1.ALS患者に発症した褥創
症例は70歳代女性で、6年前にALSを発症し、次第にコミュニケーションができなくなった症例です。
障害高齢者の日常生活自立度はC2であり、自力では寝返りも打てない状態でした。コミュニケーションが取れるかの判定ができず、認知症高齢者の日常生活自立度は不明です。
要介護度は5でした。
介護者は、80歳代の夫であり、次女も介護に当たりますが、日中は仕事に出るため夫のみになります。医療介護のため、訪問看護が午前と午後に入り、その他にヘルパーも入っています。
人工呼吸器が導入され、チューブ交換のため、神経内科の医師が月2回往診しています。
年1回、介護者のレスパイトのため、2週間のショートステイをしています。
褥創ができ始めたのは昨年で、仙骨部に発赤がみられ、ポリウレタンフィルムで改善しました。しかし、すぐに表皮剥離と発赤にて再発し、プロスタンディン軟膏にて治癒しました。その後、すぐに表皮剥離から再発し、ポリウレタンフィルムを用いましたが悪化し、デュオアクティブETを使用しましたが、黒色の壊死になりました。神経内科の先生に在宅で外科的デブリードメントをしてもらい、ゲーベンクリーム処置になりました。
その後、フィブラストスプレーなども使用しましたが、滲出液が汚くなったため、ゲーベンクリームへ変更されました。
褥創は、2.5×3.0cmで、0.8mmのポケットも伴っていました。創周囲は白色で盛り上がっています。フィブラストスプレーも使用されています。
訪問看護が毎日入るようになるも、ポケットなどの改善は進まず、体位変換時のズレが原因と考えられました。
介護に関与するヘルパーも交えた担当者会議が開かれました。そこで介護法が統一されました。
栄養としては、ラコールが1日800mlで、白湯が300ml、チューブ内を洗うためのお湯が、1回250mlで1日量として750ml注入されています。
Alb(アルブミン値)は3.8と悪くないのですが、亜鉛不足と考え、プロマックが投与されました。
体圧分散寝具は、グランデが使用されていましたが、静止モードだったため、圧切替えモードに変更したとのことでした。
これらの介入によって、1ヶ月後には褥創は改善し、3ヶ月後には治癒しました。
現在はスキンバリアーによるケアを行い、再発無く過ごしているとのことでした。
この例では、最も有益だったのが、訪問看護が毎日入るようになったことではないかとのことでした。
このような報告に対し、この方の褥創は仙骨部というより尾骨部であることから、体位変換時のズレよりも、胃瘻が入っていることから、注入時のギャッチアップ角度が強すぎるなどが原因ではなかったのかとの質問がありました。
そうかもしれないが、創処置はもとより、入浴介護も一切訪問看護が一手におこなうようにしたとのことでした。 ヘルパーには、体位変換のやり方、ベッドの背上げの高さ、足上げの方法、オムツのあて方の指導、バスタオルの使用禁止、等々をかなり細かく指導したとのことでした。
この点についてさらに具体的な指導内容について質問があり、体位変換については、体を傾ける前に、横に移動して自分で体を支えられるような方法にしたとのことでした。
ベッドのギャッチアップ角度については、まず30度以上にならないようにし、挙上角度については、ベッドに印をつけて角度を決めていたとのことでした。
オムツについては、尿取りパッドなどをたくさんあてていたが、この方にはバルーンが入っており、また便も便秘気味で適宜摘便で排便しているため、おむつは多くあてる必要がなかったとのことです。オムツがズレたことが圧迫の原因になっていた可能性も考え、大きめのオムツ1枚のみに変更したとのことでした。
当初は、経口でお茶やお粥も食べていたため、ギャッチアップ角度が強かったが、経口が無理となってからは、むしろギャッチアップ角度は低くてすむようになったとのことでした。
訪問看護が悩んだのは、「誰に壊死組織を除去してもらえばよいか」だったとのことでした。神経内科の主治医か、誰か他の医師か。結局神経内科の主治医に何度も写真を見せ、ついに初めて外科的デブリードメントを在宅でやってもらったとのことでした。
看護師が「ここを切って」とか、いろいろアドバイスをして実行してもらったようです。しかし、ポケット切開もしたため、出血がみられて、ずいぶん時間をかけて少しずつ止血しながら切開をしたとのことでした。
レスパイトについて受けてくれるところがあるのかとの質問に、受け入れ病院がないとのことでした。特殊疾患があると受け入れるところが無く、1地域に1病院無いような状況です。この方は近くの病院で受け入れてもらっているようです。それでも、バッテリーをつけて、吸痰をしながら、看護師が付き添っての移動と入院だそうです。
人工呼吸器をつけたALS患者の介護はかなり大変だが、大丈夫かとの質問がありました。それに対し、「家でみてあげたい」という思いがあり、当初は遠くにいる長女が仕事を辞めて1年間介護したが、仕事に復帰した後は、夫と同居の次女によって介護されているとのことでした。
日中は夫が、夜間は次女がつきっきりで介護している。また最近、契約を取り交わすことで、ヘルパーも指導を受ければ吸痰ができるようになり、かなり助かっているとのことでした。
何とこの間は胃炎になったことは一度もなく、抗生剤も服用したことがないとのことでした。
以前ボタンが押せたときは「痰取って」のボタンを押されていたので、そのタイミングで吸痰していたようです。今は、呼吸音を聞いて夫が吸痰するとのことでした。
口腔ケアは家族がしており、オーラルケアなども使っているとのことでした。
素晴らしい家族の力です。
<自由討論の時間>
- 気管切開部皮膚障害
10歳代前半の男児が肺炎で気管切開を置かれた。生食による吸入を4時間おきに6回されている。気管切開カニューレにはYガーゼが使われているが、同部に発赤ができてしまったとのことでした。インスピロンによる吸入に換えてからは更にひどくなったようです。抗真菌薬によって発赤は軽くなりましたが、改善悪化を繰り返しているようです。
濡れたYガーゼを何か別のものに変えた方が良いかとの質問でした。
これに対し、Yガーゼは不要ではないかとの意見が出ました。幾つかの施設では、気管切開にはガーゼを挿入せず、チューブには何もつけずにいるとのことでした。ガーゼをあてると細菌の培地になってしまうとの意見でした。
PEGでも、ガーゼをあてるとその部に一致して発赤ができる。このような時はガーゼをやめ、撥水性のある軟膏を塗布するのみにしているとのことでした。この例でも、ガーゼを止めて撥水性軟膏のみにしてはとの意見でした。
また、デュオアクティブなどの貼附も勧められました。しかし、会場からは「これほど高湿度の状態に暴露されると、デュオアクティブは溶けてドロドロになりケアがしにくくなるのであまりお勧めではないかも」との意見もありました。
人工鼻をつけてはとの意見もありました。これに対しては、人工鼻は24~48時間で交換が勧められており、かなり高価で、病院の持ち出しになるので好まれないとの意見も出ました。人工鼻の使用に関しては、保険適応の条件について、調べることになりました(後出)。
また、粘稠な痰が出る場合は、人工鼻が詰まって危険である点も注意が促されました。
管理料などについては、吸痰カテーテル、経腸栄養注入時の投与セットなどについても、調べることになりました(後出)。 - 腸瘻からの漏れについて
胃癌で胃切し、胆管癌にて胆道造設された方に、経腸栄養チューブが挿入され、そこから栄養が投与されているとのことでした。1日2回ラコールを2時間半で入れているとのことでした。その際入れた半分くらいがチューブわきから漏れてくるとのことでした。
腸瘻からの排液には消化液が含まれており、皮膚に着くとビラン潰瘍になるため、ストーマ用皮膚保護材を貼附する必要が示されました。あるいは、特殊になるが、パウチングをしてパウチの中へチューブを通すような方法もあるとのことでした。
しかし、別の方から、腸瘻は24時間の持続注入が基本で、成分栄養剤を投与することが原則との意見がありました。
退院時の申し送りの通りにしているとのことでしたが、問題のある例と分かりました。
経腸栄養剤をポンプで注入する場合の、保険の縛り等も調べることになりました(後出)。
成分栄養による栄養では、脂肪が足りなくなるのではないか、また浸透圧が高く下痢をしやすいのではないかとの質問も出されました。
さいごに
今回は、ALSという特殊な疾患による褥創ケアについて皆で考えてみました。 また、気管切開部や腸瘻部のケアについても知識を新たにしましたが、いずれにも複雑な保険制度が関与し、在宅でのケアがなかなか行いにくい状況もみられました。
何よりも制度がよく分からず、調べないと前に進めないこともあります。このようなことを機会に制度の勉強も意義があることと思います。
宿題
- 「人工鼻」については、保険請求可能
気管切開を行っている入院中以外の患者に対して在宅療養を指導する場合には
「在宅療養指導管理料」170点
「C112 在宅気管切開患者指導管理料」 900点
「C169 気管切開患者用人工鼻加算」 1,500点
人工鼻を含む在宅療養に必要となる物品(気管カニューレ、チューブなど)及び衛生材料(脱脂綿、ガーゼ、絆創膏など)はこれらの指導管理料に含まれ、必要な分だけ無償にて支給または貸与しなければならない。実費徴収等は認められていない。
人工鼻の価格は製品によって異なる
1個 500~1,200円位の納入価である。つまり、納入価格によるが月10~30個以上使うと確実に医療機関が赤字になってしまう。実際は1日1個必要と思われる。 - 吸痰に関して
「J018喀痰吸引(1日につき) 48点」があるが、在宅酸素療法指導管理料、在宅人口呼吸指導管理料、在宅寝たきり患者処置指導管理料、在宅気管切開患者指導管理料を算定している患者に対して行った喀痰吸引の費用(手技料、器材料とも)は管理料に含まれ算定できない。吸引器については明確な記載が無く、医療機関からのレンタルや購入、自治体でサービス(購入、レンタル、補助)が一般的である。
※吸引カテーテル 1本あたり40~70円程度
1日1本使ったとしても、医療機関は大赤字になる。使い捨ては医療機関の経営を考えると無理ではないか。
※吸引器 購入の場合4万~5万円程度(呼吸器系の疾患で障害手帳を持っている場合は自治体によって補助がある場合がある)
レンタルの場合 5千円/月
(初回のみ1万円~1万3千円程度の吸引瓶購入の必要あり) - 経腸栄養に関して
在宅療養指導料 170点
C105 在宅成分栄養経管栄養法指導管理料 2,500点
C161 注入ポンプ加算 1,250点
C162 在宅成分栄養経管栄養法用栄養管セット加算2,000点(月1回算定)
対象となる薬剤が限られており(エレンタール、エレンタールP、エンテルード、ツインラインなど)薬剤料は算定可能だが、その他の器材は全て管理用や加算に含まれる。点数を超えた分は医療機関の持ち出しとなる。
※イルリガートル 550~900円程度
(経腸栄養ボトル)
※経腸栄養(チューブ)セット 150~170円程度
※経腸栄養バッグセット(ボトル・チューブセット) 500円程度
※注入ポンプ使用の場合は特殊チューブの必要あり 800~850円程度
※注入ポンプレンタルの一例 初回の1月18,000円 その後2,500円/週
注入ポンプ加算分はレンタル料で消え、ポンプ用特殊チューブ代は赤字になる。 - 成分栄養剤投与時の脂肪について
成分栄養剤には脂質は著しく不足しており、経静脈的に脂肪乳剤の投与が必要である。