症例検討一例目は、頚椎損傷の60歳代男性の褥創例でした。交通事故による大変な損傷のため、精神的にもかなり追いつめられていた例です。受傷5ヶ月後に携帯用人工呼吸器を借りれるようになり、リクライニング車イスへの移乗の意欲が出て車イスでの行動をし始めたところ、今までは発赤程度しかなかった褥創が、1週間で一気に痂皮のある感染した褥創となり、発熱もおき、外科的デブリードメントにてポケットを伴うステージIVの褥創となったものです。担当看護師の戸惑いが良く解る症例でした。
会場からは、発熱を契機として褥創悪化例が多いことや、逆に発熱をコントロールする、あるいはむしろ低体温にすることで褥創には良かった例があることが示されました。同様に発熱と褥創悪化の関係が結構多くあることが話されました。しかし、低体温については、終末期で治癒を望まない例などでは対応としては良いかもしれないが、治癒を目指す場合はやはり低体温はまずいのではとの意見が出ました。
また、多くの人はリクライニング車イスの弊害を指摘し、また車イス移乗時の除圧マットレスの使用が必須であることも示されました。さらに、リクライニング時を含め、角度を変えた時の背抜きの必要性が指摘されました。しかし、発表者からは患者は動くことへの拒否が強く、背抜きに抵抗しがちであり難しかったとの報告でした。
それに対し「背抜きのかわりに、ギャッチアップを終え水平にしたら直ちに側臥位等の体位変換をするとうまく応じてくれるのでは」とのアドバイスもありました。「リクライニング車イスは、座面が水平で背もたれ部分のみが倒れるため、仙骨部に強いずれを生じ、また体圧を測ってみると圧迫自体もかなり高くなっていたため、リクライニング車イスは使用すべきでない」との意見がありました。この場合、座面自体も傾けることのできるチルト式車イスの使用が勧められました。
リクライニング車イスに急遽乗るようになったのは、携帯人工呼吸器が1ヶ月借りれるようになったことが大きかったようで、残念ながらもう期限が過ぎたため、いやおうなくこれからはまたベッド上の生活となり、皮肉にも褥創の治癒が進むのではないかと考えられました。
携帯人工呼吸器は、患者の退院が近くなり在宅が始る予定が立つと、業者が入院中から貸し出してくれることが解り、このことを患者に情報として入れることが勧めれれました。なお、この患者は横隔膜の動きが悪く呼吸筋に対する手術予定もあるとのことでした。
局所療法に関しては、ティエールが長期間使われていましたが、今回のような急性期の褥創に創面が見えないドレッシング材を用いる際は、交換時期に気をつけ、毎日創面を観察できるような方法を考える必要性が強調されました。
体位変換について、側臥位の仕方が悪いのではとの指摘があり、そのために褥創の写真で右側にポケットを形成しているのではとの指摘がありました。側臥位時の適切な角度と方法を見つけるのに、創面を露出したまま体位変換をし、良い角度を、左右別々に探す工夫が勧められました。さらに、腹臥位や斜め伏臥位(150度)などの体位も呼吸にとっても良いのではとの意見が出されました。
管理栄養士からは、このような体格の良い方に対し、カロリー投与量が1200Kcalそこそこでは不足しているのではないかとの指摘がありました。確かに、80Kgの体重が66Kgまで減少していました。また尿量も1000~1500mlとの事で、エネルギーの不足だけではなく脱水にもなっていると考えられました。微量元素やビタミンなどの投与量も検討を要し、せっかく病院入院中なので管理栄養士に関与してもらい、投与栄養内容を検討し修正することが勧めれれました。
症例検討二例目は、訪問看護師からの提示で、80歳代の妻を80歳代の夫による老老介護の家庭で、直ぐに高熱を出して褥創を発症し、入院して肉芽が改善しても、在宅になるとまた発熱して再入院に直ぐなる症例でした。
水分補給・体位変換・栄養指導の全てを看護師が行っており、無理があるのではないかとの意見が出されました。お粥やミキサー食少量の摂取で、尿量も500ml程度しかないことが質問で解りました。脳梗塞後遺症で寝たきりの状態であり、歯が無い状態とのことでした。歯が無いと口の中で食塊が作れず、また嚥下も不十分になるメカニズムの解説がありました。
入院して歯科に入れ歯を作ってもらい、嚥下訓練を理学療法士などから受けることが勧めれれました。もし、摂食・嚥下障害がこれらのことで改善困難と判断される場合は、PEGの造設が必要で、これについてはしっかりと信念をもって十分な説明をすれば家族に納得してもらえるだろうとの意見がありました。
この症例の場合、局所療法を理想的に行っても、栄養状態の改善が見込めないことから、バランスを考えると今のままのカデックス軟膏処置もあながち悪いとはいえないことが示されました。