1.褥創の3例
1例目:100歳前後の女性。要介護度4。アルツハイマー型認知症、高血圧、多発腰椎圧迫骨折、変形性膝関節症。
右大腿骨顆上骨折がおこり保存療法となりました。シーネ固定が行われ、さらにニーブレス固定が行われました。この固定によって右踵骨とアキレス腱部に褥創が発症しました。
血清Alb値は3.6~3.3程度で推移しました。褥創にはゲンタシン軟膏やアクアセルが使用され、少しずつ治癒に向かいました。現在は車椅子に乗っており、会話も自分からされ、気分も良くなっているとのことでした。
2例目:70歳代男性。パーキンソン病、脳梗塞、高血圧。要介護度5。
自宅で転倒し、胸椎の圧迫骨折がおこりました。入院後嚥下障害がひどくなり病院で胃瘻を造設され戻ってきました。この時に褥創を発症しました。介護型に入院となったそうです。
喀痰吸引が頻回で、身長161cm 体重35Kgでした。経腸栄養剤サンエットを1日1000Kcal投与されていました。Alb値は3.0~2.9程度で推移。ブレーデンスケールは13点。
褥創は尾骨部にあり、2つに別れていました。アクアセルが使われていましたが、治癒傾向はありません。
経過中、呼吸停止があり気管挿管の上、病院へ入院となりました。ICU管理となったようですが、一命をとりとめ、近日中に再入院になるとのことでした。褥創の状態は分からないとのことですが、まだみられるようだとのことでした。
3例目:70歳代男性。糖尿病。
右踵骨褥創治療とリハビリ目的での入院とのことでした。踵部に水疱があり滲出液も多くみられたようです。水疱が切開されクロマイPや、ゲンタシン軟膏によって治療されてほぼ治癒したとのことです。栄養は減塩・全粥・軟菜 1343Kcalを摂取し、Alb値は2.9、HbA1c は、8.7でした。
会場からのディスカッションは、主に2例目に関して行われました。
なぜ仙骨部に2つ別の褥創ができたのかが分からないとの質問がありました。これに対し、左向きになることが多いとの返事があり、おそらく、仰臥位と左側臥位の二つの姿勢保持が典型的に行われ、その結果、正中部と左の部位に発生したのかとの結論になりました。
この例のように、近接して二つの別々の褥創ができる成因を検討するのも面白いと考えられました。
この症例では、仙骨部というより尾骨部にできており、ギャッチアップ時の問題があるのではとの質問がありました。それに対し、ギャッチアップは15~30度にしているとの事でした。
ギャッチアップ角度は、15度くらいにとどめることが推奨されました。誤嚥などは角度をあげても、腹部が圧迫され却って腹腔内圧が高くなり逆流が起こりやすくなるとの意見でした。また誤嚥予防には、ギャッチアップ角度をあげるのではなく、首を前屈することで食物や唾液が気管に入りにくくする方が重要であるとの意見も出ました。
二つの褥創周囲皮膚が黒くまた浸軟して痛んでおり、ひょっとして二つは皮下でくっついているのではとの意見がありましたが、二つは完全に別々で、実はアクアセルの小さなものを潰瘍部に用い、その上からシルキーポアテープを貼っているとのことでした。
テープでは粘着物が残りアレルギー反応および皮膚感染を誘発する。また皮膚は浸軟し、次第に痛んでいくためすすめられないとの意見が出ました。お勧めは、フィルム材の貼付が提案されました。また別に、ゲーベンクリームなどの塗布後、直接おむつをあてるなどをして、1~2週間で皮膚障害を治した後で、フィルム材などの粘着ドレッシング材へ変更してはという意見もありました。また、痛んだ皮膚にはハイドロサイトが良かったとの意見もありました。
直ちにテープの使用はやめるよう検討したいとのことでした。
栄養士から2例目についてコメントがありました。この方は身長からみて低体重であり、標準体重からの計算ではもちろん、現在の体重から計算しても1200~1300Kcal必要との意見でした。
付加栄養としてアイスクリームなどを与えると、その後むせて喀痰が増えマイナスであったとのことでした。また栄養に関しては、胃瘻を作った病院からの指示にて投与していたとのことでした。
3例目に関し、踵の褥創は、寝たきりの人のベッドギャッチアップ時などで足のずれを解除しなかったり、あるいは車椅子でずり落ちて圧迫が加わるなどが原因として多いが、どうかとの質問がありました。
この方は、歩ける方で、車椅子も必要がない方とのことでした。かなりお酒を飲む方とのことでした。それで泥酔してできたのではとの意見がありましたが、その可能性が有るとの発表者からの返答でした。
今回は3例の提示でしたが、淡々と褥創の治療が行なわれ、いろいろと意見はあるでしょうが、普通に栄養評価が行なわれ、体圧分散および局所療法の記録が行なわれていることは、素晴らしいことだと感じました。
2.感染した褥創の治療
60歳代の女性ですが、もともと高血圧と糖尿病がありました。脊髄小脳変性症を発症。
その後寝たきりになっていき、低血糖発作緊急入院されました。在宅では無理との家族の意見で転院されて来られました。
認知症があり全介助でコンタクトは取れません。
身長140cm、体重38.4cmでした。日常生活自立度はC2で寝返りも自分でできません。病的骨突出があり、関節拘縮もあり、膝や肘が屈曲しています。おむつ使用で下痢か軟便。膀胱カテーテルが留置されています。
来院時、仙骨部に4X3cmの悪臭のある汚い黒色壊死で被われた褥創がみられました。発赤、熱感があり、膿の流出があり感染褥創と診断されました。CRP22.1、HbA1c7.1、Alb 2.2。
直ちに皮膚切開しポケットが開放されました。ヨードコート軟膏を使用しフィルム材で密閉して治療されました。創からはMRSA、緑膿菌が検出されました。
治療によってもポケットが拡大し、また悪臭が消えないため、その後2回切開術が付加されました。その後、創処置としてはフィブラストスプレーが用いられ、穴あきフィルム材で密閉したところ、肉芽組織で被われるようになりました。この時CRP 1.6でした。
しかし滲出液が多く治癒も遷延したため、Critical colonizationと考え、ゲーベンクリーム、さらにユーパスタへと変更されましたが、今も治癒傾向にありません。
現在Alb値は1.5程度で、インスリンは20単位。HbA1cは7%程度です。投与カロリーは1000Kcalです。主治医にカロリーを増やすことを提案していますが、糖尿病コントロールの悪化を恐れ躊躇しているとのことでした。
感染褥創では、初期にポケットを含め切開開放を原則にしているとのことでした。肝酵素は低値で、コリンエステラーゼも低く、肝機能低下で糖尿病の場合、分枝鎖アミノ酸製剤の投与などが良いのか迷っているとのことでした。
栄養投与についての質問があり、当初は経口摂取のみで、血糖値が400~500mg/dlと高く、いくらインスリンを増やしても追いつかなかったとのことでした。この時には1000~1200Kcal入ってインスリン30単位投与していたとのことでした。
肉芽はぶよぶよしており、組織が弱く、ずれそうな組織だとのことでした。さらに食事時のギャッチアップでずれが起こっていると考えられるとのことでした。
治療当初ポケット拡大に関して、初めの写真では発赤部位がかなり広範囲になっており、切開部の端が一番汚い壊死組織がみられていました。つまりこの汚い壊死組織は発赤部の下に広がっていることが予想されます。したがって、ポケットの範囲がはっきりしてきて、後の再切開の繰り返しはやむを得ないことで、ケアが悪いのではないだろうとの意見がありました。そして、このような感染した褥創では、汚いところが開放されており、ポケット内部が洗浄可能であれば、必ずしも初回に大きく切開は必ずしも必要ないだろうとの意見もありました。
栄養不足は確かにあるとはいえ、あまりにもAlb値の上りが悪いのは、やはり肝機能低下が原因ではとの意見がありました。
それに対し、これは明らかにエネルギーと蛋白質の不足があり、そうなれば肝酵素も上れず、創治癒も遅延する。ここはしっかりエネルギーと蛋白質を投与し、充分なインスリンも合わせて入れることがまずするべきことだとの意見がありました。
それに対し、糖尿病の悪化の危険もあるので、カロリーをある程度抑え、蛋白質をしっかり投与することが良いのではとの意見がありました。
その時、800キロカロリーで蛋白質がその中に50gも入った「アキュアEN800(旭化成ファーマ)」という濃厚流動食があるとの意見が出されました。カロリー/N比は75とかなり低くなるが、腎機能が良ければこれもいいのではとの意見になりました。栄養に関しては、微量元素やビタミンも入れることを忘れないようにとの話も出ました。調べたところ、この濃厚流動食にはビタミンや微量元素も含まれているようです。
この例では、局所療法が速やかに適切に選択され実行されているようですが、糖尿病のコントロール不良と創治癒遷延をどのように整合させていくのかが要求されました。糖尿病では過剰な栄養は却ってマイナス、ところが創治癒にとっては充分な栄養が必要というジレンマの中で、具体的にどう行動すれば良いのか。いろんなファクターが入り組んだ時にチームアプローチがいきてくるのでしょう。この研究会での討議では、いろいろな意見が出ました。これもチームアプローチのひとつではないでしょうか。現在進行形の症例において、当研究会での討議そのものがチームとして機能できれば素晴らしいと思うしだいです。