第14回 褥創におけるズレ・摩擦・浸軟とは何か

2006年6月1日

 寝たきりの方の仙骨部などにできる褥創(床ずれ)は、持続的な圧迫が骨の飛び出たところにかかってできる皮膚おおび皮下組織の障害です。この組織障害による皮膚潰瘍では、持続的な圧迫以外にも物理的な外的要因が関与して、病態をより複雑にします。
 この圧迫以外の物理的要因として「ズレ」「摩擦」「浸軟」があり、今回はこの点について解説いたします。

ズレ・摩擦・浸軟と褥創の関係

 寝たきりの方でも、食事の時には電動ベッドを挙上し(ギャッチアップ)、あるいは体位変換の時に体を傾けたりします。このときに体を斜めに支えるのですが、体の重さ(体重)は下方向に働きます。しかし、ベッドや枕などによって支えられた体の表面は摩擦力によって下に滑ることなく固定されます。
 このとき、体の内部では骨を中心に重力方向に力が働き、体の表面は重力に抵抗して残るため、骨と皮膚の間の組織は上下に引っ張られる力が働きます。つまりずれが生じます。このズレによって、皮下組織は皮膚に対し横方向に引っ張られるため、血流減少が起こります。また時に組織の断裂が生じます。このようにズレによって皮下に組織障害が発生します。ズレによる組織障害の起こる部位は、実は持続的圧迫の加わりやすい部位とほとんど一致します。つまり、寝ては持続的圧迫、起したり体位変換をしてはズレ、というダブルパンチで褥創の発症と悪化につながってしまうのです。
 さらにズレが生じる時には、皮膚には摩擦力が働いています。この摩擦力によって表皮剥離、あるいは皮膚の断裂が起こり、これも褥創発症と悪化の原因になるのです。
 この摩擦力ですが、仙骨部やその他褥創高危険部位に特徴的な問題点がより事態を深刻にします。これらの部位は体の下になる所であるため、便や尿で汚染されやすかったり汗が溜まりやすかったりするため、ほとんどの場合、皮膚には浸軟(ふやけ)が起きています。皮膚が浸軟すると、摩擦力は5倍になるといわれています。皮膚の浸軟によってズレや摩擦がより強くはたらき、組織障害の程度が増悪することから、浸軟も褥創発症および悪化の原因と考えられています。

ズレ・摩擦の発見

 ズレや摩擦が過度に働いていることに気付くのは、実は褥創が発症した後がほとんどです。まず表皮剥離はズレと摩擦が原因であり、この時点で気付くことになります。また、褥創発症後にドレッシングを行うのですが、ガーゼを用いようが、創傷被覆材を用いようが、しばらくしてドレッシング部を見たとき、これらのドレッシング材がまくれて創部が露出していることがあります。これは褥創部にズレと摩擦が働いていることを物語っています。また深い潰瘍を伴う褥創では、皮膚の下掘れであるポケットを生じることがあります。特に一方向により深いポケットを認めたら、これはズレと摩擦が働いていることを物語っています。
 このように、表皮剥離、ドレッシング材のまくれ、ポケットを認めた場合は、ズレと摩擦の対策を行わないかぎり、いかなるドレッシング法を選択しても褥創はさらに悪化し、治癒を期待することはできません。

ズレ・摩擦のアセスメントと対策

 ズレや摩擦がいつ起こっているかを探すことが大切です。例えばベッドのギャッチアップ方法の間違い、体位変換方法の間違い、車椅子など座位時の姿勢のとり方の間違い、ベッドから車椅子などへの移動方法の間違い、あるいはデイサービスなどでの移動時の不注意など、一例一例個別に間違いがあるのですが、要は現場で探すしか方法はありません。
 これは言うは易く、探すのは難しいのです。思わぬところでズレや摩擦が起こっており、これに気づくのにかなりの時間がかかり、しかし気付いた後はうそのように速やかに褥創が治癒していきます。
 ベッドのギャチアップは、臀部仙骨部が下にズレていかないように、ひざ下の部分を挙上したうえで背中部分も30度以上にしないことが基本的な考え方です。これ以上起す場合は、むしろ端座位にしたり、車椅子に移ってもらったり、あるいはひじ掛け付きの座りやすいイスに座ってもらった方が良いでしょう。
 ところが最近、30度の挙上であっても問題が起こりうることが指摘されてきました。つまり、電動ベッドなどで挙上した場合、挙上時には皮膚が上方向に引っ張られ、水平に戻す時には皮膚は下方向に引っ張られることが解りました。対策としては、挙上後あるいは水平に戻した後に、体を揺すって皮膚に起こったひずみを取り除く(背抜きする)必要性が強調されています。
 この考え方は体位変換でも同様です。背抜きに相当する方法をとらない体位変換では、一生懸命やっても却って褥創発症の原因となる場合もありえます。
 車椅子などでの座位の問題としては、背中の曲がった円背があったり、イスのサイズが合っていない場合、きちんと座ることができず坐骨部で座るのではなく、いわゆる仙骨座りといったイスから少し滑り落ちたような格好になってしまいます。これでは摩擦とズレが起こってしまいます。体の横に枕を入れたり、足底部に枕を入れて足がつくようにしたり、あるいはチルトタイプの車椅子(リクライニング車椅子は不適当)を使ってズレの起こらない姿勢を作るようにします。これはかなり難しいことがあり、理学療法士などの意見を取り入れることが勧められます。
 体力のある方で、自力でベッドから車椅子への移動をしている方での注意点ですが、上半身の力を過剰に使い、仙骨尾骨部あるいは坐骨部にズレによる褥創を頻回に発症する場合があります。実際に移動をやってもらう中で発見するしかありません。対策についても、本人の意思を入れながら理学療法士など専門的な考え方とミックスして解決法を探していきます。
 最近気になるのが、デイサービスやデイケアへの送迎時の体圧分散とズレ対策です。ほとんど気にせず車椅子で移動している場合がほとんどで、このような例の中には車椅子に仙骨座りとなっている例があります。これに車の揺れが加わって、施設と在宅の移動のたびに褥創が悪化する例も見られます。
 施設への移動は利用者個々の状況に合わせ、チルト車椅子を使う必要もあるでしょうし、移動の方法に合わせた適切な体圧分散用具の使用も考慮する必要があるでしょう。

さいごに

 褥創の発症と悪化に関与するズレ・摩擦・浸軟について解説しましたが、あまり考慮されていないことが最も問題です。しかし、重要だと考えても、その対策は容易ではなく、多職種の、しかも介護や医療に携わる全職種・全職員の意識が、ズレ・摩擦・浸軟についての理解が必要です。ズレや摩擦についての考慮が足りなかったほんの30分や1時間の不注意で深い褥創ができ、とんでもない人手と費用と時間を要する結果となってしまうのです。