褥創予防と治療における栄養の意義

2003年4月1日

断続的、あるいは持続的な圧迫によって傷ついた組織は、アポプトーシス(細胞の自然死)によって自己融解して新しい組織に常に置き変わります。この新しい組織を作ることを「蛋白合成作用」と呼び、逆に自己融解していくことを「異化作用」と呼びます。体の中ではこの異化作用と合成作用がバランスよく行われています。

摂取カロリーの不足

 摂取カロリーの不足があると、体を維持する最低限のエネルギー(基礎エネルギー)を下回り、体の基本的部分の維持のために、体に蓄えたエネルギーを消費します。肝臓中のグリコーゲンなどの貯蔵エネルギーはすぐに無くなり、壊しやすい筋組織を分解してエネルギー源にします。また脂肪も壊してエネルギー源になります。このように体の組織を壊してエネルギー源を得なければいけない状態を「異化亢進状態」といいます。
 異化亢進状態では蛋白合成作用は著しく低下します。このような状態下では、持続的圧迫で傷ついた組織の修復はストップし、やがてはっきりとした創傷(褥創)になるのです。

蛋白質の摂取不足

 例えエネルギーが十分投与されたとしても、蛋白質が不足しているとどうでしょうか。基礎エネルギーは充足され、その意味では体の組織を壊す必要はないのですが、創傷を治すためには蛋白合成を行うことが必要です。蛋白質の合成にはアミノ酸が原料になるのですが、アミノ酸は食事から摂った蛋白質を分解して作られます。そこで、食事中にアミノ酸になる蛋白質が不足していると、結果として創傷部での蛋白合成が行えなくなります。
 このように褥創に限らず、創傷の発生予防及び治療において、カロリーと蛋白質の必要量をしっかりと摂取していることが大変重要なのです。

ビタミンやミネラル

 体にとってビタミンやミネラルも大切な栄養素です。創傷において特に強調するものとして、ビタミンCと亜鉛があげられます。いずれも創の修復、つまり蛋白合成の時に大量に消費される栄養素だからです。

栄養スクリーニング

 栄養状態を血液検査値、特にアルブミン値でみることは大変意義があり提唱しております。アルブミン値が3.0g/dl以下では褥創の発生率が高くなり、2.5g/dl以下では褥創が治癒しないと考えられます。しかし、アルブミン値が測定できなくても栄養摂取状態は把握できます。特に、在宅ではもっと簡便に行う必要があります。
 私の属している「在宅チーム医療栄養管理研究会」が作成した栄養スクリーニング表(近日中に第一出版から発売予定)でも取り上げているのですが、栄養状態は喫食量で判断すべきでしょう。そして栄養状態の悪化は、まず水分摂取不足で始まります。高齢者において、危険状態の水分量は1日1000ml以下(食事からの水分も含む)です。また摂取カロリーが1日900Kcal以下になった時も危険状態です。このような水分1000ml/日以下、あるいは摂取カロリー900Kcal/日以下の判断は、管理栄養士であれば患者あるいは家族と30分程度会話することで、容易にしかもほぼ正確に計算できます。これは医師や看護師にはできないことなのです。

栄養危険状態での対応

 このような「危険」状態では、まず500mlの維持輸液の点滴を行います。また一日水分量と摂取カロリーを、1000mlおよび900Kcal以上へ持っていきます。
 この時、管理栄養士は患者および家族との面談で、食形態をどうするか、補助栄養やサプリメントをどうするかなどを総合的に考え、主治医や看護師とも意見を交換して栄養食事療法を実施していきます。栄養食事療法は管理栄養士の専門領域であり、当院では訪問栄養指導などで対応しています。
 以上のような早期の対応ができるシステムを作れば、かなりの数の褥創発生を防ぐことができるはずです。余談ですが、外科系病院であれば手術1週間前の喫食量が問題となります。いまだに少なからずの病院において、手術2~3日前の栄養摂取状況は惨憺たるものなのです。その責任は主治医にあるのですが、責任の一端は病院管理栄養士にもあり、恥ずかしいことと思うべきでしょう。

褥創治療の栄養療法

 褥創ができてしまった場合ですが、考え方は予防と同じです。

※本内容は、フットワーク出版株式会社(http://www.shokuseikatsu.jp)「やさしくわかる創傷・褥創ケアと栄養管理のポイント」および「食生活」2003年4月号に記載した内容を一部改編して掲載しました。