第72回 「認知症褥瘡を多職種チームで改善」

2014年5月22日

症例検討会

「褥瘡の悪化から治癒へと向かった認知症高齢者との関わり」

<症例呈示>

70歳代女性 多発仙骨部褥創、栄養障害、尿路感染症、認知症
日常生活自立度C2、認知症周辺症状があり、暴言、暴力、失見当識がみられた。
全介助で経口摂取。OHスケール10点、デイサービスは週1回利用。
このような方が2~3度の褥瘡を発症し、入院してきた。
当初アズノール軟膏と穴開きラップにて処置をしたが、悪化にて、デブリードメントを施行。尿路感染症による発熱が見られ、同時に経口摂取量が減り低栄養となり体重も減少した。イソジンシュガーの使用などを選択したが、皮下ポケットは広がっていった。栄養補助食品の追加も行ったが、さらに褥瘡は悪化していった。
カンファレンスにて、ポケットの形が次々と変化することから、除圧が不十分であり、またズレが原因と考えた。
体位変換を90度にし、またクッションなどを使ってポジショニングを工夫した。アドバンをビッグセルに変更した。食事は全量摂取するようになり、また局所療法は閉鎖吸引療法を選択した。
これらの変更が奏効し、褥瘡は治癒した。家族も在宅でのケアへの自信が芽生え、在宅へ戻る方針となった。

ディスカッション

以上の報告対し、ディスカッションが行われた。
ポジショニングを検討したとのことであったが、どのような変更がよかったと考えるのかとの質問がありました。
当初、食後もギャッジアップした姿勢で左右へ体位変換していたが、カンファレンスにて、「不快感から、かなり動くためズレが起こっている」と考え、むしろ水平にして90度側臥位にしようということになった。また、ポジショニング保持も、クッションを多用して安定できるようにした。あまり動かなくなり、仙骨部には完全に圧やずれがかからない状態を保てたとのことでした。
30度や45度側臥位は、あまり安楽ではなく、むしろ90度側臥位が安楽であったのかとの質問がありました。それに対し、確かに90度は安楽であったのか、あまりもぞもぞと動かなくなったとのことでした。膝に拘縮があり、完全な側臥位の方が安定したとのことでした。しかし、大転子部に発赤が出て来たので、ドレッシング材を貼って保護したとのことでした。

栄養については、どのように変えていったのかとの質問がありました。
エンジョイムースやVクレスを加え、全体で1600Kcal位にしたが、全量摂取された。全量摂取するようになって、褥瘡は治り始めた感じだとのことでした。管理栄養士の関与がなかったので、もっと頼めば良かったとの反省の言葉がありましたが、チームでカンファレンスするにあたりNSTが関わったとのことでした。NSTには管理栄養士がいるのではないかとの質問に、確かにその意味では管理栄養士の関与はあったとのことでした。NSTからは、蛋白と亜鉛の強化を提示したとのことでした。
会場にいた管理栄養士からも、摂取カロリーや蛋白質量はこの位が良いのではとの意見でした。

リハビリについて質問がありました。
尿路感染症が治まり食事が食べられるようになった時に、リハビリ担当者から、車イスに座れるので、院内を車イスで散歩するなど、気分転換をしてはどうかとの意見が出たとのことでした。そこで車イス散歩や、その他気分転換を図るようになってから、認知症周辺症状が軽減したとのことでした。

局所療法についても質問があり、陰圧閉鎖療法についてどのように行ったのかとのことでした。
陰圧閉鎖療法は、VACの製品を使ったのではなく、自家製の壁吸引を使った方法とのことでした。
ハイドロサイトを用いて、当初10Frのチューブを用いたが、吸引が弱く14Frにしたとのことでした。閉鎖吸引にて、肉芽の盛り上がりが良好であったとのことです。
ポケットの形が変わることでズレが起こっていると考え、陰圧でポケットを固定するとよいと考えたとのことです。陰圧にすることで肉芽が盛り上がり、ポケットも癒合してしだいに小さくなったようです。
吸引のコツとしては、吸引チューブの先端を肉芽を引き寄せようとする中央に置くことが大切とのことでした。また、壁吸引を使う際は、ベッド下に吸引瓶を置き、吸引瓶と壁吸引の間のチューブには排液が行かないようにすることがポイントとのことでした。

そこでもう1例、閉鎖吸引療法で効果がみられている症例が提示されました。
黒色壊死を伴い、切開手術をするもすでに発熱が見られ、創部にはポケットがあり、膿が流出したとのことでした。イソジンシュガー軟膏を使うも、改善しないため、閉鎖吸引を行ったそうです。すると創面には肉芽が盛り上がり、創も浅くなってきているとのことでした。壊死組織が取れ、肉芽の盛り上がりが極めて早いので、驚いているとのことでした。まだ治療途上のため、本当に有用かは未定だが紹介したとのことでした。

吸引圧について質問があり、30~40KPs位だと思うとのことでした。

閉鎖吸引をすると患者は体位変換できないのかとの質問に、体位変換は問題ないとの返事でした。また、チューブによって皮膚が圧迫されるので、皮膚との間にガーゼの一種の軟らかいものを敷いているとのことでした。

以上、栄養とポジショニングを多職種のチームで行うことが大切で、さらに閉鎖吸引療法を用いたのも良かったと思うとのことでした。