第20回 「癌末期の褥創」

2005年5月19日

 今回の症例提示は、83歳男性の大腸癌末期状態に発生した仙骨部(右後腸骨部)褥創でした。多発性脳梗塞・認知症がみられ、気管支炎で入院後筋力低下して寝たきりでした。直腸癌が発見されましたが、家族の意向もあり手術せず無治療となりました。在宅介護されていましたが困難となり、介護病棟に入所となったものです。
 日常生活自立度はC2でOHスケールは10点の最高点でした。体重は27.2Kg、Hbは9.6、血清蛋白も5台と低栄養でした。投与エネルギーは700Kcal以下しか投与できませんでした。初め発赤から始まり、黒色壊死の褥創となり、この時点で見直しを行い、より高機能のエアーマットレスの導入・褥創の存在の周知徹底・体位交換を図示し手技を統一・紙おむつへの変更・輸液(ソルデム3AG500ml)の開始・食事の工夫等が行われました。その結果、栄養状態は悪化しましたが、褥創の壊死はなくなり改善してきました。残念ながら、全身状態の悪化とともに、褥創も再び悪化し、癌死されました。
 介護施設では入院患者は益々重症化し、半数に胃瘻が作られているとのことでした。今回の症例を経験し、局所のみではなく全身管理の重要性、および褥創初期からの除圧・摩擦・ずれの予防の重要性を再確認されました。
 ディスカッションでは、体圧測定値が高いことが指摘されましたが、寝巻きを着用した上から体圧を測定していたことが解り、創面あるいは皮膚に測定用具を直接用いることの必要性が確認されました。この例では、浸出液の吸収力が強いとの理由で、一貫してアクアセルが使用されていましたが、マルメの請求であり主治医が了解しているためと解りました。このような使い方もあるとの考えが出されましたが、やはりコストの点で軟膏処置を勧める意見が大勢を占めました。
 栄養投与に関しては、全粥ミキサー食がでていましたが、水分が多くカロリーアップが難しいため、ミキサー食を鍋で熱し、水分を飛ばしてからエンシュア等を加えて練り込む「プレ鼻腔食」が提案されました。これは第一出版から出した「スリーステップ栄養アセスメントを用いた在宅高齢者食事ケアガイド」に作り方がでています。
 ここで癌末期で栄養状態改善が見込めない患者に褥創が発生することが多いことから、このような場合どのような方針でケアをすればよいかを中心に話し合われました。以下のような意見が出せれました。
 褥創が原因で命を落とさない。褥創ではなく癌で亡くなるように考え、褥創の苦痛をなくすように考える。
 褥創高危険状態を早めに判断し、エアーマットの導入や体位交換の工夫を早めに始める。OHスケールをつけ8点以上ではエアーマットを使用している。処置には高いものをなるべく避け、軟膏などを用い、その分エアーマットなどにお金をかける。
 家族は痛みを取ってあげたいと思うので、痛みの無い状態、ひどくならないことを目的に処置を選ぶ。家族の考え方を聞きながらやっていく。在宅では介護者が処置を行うため、苦痛無く簡単で毎日続けられる方法を提案する。
 食事の用意などができてから患者さんを起こして、食べるために起きている時間がなるべく短くなるように配慮する。などの意見が出されました。
 末期状態で感染の危険があるときの局所療法については、ゲーべクリームやイソジンシュガーを創面に用い、ガーゼなどは用いず直接紙おむつをあてる方法が勧められました。
 なお、癌末期の褥創の問題は、2005年8月の褥瘡学会の主要テーマの一つになっています。大きな問題ですね。