第40回 「ラップ療法関連症例」

2009年1月22日

1.皮膚トラブル5症例

1例目は60歳代の女性で、左膝の熱傷です。くも膜下出血後の左不全麻痺があり、高血圧がみられました。当初左腸骨部に褥創がありましたが、数日で治癒。筋力低下がひどく寝たきりになったとのことです。要介護度は当初4でしたが、半年後には5になりました。
左膝に拘縮がありますが、湯たんぽで左膝に水疱熱傷を発症。水疱はすぐに破れ、主治医の指示でラップ交換を毎日行うことになりました。ヘルパーが毎日交換し、訪問看護師は週2回交換しました。
キズは当初次第に悪化し、感染して黒色の痂皮を伴うようになり、壊死組織を除去後、肉芽が出てきました。
肉芽は広がる傾向にありましたが、ポケットを伴うようになり皮膚科往診をしてもらうこととなり、デュオアクティブに変更となったあとは、2ヶ月半くらいで表皮化治癒しました。
全経過5ヶ月を要したことが反省点とのことでした。

2例目3例目は、PEG挿入部の発赤です。なかなか発赤が消退しない例でした。

4例目は、CAPD(腹膜透析)のチューブ挿入部に発赤が出現し、ゲーベンクリームを塗布するも不良肉芽と滲出液が減らない例でした。

5例目は、足趾間のびらんで、当初抗真菌薬を使うも改善せず、皮膚科受診にてリンデロンVG軟膏に変更したらすぐに治癒した例でした。

以上の症例提示に対し、ディスカッションしました。
まず、1例目の熱傷に関してですが、ラップをしていて乾燥して黒くなる場合は、油性軟膏のワセリンを併用すると良いとの意見がありました。しかし、ラップをしていて乾燥壊死は考えにくく、ラップがずれていて乾燥したのではないかとの意見が出て、そうかもしれないとのことでした。
湯たんぽによる熱傷であれば、低温熱傷の可能性があり、その場合は深部までの組織損傷があって、当初気付かれず時間経過とともに見た目が深くなる可能性が指摘されました。
さらに会場からは、昔から熱傷で水疱は破らないように治療するが、破れた場合は感染対策が大切で、ソフラチュールやトレックスメッシュを使い、消毒をしっかり行い滅菌ガーゼを頻回に交換することが大切との意見もありました。

水疱が破れた場合は、完全に密閉して外部からの汚染をブロックするのか、開放して感染予防対策をしながら頻回にドレッシング交換するのかを決めて、中間的なことはしない方が良いとの意見も出ました。

水疱が破れていない場合はどのような処置が良いのかとの質問があり、水疱が透明であれば表皮と真皮間の剥離であり、組織損傷が軽度であり水疱を破らずに2週間ほどすれば水疱内容が無くなり表皮化が完成するとの意見がありました。その場合はフィルム材を貼付して剥がれなければ無理に交換しないでみていくと良いとの意見がありました。

黒色壊死組織除去法について質問があり、基本的に浸軟させて切除がよいとの意見が大勢でした。その際ゲーベンクリームなどを塗布して浸軟させることが勧められました。

また、創部の改善が無く悪化していく場合は、局所以外の要因のチェックとともに、良い結果を生まない局所療法をずっと続けるのではなく、違う方法を選択することが必要との意見がありました。特にこの例では、局所療法を変えた後はかなり速く改善がみられていました。

2例目3例目のPEG周囲皮膚の発赤については、テッシュペーパーのコヨリなどを使う場合は、頻回に変えることが大切との意見がありました。濡れたコヨリを付けっぱなしにしたのではないか、それで発赤が消えないのだろうとのことでした。

胃内に栄養剤が貯留しているのではないかとの意見があり、胃内容を吸引し胃内容があるようであれば、注入速度を遅くするなり、半固形化するなりが良いとの意見が出ました。

また肉芽に対しては、湿潤ではなく、逆にカデックスなどで乾燥させて脱落させる方法も提案されました。

注入時の姿勢について、通常50~60度、昼食はさらに80度くらいで注入しているとのことでした。これに対し、腹圧が高くなりそれで漏れの原因になっている可能性があり、30度くらいにしてみてはとの意見もありました。

4例目のCAPDの例に関しては、切開して感染源がないか調べることも勧められました。
また、顕性の感染が無く、不良肉芽と滲出液程度であれば、このまま様子をみても良いのではとの意見もありました。

2.ラップ療法の取り組み

介護保険の包括施設であるため、創処置用具の費用を低く抑える必要があり、創の湿潤環境を保つことから、ラップ療法を取り入れた経験が報告されました。取り入れ決定後9例に施行され、治療中に2例が亡くなり、3例が治癒し4例が治療中で改善傾向にあるとのことでした。この中から3例が紹介されました。
ラップは、台所の穴あきポリ袋を、吸水ポリマーではなくパルプ100%の紙おむつにかぶせて貼り付けて使用したとのことでした。
患者家族等に文書でラップ療法の承諾を得て行っているとのことでした。

1例目は、80歳代女性で、HbA1c 8.5の糖尿病があり、ベッド上での自力体位変換は不能でした。
左踵部に4×3cmの褥創がありました。イソジンシュガーで改善してきたのでラップ療法にされました。途中イソジンシュガーやゲンタシン軟膏との併用をしながら治療したところ2ヶ月で壊死が無くなり、3ヶ月で治癒しました。

2例目は70歳代男性で、脳梗塞のため寝たきりで気管切開がおかれています。経腸栄養では下痢をするため中心静脈栄養になったとのことです。仙骨部に5.5×3.4cmのポケットを伴う褥創でした。
イソジンシュガーやゲーベンクリームによる治療を行い、ポケットの切開もなされました。
Alb1.7、Hb8.1と著明な低栄養でした。肉芽の盛り上がりが無く、ラップ療法が開始されました。途中は胃炎もみられましたが、褥創は治癒しました。

3例目は、70歳代女性です。糖尿病と脳梗塞があり、左下腿が切断されました。
仙骨部に褥創があり、悪化・改善を繰り返していました。アズノール軟膏との併用でラップ療法が開始されました。やがてラップと接触する皮膚にびらんが出現。イソジンシュガーなどで改善もみられました。
しかし、工夫をしてもラップを開始すると皮膚が赤くなったようです。
この方はやがて亡くなられたそうです。

これらの症例に対し、まず皮膚が赤くなるのは皮膚の感染症であり、イソジンシュガーやゲーベンクリームなどの抗菌剤入りの軟膏を併用すると効果があるとの意見が出ました。

また、ポケットができるようであれば、そこにはズレがみられ、ズレ対策が必要との発言がありました。
また、ラップであろうがフィルムであろうが、湿潤環境を作ることと、ドレッシングの厚みを減らし圧迫を減らす工夫が必要とのことでした。

褥創対策チームでの活動について質問があり、管理栄養士や言語聴覚士などが加わっておらず、チームとしてはやや偏っているとの意見がありましたが、「食と栄養管理委員会を立ち上げ、褥創対策チームに対して意見を言ってもらうシステムを開始したとのことでした。

「現在ラップ療法の普及はどの程度か」との質問があり、会場にラップを第一選択、あるいはラップを積極的に使っている方に挙手を願ったところ、「多くの選択の一つとして、よく考えてから使っている」という方がほとんどで、大変健全な選択となっている印象でした。

以上のように、今回はラップ療法に関する症例が多くみられました。ラップに関しては、褥瘡学会では今後しっかり検討していくことを理事長が宣言されました。 一つのドレッシング法として、どのようなケースに、またどのような使い方をすると有効なのか、また逆に、どのような例では別の方法が勧められるのかをはっきりさせる必要性を感じました。