第27回 褥創の発症予測「ブレーデンスケール」とは何?

2007年7月1日

 褥創はできてしまってから治すより、未然に発症を予防できればそれに越したことはありません。そこで、褥創発症高危険群の抽出のためにいくつもの発症予測スケールが考案されてきました。その中で信頼性が高く世界中で最も広く使われているのはブレーデンスケールです。
 今回はブレーデンスケールの考え方の優れた点を紹介し、その使い方について解説いたします。

最初に

 1980年初頭のアメリカにおいて、介護施設での多発する褥創発生が社会問題化し、何とか予防しようという気運が高まりました。そこで褥創発症のメカニズムについて再検討されました。その結果、褥創発生には大きく分けて2つの要素があると考えられるようになりました。まずは「持続的な圧迫」です。でも持続的な圧迫があっても、全ての人に褥創が発生するわけではないことから、個体の要因、つまり「組織耐久性の低下」が挙げられました。

「持続的な圧迫」の起こるわけ

 私たちは同じ姿勢で長時間寝ているとしだいに不快となり、自然にからだの向きを変える動きをします。これを体位変換と呼びます。この体位変換をすることで、長時間寝ていても同じ場所に高い圧力がかかり続けることを回避しています。逆に言えば、体位変換をしない、あるいはできない時、褥創発生要因である「持続的な圧迫」が起こってしまうのです。
 そこで体位変換をしない、あるいはできない時はどのような時かというと、まず「意識が低下」していれば不快を感じることができませんし、「知覚障害」があって不快な感覚が脳に届かなければ、やはり不快と感じません。このように「知覚の認知」に障害があると体位変換に結びつきません。
 あるいは、知覚障害や意識低下がなくても「運動障害」があると、体を動かそうとしても動かせないため、有効な体位変換ができなくなります。これらは「可動性」の障害と呼ばれました。
 体位変換に関しては、もう一つ別の要因も考えられました。意欲や介護力の問題です。例えば意識はしっかりあり知覚障害や運動障害もないのに、意欲が無いため、放っておくと一日中ベッドの上から動こうとしない方がいらっしゃいます。このような方では、有効な体位変換の回数が著しく低下していることがあります。
 そうかと思えば、意識状態が低下している方や、自力で座位になれない方などでも、介助者がティルトタイプ車椅子に乗せ頻回に屋外に散歩に出かけたり、毎日入浴を行うなど活発な動きがあると、同一部位に圧迫が長時間に及ぶ機会が減ってきます。このような要因を「活動性」の有無としてとらえられました。
 以上のように「持続的な圧迫」に関係する要素として、「知覚の認知」や「可動性」「活動性」が挙げられます。

「組織耐久性の低下」の起こるわけ

 持続的な圧迫が同じようにかかっていても、不可逆的な組織障害を起こし褥創を発症する方もあり、発症しない方もいらっしゃいます。このような個体それぞれにおける褥創のなりやすさを「組織耐久性の低下」としてとらえられました。
 組織の弱さを引き起こす要因として、皮膚の脆弱さをもたらす摩擦やズレ・湿潤という要素があります。これらは「外的因子」と呼ばれています。
 それに対し、「内的因子」として、組織の修復力が挙げられます。これには、栄養状態・年齢・血圧・皮膚血流量・皮膚温などや、全身的疾患としての糖尿病・動脈硬化や、抗癌剤の治療やステロイドの投与が関与します。
 まず「外的因子」に含まれる摩擦とズレについて解説します。ベッド上でベッドの背をギャッチアップしたときや、車椅子上などに長時間いると、体は下の方へずれていくことがあります。このとき、皮膚には摩擦力が働いており、表皮剥離などの皮膚障害を引き起こし褥創の発症と悪化につながります。
 このように体表に摩擦力が働くときには、皮下組織においても横方向の力が働いています。これを「ズレ」と呼んでいます。ズレが皮下組織(皮下脂肪・筋肉組織)に働くと剪断力によって直接に組織が損傷するだけではなく、栄養血管が引き伸ばされるために、これらの組織への血流は著しく低下あるいは途絶してしまいます。このようにズレによって皮下組織の損傷は進行し、褥創発症につながります。
 ズレと褥創発症に関しては、理論だけではなく実験による証明が多くなされています。動物実験報告によると、単なる圧迫では早期に修復可能であった褥創において、横方向のズレを加えると皮下全層におよぶ重度の褥創を発症していました。
 更に皮膚が湿潤すると、表皮角質層のバリア機能は低下し、物理的および化学的に外力に対する防御機能が著しく低下し皮膚障害が起こりやすくなります。また皮膚が湿潤すると摩擦力が5倍に及び、皮膚損傷が更に起きやすくなるとともに皮下組織に起こるズレも増加します。
 以上のように「組織耐久性の低下」に関係する要素として「摩擦とズレ」「湿潤」が挙げられます。
 ところで今回は詳しい解説はしませんが(「24.栄養と褥創」を参照)、内的因子としては、最も重要と考えられる「栄養状態」が挙げられます。

褥創発生のメカニズムからブレーデンスケール作成へ

 以上のような褥創発症メカニズムを検証しながら、ブレーデンとバーグストロームはブレーデンスケールの作成作業に入っていきました。褥創発症に関するさまざまな観察項目を挙げ、実際に施設において褥創発生との因果関係が検討されました。その結果「知覚の認知」「湿潤」「活動性」「可動性」「栄養状態」「摩擦とズレ」の6項目が挙げられました。当初血清アルブミン値も褥創発生に有意差があるため指標として検討されましたが、カットオフ値を決めるにあたり、感度を満足できる値にすると特異度が低くなるという問題があることと、介護施設でのアルブミン値測定が難しいなどのために採用されなったようです。これは、ブレーデンスケールは医療施設だけではなく介護施設での使用を念頭にされており、また看護師だけではなく看護補助者でも使えることがコンセプトとしてあったこととも関係していたようです。
 項目を選び点数配分するにあたっては、多施設での検討を繰り返しながら修正されていったようです。1000人規模での検討を何回かしたとのお話をブレーデン先生の講義で聞きました。そして1986年に正式に公開されました。日本にもいち早くコンバテック社が紹介し、真田弘美先生と大岡みち子先生が1988年に日本語訳を発表されました。現在日本で使われているのはこの真田・大岡訳のものです。
 このように、ブレーデンスケールは褥創発症メカニズムの詳細な検討にもとづいて作成され、しかも検証と修正を繰り返して最終的に世に出てきたものです。したがって医療や介護の現場での受け入れはスムースであり、実情に則した予測スケールであるため、一気に全世界に広がったのです。

ブレーデンスケールは対策をとってこそ生きる

 ブレーデンスケールは大変優れた褥創発症予測スケールですが、あくまで発症を予測するに過ぎません。このスケールは発症予防対策をするためのアセスメントツールであり、褥創発症予防対策ではないことを忘れてはなりません。
 このスケールをつけると総合点は6~23点のうちどこかになり、総合点がより低ければより褥創発症高危険群であることを意味します。
 使用法としては、まずは各施設でカットオフ値を決めることから始めます。つまり年に1回程度、日を決めて利用者全員にブレーデンスケールをつけ、何点以上になると褥創の発生が無かったかを調べます。これをカットオフ値とし、それ以下の方に褥創予防対策が必要ということになります。この調査は別の意味も持っています。つまり看護力や介護力の充実しているところではカットオフ値は低くなり、看護や介護の不足している施設でのカットオフ値は高くなることから、当該施設での看護介護の質の判定にも使えます。
 また各項目で点数の低い部分へ重点的に対策をすることで、褥創予防を効果的に行うことができます。例えば「湿潤」の項目点が低い利用者にはオムツ交換頻度を多くしたり、ポリウレタンフィルムでカバーして皮膚の浸軟予防を考えたりします。更に「摩擦とズレ」も点数が低いようなら体位変換法や姿勢保持などに工夫と改善が必要です。
 「栄養状態」の項目で点数が低い場合、管理栄養士の介入を早期に行う必要性が出てくるでしょう。また「知覚の認知」の点数が低い場合は、高機能エアーマットレスの導入を行います。しかし「活動性」の点数が低いからといってむやみに高機能エアーマットレスを導入すると、更に活動性を落す場合も考えられます。
 このようにブレーデンスケールをつけることで介入を要する方をピックアップし、項目ごとに検討することで具体的な予防プラン作成を行います。
 そしてプランができたら即実行していきます。そして定期的に評価を繰り返し、プランの変更や継続をすることで褥創の発生を減少させることができるのです。
 以上、ブレーデンスケールがどのようにして作られ、また世界中で受け入れられているのかを紹介いたしました。こう考えてみるとブレーデンスケールは病院や介護施設はもちろん、在宅でも十分使える大変有用な褥創発症予測スケールであることが分ります。