第25回 「脳梗塞と創傷」

2006年5月18日

 症例検討は2例提示されました。2例とも脳梗塞のある方で半側に麻痺がみられる方の創傷でした。

 第1例目は「足の踵部および外顆部の褥創」症例でした。
 60歳代の男性の症例で、両側下半身の対麻痺例でした。併存症として陳旧性心筋梗塞と軽い糖尿病があります。
 比較的動く左足踵部と外顆部に褥創を発症し、かなり手間取ったとのことでした。ハイドロサイト、オルセノン軟膏、ラップ、穴開きビニール袋、ナプキンなど色々試すも、うまくいかなかったようです。この褥創の発症原因および治りにくい要因としては、下半身の不随意運動があり、夜中に踵をベッドにこすりつける動きをする点が疑われるとのことでした。
 局所療法に関して、洗浄とラップを主体に行っていたとのことですが、創周囲皮膚の浸軟肥厚がひどくなり、ラップを創面のみの大きさと小さくし、その上からナプキンで覆いテープで固定したとのことです。このようにしてから創面は治癒に向かっているようでした。
 会場から、ラップを使う場合は大きくあてていたが浸軟傾向が強くなり1~2日が限界との意見が出ました。フィルム材を使った場合も浸軟するがラップよりは浸軟しにくくフィルムの方がよいのではとの意見がでました。
 またハイドロコロイドドレッシング材をなぜ使わないかとの質問が出ましたが、うまく貼り付けれないと考えて使わなかったとのことでした。会場からは踵にハイドロコロイドドレッシング材を使ってもずれるとの意見が出ました。また踵の褥創は軟膏とガーゼで治療しているが良い結果との意見も出ました。
 軟膏を使おうが、ハイドロコロイドドレッシング材を使おうが、いずれにしてもその上から尿取りパッドなどで足全体を被うことを勧める意見も出ました。この方法に関しては、どのような方法を使う人も会場は大体賛成の様子でした。

 踵の褥創発症機序として、下肢の挙上によって却って踵に厚がかかる場合が多い点と、バスタオルを敷くことが原因になるとの意見が出されました。
 体動によるズレでの褥創難治化に関しては、疥癬があって体をこする人の仙骨部褥創が難治化していたが、疥癬のあることが判り治療すると体動が無くなり、一気に褥創が治癒した例が会場から出されました。
 半身麻痺のある方では、麻痺側に褥創ができやすいのか、健側にできるのかで議論がありました。会場での挙手を願ったところ、麻痺側で多いとされた方は14~15人程度、健側にできやすいと答えた方が4~5人程度、どっちにもできると答えた方が5~6人程度ありました。一般的に麻痺側では血流が低下しており、神経麻痺の部に褥創ができやすいとの論文も多いのですが、健側にできるという方が意外と多いのにびっくりしました。
 麻痺側にできやすい点に関しては、麻痺のある方の体位変換の様子を見ていると、麻痺側を上側にしようとしても不快なようで、麻痺側を下にしたがるとの意見がありました。
 施設の方からは、麻痺側の踵に褥創ができるのは経験がなく、健側に2例の褥創があったとのことでした。健側の不随意運動などが原因と考えられるとのことでした。いずれにしても施設では踵が着かないよう圧が掛からないよう注意することが可能で在宅と違うとのことでした。ここでは洗浄とユーパスタの使用でいずれも治癒したとのことでした。
 ベッドのギャッチアップ時は、麻痺側は気をつけるが、体が下がってきた場合健側の足を突っ張って支えていることがあり、これも踵褥創の原因ではないかとの意見が出されました。いずれにしても健側に褥創ができる機序について、色々と意見が出されました。
 その他、車椅子での移動時、踵部が足乗せの部分にあたり、強い圧迫が加わっている例のあることが指摘されました。

 他の部位での褥創でも同じですが、踵部褥創では、なぜ褥創ができたかを考え、その原因に対する対策をしっかり行わないと、治癒が難しい点が強調されました。
 この例でも、もう一度原因を追及することが勧められました。

 2例目は、70歳代男性にできた「下腿静脈うっ帯性潰瘍」の報告でした。
 この方は脳梗塞、左片麻痺、結腸ガン術後の方で左下腿に難治性の潰瘍がありました。下腿の不全交通枝の結紮手術が行われました。この例では大腿部深部静脈にも静脈弁の不全がありましたが、これは手術せず放置となりました。この例では麻痺による筋収縮不良のために、潰瘍の悪化と下肢の浮腫増加が起こったと考えられました。
 他の原因で入院安静となったので、ワセリン/アズノールの油性軟膏を塗布し、ラップで被ったとのことです。静脈うっ滞対策と下肢の著明な浮腫軽減のため、弾性包帯を強く巻いたとのことでした。潰瘍側は麻痺のため動かせず、したがって圧迫包帯のズレもあまり起きなかったようです。下肢の挙上・圧迫包帯・創面の湿潤維持によって潰瘍は治癒させることができました。
 静脈瘤用のストッキングの使用が勧められましたが、一人ではけないことと痛みで不快なため使用したがらないと返事されました。弾性包帯使用に当たって、圧迫すると血流が悪くなり創治癒にマイナスでは、との意見がでましたが、動脈閉塞が無ければ危険の無いことが話され、圧迫の強さはかなり強くできる点が強調されました。
 圧迫包帯で面白いものがあることが紹介されました。それは弾性包帯の粘着面がハイドロコロイドドレッシング材になっており、伸縮包帯の部分には長方形の絵が書いてあり、これを引っ張って正方形になったときがちょうど良い圧迫の強さになる商品でした。これの交換は4~7日間であったため、入浴好きの日本人には向かず、また高価であったため日本では発売されなかったようです。
 このような潰瘍にはハイドロコロイドドレッシングが最も適しているとの意見が出ました。ラップでもそうですがハイドロコロイドドレッシング材を使っていると臭いが強くなり創面に汚い壊死ができることのある点も話され、このような場合、ドレッシング交換を早くすることや、適切な感染創用のドレッシング材への変更の必要性も検討されました。
 なお、この例ではこれから退院するのですが、退院後の生活指導が大切で、再発がしやすい点も会場から指摘されました。

 脳梗塞の方ではいろいろな病態がみられ、褥創や難治創を持った場合、麻痺や拘縮が直接あるいは間接的に治癒に影響をしている場合が多いようです。このような場合、創傷を難治化させている要因を発見することが大切だと思います。