第13回 酵素による化学的デブリードメント

2006年5月1日

壊死組織は異物である

 創傷急性期には組織壊死が進行し、壊死組織(痂皮)として創面に残ります。以前は創面を乾燥させて、痂皮を早く作ることは治療の目的と考えられていましたが、現在は痂皮は壊死組織であり、異物と考えられるようになり、創治癒に有害と考えられています。
 したがって、外科的に切除できる壊死組織は、できるだけ早く除去されるようになりました。しかし、無理な外科的切除は疼痛や出血を伴います。その場合は酵素剤を用いた化学的デブリードメントの併用が勧められます。

化学的デブリードメント用酵素剤

 化学的デブリードメントに使う酵素剤とは、フィブリンや損傷組織・滲出液等の蛋白質由来物質が固化してできた壊死組織を、加水分解する酵素を含んだ創傷用外用剤を指します。
 現在日本で承認されている酵素剤は、エレース末とブロメライン軟膏です。エレース末はフィブリノリジン・デオキシリボヌクレアーゼという繊維素溶解酵素薬で、ガラス瓶(バイアル)に入った粉末剤です。ブロメライン軟膏は、パイナップルから抽出した蛋白分解酵素ブロメラインを、水溶性軟膏基剤であるマクロゴールに混ぜたものです。
 いずれも外用剤ですから処方箋で出すことができます。

乾燥痂皮に用いる酵素剤

 ブロメライン軟膏は水溶性軟膏であるため、乾燥した痂皮には使えません。ブロメライン軟膏が痂皮の水分を吸収し痂皮を浸軟できず、したがって加水分解が行えないためです。
 乾燥痂皮にはエレース末を使用します。エレース末を生理的食塩水で溶解し、それを痂皮のみを被う大きさの小さなガーゼ(一般的に1/8~1/2枚程度)に吸収させます。それを痂皮部分に広げ、全体をフィルム材でカバーし密閉します。これによって濡れたガーゼで痂皮を浸軟させるとともに、高濃度の蛋白分解酵素を長時間痂皮に接触させることで、加水分解を加速させます。交換は1日1回とし、1処置に1バイアルを使い切ります。
 痂皮の加水分解によって、壊死組織が軟らかくなり遊離してくれば、これを適宜ハサミで除去していきます。通常2~4週間で乾燥痂皮を全て除去でき、創面は肉芽組織で被われます。

湿った壊死組織のデブリードメント

 乾燥痂皮でなく、黄色ないし白色の湿った壊死組織の場合もエレース末を上記と同様に使用できますが、ブロメライン軟膏も使えます。
 ブロメライン軟膏は、滲出液のある壊死組織部に用いますが、周囲皮膚にはみ出さないように注意します。そのあと全体をフィルム材で密閉します。フィルム材で密閉するのは、軟膏成分をできるだけ高濃度に創面に接触させるためと、創面の乾燥化を予防する目的です。交換は1日1回とし、遊離してきた壊死組織は適宜ハサミで除去していきます。滲出液が少ない場合はブロメライン軟膏の量を減らすか、エレース末へ変更します。
 壊死組織が軟らかくなり遊離してきたら、適宜ハサミで切除していきます。

その他の酵素剤情報

 欧米にはよりすぐれた酵素剤製品が使われています。例えばパパイアの酵素を用いたものもみられます。国内で販売終了したバリダーゼ局所用も使いやすい酵素剤でした。
 余談ですが、ヨーロッパを中心にMaggots therapy(ウジ虫療法)が広まっています。これは2~3mmのハエの幼虫であるウジ虫を創面に用いて壊死組織をデブリードメントする方法です。
 グロテスクな話ですが、ウジ虫は壊死組織を食べるのではなく、ウジ虫の出す酵素によって壊死組織が加水分解し、その液状成分をウジ虫が栄養として吸収するのです。3~4日で2cmまで成長します。かなり効果的とされており、日本では一大学で実験的に使用されています。これなどもウジ虫の出す酵素を抽出し化学的に合成して薬品として用いれば素晴らしい酵素剤になると考えます。

さいごに

 創面の壊死組織を酵素剤によって化学的にデブリードメントするうえで、創面に感染のないことが前提です。感染徴候があれば、化学的デブリードメントのような保存的療法ではなく、外科的な緊急切除が必要です。
 酵素製剤は主に褥創治療に用いられていますが、その他の難治創であっても感染のない全ての創傷において壊死組織除去に有用です。この薬剤もうまく使うことで複雑な創傷の治療効果を高め、QOL改善にもつながると思います。