健診における腹囲の意味

2021年10月1日

 肥満は高血圧・糖尿病・高脂血症と互いに深い関係にあり、それぞれ動脈硬化の危険因子と考えられてきました。一方、脂肪細胞は単なるエネルギーの貯蔵場所ではなく最大の内分泌臓器であることが判明し、メタボリックシンドロームの本質が見えてきました。
 内臓脂肪細胞は主に腹部の腸・腸間膜周囲(心臓周囲などでは異所性脂肪)にありますが、皮下脂肪とは全く異なる特異的な働きをしています。大型脂肪細胞からは動脈硬化、糖尿病、血栓形成など促進する身体に不利な生理活性物質(TNF-α、MCP-1、PAI-1、レジスチンなど)を分泌し、小型化すると逆にアデイポネクチンという動脈硬化・糖尿病・炎症を抑制する作用がある物質を分泌することが解りました。つまり、小型内臓脂肪細胞が肥大化して大型脂肪細胞になる、すなわち内臓脂肪が多くなることは身体には良くないのです。それとは別に脂肪細胞は体重調節に関与すると思われるレプチンも分泌しています。レプチンは食欲抑制や代謝促進作用があり痩せるホルモンとも言われます。脂肪が蓄積するとレプチンが出て減らそうとし、うまく身体の脂肪量を調節しているようです(肥満ではレプチンが少ないのかというと、逆にレプチン抵抗性のため多いとも言われています)。
 このように内臓脂肪と皮下脂肪は異なる立場にあります。危険因子と捉えるべきは内臓脂肪であり皮下脂肪ではない、従って、体重と身長の割合で判定する肥満指数(BMI)ではなくて、内臓脂肪を強調する意味で腹囲が使われます。
 日本人ではCTスキャンで測定した内臓脂肪面積100cm2を超えると危険性が高いということから、それに相当する腹囲ということで男性85cm、女性90cmと基準値が定められました。どういうわけか、男性が女性より小さく、私の知る限りでは他国では男性の方が大きいようです。内臓脂肪面積で判定する方が正確でしょうが、健診はCTがないような身近な会場で実施する必要があり、そのため腹囲が使われています。メタボリックシンドロームの根本的な原因(内臓脂肪量)を反映する重要な指標として腹囲が健診に用いられています。