使用されていたが空気が入り過ぎで役に立っていなかったことがあげられました。ロホクッションの空気の調整をし、車椅子の修正が必要であると意見を述べました。
入院施設より局所療法を任せたいとの希望があり、直ちにポケットの切開を行い、当初ユーパスタの使用とし、後にオルセノン軟膏とリフラップ軟膏の混合軟膏を使用しフィルムで固定としました。また、シーティング外来のある病院を受診してもらい、車椅子調整の必要性と指示を出しもらい車椅子取扱店が修正のオーダーを出しました。
切開した褥創は肉芽が盛り上がりサイズもしだいに小さくなりましたが、シーティングによる圧迫が原因か治癒速度は極めてゆっくりでした。現在陰嚢に新たな潰瘍が発症しこの部はハイドロコロイドドレッシング材を貼付しています。
修理に出した車椅子ですが、平坦化した足乗せははね上げ時に下肢に引っ掛かり使えないことが分かり、再修正に出すことになりました。また座面を高くするために発泡スチロールが入れられていましたが、サイズが合っていないことと、ひよってしまうことにより座面上昇効果が低く木製のもので作り直してもらうことになりました。
ストーマケアについては、装具のストーマ口切開サイズが小さすぎるため適正な大きさを指導しました。またストーマ周囲皮膚の清拭法も指導しました。しかし、年末に下痢になったことからストーマ下部に潰瘍が出現しました。アルギネート材やハイドロコロイドドレッシング材を使っての潰瘍治療法を指導したところ、両方を使ったために却って漏れがひどくなり潰瘍の悪化を来しました。
現在凸面装具にベルトを併用する方法で早期に潰瘍を治癒させる方法を指導し様子を見ています。
栄養的には、入院中のためあまり問題が無いようですが、極めて偏食が強く、食後すぐに横になり、食後の口腔ケアも行っていませんでした。
この症例の問題点としては、褥創はできたら手術で治すものなど、あまり積極的な関わりをせず他人に任せきりなこと、ストーマケアでは自己流に走りがちであること。栄養的にも好きなようにしてしまうなど、いずれも真剣に治そうという感じが少ない点が挙げられました。
この点については、東京で研究会があった時、似たような症例があり、本人に自覚を促すため「なぜ褥創になったのか原因の説明、生活の中でどのような動作で発生するのか分かってもらう、一つ一つの動作を説明する」など説明と動機づけを行うことが大切であることが示されていたとのことでした。しかし、その症例も褥創のひどい感染のため両足を切断するにいたって初めて目覚め、予防に心がけるようになったとのことでした。
この点に関し、除圧をして少しでも良くなったらデジタル写真で示してあげて意識付けを行うとよいとの意見が出ました。しょっちゅう写真を見せるのでは無く、ちょっと良くなったときに見せるのが効果的とのことでした。これに対し、今度デジカメ写真を並べて見せみるとの返事でした。
この例では実は車椅子のみで生活しているのではなく、車の運転、家でのイスの使用、ベッド上に座るなど、色々はシーティングをしており、車椅子の変更のみで褥創の予防と治療がうまくいくかは疑問である点も報告されました。
この例では、褥創・ストーマなど複数の障害を持っており、ストレスがたくさんあるのではないか、したがって心のケアが必要ではないかとの指摘がありました。
それに対し、確かに本人がどう思っていたかを聞きだすことができたら、ケアを担当する者が抱えていた問題も道が見つけられるかもしれないとの返事がありました。
確かに、労災事故による不本意な脊損・下半身マヒ、その後すぐの褥創対策のためのストーマ造設、これは大変なストレスとショックだっただろうこと。そしてその後10回以上におよぶ褥創の手術。その時は自信に満ちた医師の術前説明と、それにもかかわらず術後すぐの再発の繰り返しがあったと思われます。これでは医療不信になってしまいます。このような状況を越えて今があるわけですが、多くを語らないのは確かに何か思いが閉じこめられているかもしれません。
事故による褥創ケアと心の問題があるのでしょうか。
<その他のディスカッション>
その他に、亜鉛の投与は何時が良いかとの質問があり、亜鉛投与による副作用は考えなくて良いのではないか。大きな潰瘍があった場合亜鉛投与は早ければ早い方が良いのではないかとの意見がありました。
また、「発赤した褥創の皮下のダメージをどのようにはかればよいのか」との質問がありました。これに対し、発赤した褥創の皮下は壊死していると考え、残った皮膚は生き残っているとの前提で、局所療法、栄養療法、体圧分散を行っていくことが勧められました。
以上、今回の高岡褥創勉強会では拘縮の強い方の腸骨部褥創に対するポジショニングの考え方。脊損褥創の方の心の問題に目を向ける必要があることなど、さまざまな問題と新しい視点での発想の必要性に気づかされました。