第23回 褥創における wound bed preparation とは

2007年3月1日

 創が治っていくためには、治癒を障害する要因を改善することが必要です。汚染にさらされ、常に圧迫が加わる難治性の褥創(床ずれ)において、局所治療を行う際の創治癒環境の改善が必要なことは、直感的には誰もが納得するでしょう。
 しかし、具体的に何を優先し、どのように行うかについては色々と議論されてきました。そして統一的な考え方ができていますが、これをまとめて格好良く表現し、wound bed preparation として2000年頃より使われてきました。意味は先に書いたように「創面治癒環境の改善」ということになります。

wound bed preparation は具体的に何をさすか?

 「創面治癒環境の改善」とは、具体的には「感染のコントロール」「壊死組織の除去」「至適な治癒環境の維持」を指します。褥創において感染のコントロールと壊死組織の除去は表裏一体の関係にあります。すなわち感染褥創には原則的に壊死組織が存在します。そして感染褥創において問題となる壊死組織としては、硬くなった真皮壊死(痂皮)、あるいは筋膜や腱膜の壊死、骨壊死を伴う髄膜炎、などが挙げられます。これらはできるだけ除去する必要があります。また1回で完全に除去するのではなく、何回かに分けて少しずつ除去するのが一般的です。
 具体的には創内壊死部周囲や壊死組織下に感染部を閉じこめず、開放することをまず行います。そのうえで十分に創面を洗浄し、開放化した部位が乾燥しないように配慮することです。
 開放化した部位にも壊死組織は残りますが、これを湿潤した状態にしておけば自己融解が進み、次の創処置時には壊死組織が軟化しており、容易に切除できるからです。このように時に大胆に創を開放するとともに、こまめに遊離した壊死組織を取り除いていくことが、感染のコントロールの基本であり壊死組織の除去法なのです。

「感染」と「壊死組織」の治療がなぜ創治癒環境の改善に必要か?

 理由が後になりましたが、創感染があると細菌の出す毒素によって創治癒が遷延し、創治癒にとって良い環境ではありません。また壊死組織は生体にとって異物ですから、それを排除する生体の反応である炎症反応がおこります。このとき、蛋白分解酵素(MMPs)や活性酸素、炎症性サイトカインが創面に集ります。これらは細菌や壊死組織排除に好都合なのですが、肉芽増殖には妨害的に働きます。つまり創治癒は遷延します。
 炎症反応は有益な反応ですが、できるだけ炎症反応の目的を早く達成し、次の段階へ移行させなければなりません。ここに医療者が手を加えること、つまり感染と壊死組織を早く無くすための処置行為を積極的に行う必要があるのです。

「至適な湿潤環境」と「治癒環境改善」について

 創面で治癒が促進されるとき、肉芽細胞(線維芽細胞、血管内皮細胞)は、活発に分裂増殖し、コラーゲンの分泌や毛細血管新生が行われます。つまり創面での至適環境とは、細胞分裂に最も適した環境です。それは適度な湿り気と温度、適切な栄養と酸素や炭酸ガス濃度、至適なpH(酸やアルカリの程度)です。
 この中で特に重要なのが、適度な湿潤状態です。創面が乾燥にさらされると、もちろん肉芽細胞は乾燥によって壊死してしまいます。かといって過剰な湿潤も有害であることが示されています。例えば肉芽組織に過剰な水分が与えられると浮腫状となり、治癒が遅れるとされています。
 ただし保湿した創面よりも水浸した創面でより細胞増殖したという報告もあり、一概に過剰な湿潤が悪いとも言えない面もあります。実はこの辺はほとんど未解明なのです。はっきりしていることは乾燥は悪いということです。

wound bed preparation における湿潤環境とは

 「創治癒環境の改善」において具体的な湿潤環境の作り方として、まず感染創では、吸水性のドレッシング材を用いて飽和したら取り替えることです。例えばカデックス軟膏やイソジンシュガーを用いてフィルム材で密閉します。これらが感染性の滲出液で飽和すると、色が茶褐色から無色に変わるので、この時期が交換の目安になります。これが至適湿潤環境の維持を意味する方法になります。
 褥感染が治まっても滲出液のある場合は、壊死組織を加水分解により軟化遊離させて、外科的デブリードメントを繰り返します。この加水分解を有効に行うために、酵素剤であるブロメライン軟膏やエレース末を使います。このとき創面の壊死組織にこれら薬剤を接触させ、滲出液によって溶けた薬剤を創面に永く留めるためにも、フィルム材で密閉します。
 このようにして、1日1回の交換をして行けば、創面には至適な湿潤状態が続き、加水分解が進行します。この場合酵素を働かせるためには、過剰な湿潤状態の方が有利です。

褥創治療における wound bed preparation とは

 以上のように褥創における「創治癒環境の改善」には、基本的に湿潤状態を維持しながら感染コントロールを図り、そのためにも壊死組織を有効に速やかに除去し、創面を肉芽で覆われた状態に早く移行させることを考えます。