第70回 「在宅から施設に入っての疑問」

2014年1月16日

症例検討会

「下腿褥創発症理由・殺菌剤軟膏の使い分け・終末期の浮腫について疑問」

<症例呈示>

在宅ではびっくりすることがあるが、それと比べると介護施設では手厚い介護が行われる。それでも疑問な点が3つある。

  1. IVHや血液透析をされている方の下腿に褥創があった。下腿のふくらはぎを浮かせているのに、浮いている下腿に褥創を発症するのはどうしてか。二人いたが、一人は、口から食べるようになりすぐに治った。しかし、口から食べない方は治っていない。
  2. 褥創の処置にゲーベンクリームを使う時と、ユーパスタを使う時があるが、滲出液の量で決めるのか? どのように使い分ければよいのか。特に黒色の痂皮がある時は、余りゲーベンクリームを付けなくて良いと言われたが、本当に余り多く付けなくて良いのか。
  3. IVHをしていて血液透析もしている方で、末期状態であり、ナチュラルコースといわれている方では、点滴の部位などから滲出液が出てビチョビチョになる。この方法でよいのか。

以上のような疑問が投げかけられました。
それに対し、会場から、自分の所ではほとんどの方にエアーマットレスを使っているが、踵や腓骨部に褥創が発生する。これは、膝から踵にかけて枕を入れて浮かせようとする結果、エアーマットによる体圧分散を下腿部にできず、逆に圧が高くなる。また下腿部の褥創がなぜできるかを検討したが、圧迫とずれ、特にずれが原因と分かった。
ベッドのギャッジアップ時など、圧抜きをしないためにずれが生じる。
対策として、女性用の膝下ストッキングをはいてもらい、滑りを良くすることで改善する。女性用ストッキングは、生地は薄くスベスベしており、予防的に使用している。本来なら圧抜きをキッチリやればよいのだが、不十分となり使用している。
下腿の褥創は、圧迫とずれが原因。その際、下肢のポジショニングが重要だが、褥創部を浮かせようとして枕を入れるが、その結果枕に全く接触せずに浮いた部位ができる。体は接触せず浮き上がった部位があると、大変不快に感じる。その結果、体を動かして浮かせたい部位に圧迫とずれが生じる。あるいはさらに不快感から体をこわばらせる。誤ったポジショニングによって却って圧の高い部位ができる。
適切なポジショニングが必要であるが、なかなかポジショニングは難しい。その点から、確かに女性用ストッキングなどをはかせて抵抗を減らせば、圧迫は軽減できなくてもずれは解除できるので有用であろうとの意見がありました。

ゲーベンクリームとユーパスタについては、以下のような解説がされました。ゲーベンクリームは滲出液が多くない創面に対して使う。ユーパスタは滲出液を吸収するので、滲出液の多い創面に使う。ゲーベンクリームはウエットな状態を作るので、壊死組織があり、それを軟らかくして正常肉芽部分から遊離させて取り除こうとする目的で使えばよい。
ともに、殺菌剤軟膏であり、感染を疑う時に使う。壊死組織が無くなり感染の危険が無くなったら使用を止める。

針の刺入部から水が出てくるような方では、四肢がむくんでおり、ほとんどが低栄養である。そのような方では死を目前としており、回復できない。血液検査をするとアルブミン値が1台となっており、輸液をしたらした分だけむくみがひどくなる。
IVH等をしても、栄養として利用されず、胸水が溜まり、心不全となり、本人も苦しむ。ナチュラルコースを取ろうと考えるなら、いわゆる「ギアチェンジ」をする。輸液を完全に減少した方が患者は楽になる。1日に500ml程度の輸液を極めてゆっくり入れる程度にする。尿も出なくなるが関係ない。
葬儀屋が言うには、病院患者は重く、在宅の患者は普通に軽いという。病院では輸液を入れすぎて水が溜まって重くなる。死期が迫ったら、輸液や栄養を絞ることが苦痛ない死を迎えられる。

「輸液に対して、そのようなことを言いたいが、まだ職場になれていない時に最初からいろいろ意見を言わない方が良いのか」「医師に対しそのようなことは言えない」との意見がありました。
それに対し、ナースも意見は言って良い。色々な意見を出すのがチーム医療とのアドバイスがありました。また、看取りなどでも、医師は時々接するだけである。いつも近くにいてよく見ているのはナースであり、輸液のギアチェンジの時期などは、ナースこそが分かる。ナースから「そろそろ輸液を絞りましょう」等の意見を出した方が医師は助かるとの意見もありました。

以上のように、活発なディスカッションがなされました。

相談タイム

(創面の石鹸洗浄)
(ASO下肢潰瘍壊死へのゲーベンクリーム有用性)

症例1(下肢がミイラ化して疼痛を訴える褥創の管理法)

60歳代の方で、在宅でみている方で、ちょっとの不注意から左下肢が紫色となり、その後下腿部から先が黒色ミイラ化していった。ものすごく痛がるが、処置はカデックスを使用している。黒色壊死部分はしだいに拡大している。IVH管理となっている。意識はあり応答できる。下肢切断を勧めたが、家族は了解せず、また外科医もできないという。どのようにすればよいのか。

これに対し、なぜこうなったかである。糖尿病があるとのことで閉塞性動脈硬化症があると考える。血流の有無をまず見てみる。鼡径部の大腿動脈の拍動を触れないようなら、この潰瘍は治らない。外科医が手術できないと言っているようなので、動脈は触れないのだろう。であれば、切断すればその部位は治らず、さらに壊死が進行していくだけである。
現在滲出液を吸収する目的でカデックスが使われているが、逆であり、乾燥化によって激痛が起こる。壊死との境で滲出液のある部位は湿潤状態を作るようにする。
先端部の黒色に死んだ部分はもう生き返らないので無視する。境界部にゲーベンクリームを塗布し、穴開きゴミ袋で覆い湿潤を保ち、全体を尿取りパッドなどで覆う。
また、血流改善薬、例えばプレタールなどを内服する。
降圧剤がよく使われるが、上肢で血圧が180くらい有っても、このような例では下肢では半分くらいの90くらいしかない。血圧は余り下げない方が良く、降圧薬はむしろ止めた方が良い。
脱水を避けることが重要で、必要なら輸液をして脱水を予防する。
栄養状態改善も必要であり、疼痛に対し有効な鎮痛剤を使用する。
以上の、壊死の境目をゲーベンクリームで湿潤にする・血流改善薬使用・降圧剤を止める・脱水を改善・栄養改善・疼痛対策をすることが指導されました。
その他に、ゲーベンクリームに穴開きゴミ袋はちょっと抵抗があり、ゲーベンクリーム塗布の上から穴を開けたフィルム材を貼る。ゲーベンクリームは多めに使うことがコツとの意見もありました。
また、境界部に感染が疑われる場合は、ゲーベンクリームでは非力であり、この場合は、ユーパスタ軟膏を塗布し、食品用ラップで覆うと良い。一般的にラップで覆うと皮膚は著しく浸軟する。特にゲーベンクリームとの相性は良くない。しかし、ユーパスタとの相性は良く、皮膚はほとんど浸軟せず、創面は湿潤状態を維持するとの意見がありました。

以上のディスカッションに対し、さっそく検討してみるとのことでした。

症例2(屈曲拘縮の強い方の臀部・膝・下腿・手指の褥創処置法)

右下肢に強度の屈曲拘縮があり、左も屈曲している肩に褥創を発症した。プロスタンディン軟膏を使用しているが全く改善しないとの相談でした。ズボンをはくと膝の創がこすれるので、ズボンもはかずゴム入りバスタオルを使用しているとのことでした。また、なぜ圧迫のかからない膝に褥創ができるのかとの疑問もありました。

それ対し、膝の屈曲で皮膚が突っ張ってできた。そこに摩擦も加わっているかもしれない。膝などに壊死組織がみられるが、膝は安易にデブリードメントすると関節腔に行くので外科的デブリードメントは勧められないとの意見がありました。
壊死組織のある部分には、ゲーベンクリームが勧められ、壊死組織のない手指にはプロスタンディン軟膏継続でよいのではとの意見でした。その他に、壊死組織が無くなればフィブラストスプレーの併用もした方が良いとのアドバイスがありました。
多発した潰瘍に対し、血管炎の可能性について質問がありましたが、関節に潰瘍が見られることから、血管炎など膠原病関連は否定的との意見がありました。

強い拘縮に対するポジショニングについて質問がありました。
拘縮の強い方のポジショニングはなかなか難しいが、まず上半身からポジショニングを決めるとやりやすい。背中から首、頭にかけて全体を包み込むようにポジショニングをし、上肢も同様に支えるようにする。次に下肢が伸びるような方向に枕を入れるが、広い範囲で重さを受けるように整えていくことが勧められました。
日本在宅褥瘡創傷ケア推進協会から出ているビデオなどを見ながら、勉強してみるとのことでした。

本日の症例提示、及び質問コーナーでは、現在悩んでいる症例についてのディスカッションが行われ、すぐに使える対策のアイデアが会場からドンドン出て来て、発表者や質問者は満足されていました。この結果をまた知らせていただきたいと思いました。