1.高齢者長期臥床がいかに良くないか
<大腿骨頚部骨折後の臥床により肺炎を繰り返した例>
90歳台女性。パーキンソン症候群、多発脳梗塞後、発作性頻拍、肺炎であった。特養入所中であったが、右大腿骨頚部骨折に対し肺炎があるため保存的治療となり床上安静になっていました。アルブミン値は2.8程度と栄養不良状態が考えられましたが、治癒に至りました。
問題点は、肺炎を繰り返し一般状態が悪く食事を十分にとれないことから、点滴や輸血を繰り返さざるを得なかったことがあげられました。家人は何とか食べさせようと好きな食事を持ち込むなどの援助がありました。改善のポイントは、骨折部の骨癒合が進み車椅子への移乗ができるようになり、リハビリが進み、食事量も多くなり自力摂取可能となったことが挙げられました。エアーマットレスが導入されましたが、動けるようになったためはずされました。
この症例に対し、食事について質問がありましたが、1時間かけて食べさせていたが不十分で、末梢点滴を長期間せざるを得なかったことが話されました。
食事ができるようになり、また肺炎を繰り返さなくなった点について口腔ケアの有無の質問があり、車椅子移乗になってからホールへ出て口腔ケアを始めてから食べられるようになったとのことでした。
この例では、高齢者が骨折した場合、手術療法がとられず長期臥床となったときの食欲の低下や口腔ケア不足から容易に肺炎を繰り返し、褥創を発症し、また治癒遷延につながることが示されました。
<長期臥床による意欲低下から大腿骨頚部骨折・褥創発症となった例>
60歳台男性。身体障害2級、頚椎・腰椎後縦靭帯骨化症、胃亜全摘後、糖尿病、高脂血症。
胸部痛の出現にて入院となり、虚血性心疾患は否定されるも胸痛を訴えるため床上安静となった方です。もともとあまりスムースに歩けなかった方でしたが、両手両足が動かなくなり拘縮が進み、尿閉もおこってバルーン管理となりました。この状態で転院されてきたとのことです。
四肢の状態は右膝がわずかに動く程度とのことで、意欲が無く全介助の状態だったようです。原因不明の右大腿骨頚部骨折が起こり手術を行ったとのことです。
術後褥創が発症しました。ギャッチアップで食事をとり、食事は自立して食べていたとのことでした。リハビリを進めることで家へ帰る目標が出てきて意欲も回復してきたようです。褥創はサイズが小さくなり浅くなってきましたが、周囲に肥厚と浅いポケットがみられる状態です。Alb値は3.5~3.9位で推移しており、栄養状態も悪くないと考えられました。局所療法は、ゲンタシン軟膏、クロマイP軟膏などをメインとし、アクアセルを併用にしてから治癒が進んだとのことでした。
会場から局所療法についての質問があり、ゲンタシン軟膏など抗菌剤軟膏を長期間使用は良くないのではとのことでした。これに対し、ゲンタシン軟膏などの抗菌剤軟膏を褥創に長期間使うと、耐性菌、特にMRSAが出現することから止めるべきとの意見が出ました。その場合は、白色ワセリン単独使用などに切り替えれば問題ないとのことでした。
アクアセルは滲出液が少なくなると創面を乾燥させるのではとの質問が出ましたが、アクアセルは繊維そのものが吸水して水分を保持することから、滲出液が多くても比較的少なくても創面の湿潤状態を維持しやすいことが説明されました。さらにこの例ではワセリン基剤の軟膏を併用しているため、かなり滲出液が少なくても創面は乾燥しないだろうとの意見でした。
しかし、アクアセルなどの創傷被覆材は3週間しか保険が効かないので、それ以後は病院の持ち出しになるので注意が必要との意見が出ましたが、使うのは少量なのであまり問題になっていないとの返事でした。
創周囲皮膚の肥厚とポケットへの対応についてディスカッションがありました。いずれも圧迫やずれなどがかかっている可能性があり、局所療法の選択が良いか悪いかの前に、圧迫やずれ、摩擦がなぜ起こっているかを検討し対策を立てることが最も重要との意見が出ました。いろいろ状況を検討し、すぐ左ばかり向くのが原因かもしれないことが挙げられました。また、食事の時ギャッチアップして食べるのを止めてはとの意見が出ました。ギャッチアップを十分に行うと腹部が圧迫され食べにくくなるし、30度程度では食べにくいため、45度程度になるだろうが、これでは腹部の圧迫が軽度あるだけではなく、仙骨部にずれと摩擦が強くかかり、強い圧迫もかかってしまうことから褥創の発症と悪化の原因になることが指摘されました。
対策として、ひじ掛けのある椅子に座って食事をしてもらうことが提案されました。食事だけではなく、なるべくベッド上ではなく、椅子に座っている時間を長くすることが重要との意見が出ました。これに対し、食堂から椅子を持ってきてそこで食事をしてもらうことを考えてみるとのことでした。
以上の2例とも、大腿骨頚部骨折が関係していましたが、高齢者がベッド上から動かないことがいかに廃用症候群を進めるかが示されました。また、家庭へ帰ることを目標にすることが意欲回復につながることもわかりました。
2.四肢拘縮が原因で生じた褥創
<下肢の強度の拘縮例>
80歳台男性。多発性脳梗塞、摂食嚥下障害、認知症の進行、ADL低下、四肢麻痺、四肢拘縮、左踵部褥創の患者さん。
BMI 16と痩せており、Alb値は1.9とのことでした。左股関節・左膝は強度に屈曲し左踵部は大腿に接触していました。
エアーマットレスはトライセルを導入しゲーベンクリームで処置が行われました。デブリードメントを進めることで肉芽の比率が増えていましたが、ポケット形成と感染がおこり、踵部からアキレス腱部・下腿部へと広がっていきました。そのつど切開を繰り返していき、創部は次第に膝関節部へと近づいてきました。
なぜこのような広がりをきたすのかを検討し、膝を伸ばすために下肢の屈曲部に入れていたクッションが圧迫となり、褥創が広がっていったと結論されました。クッションはできるだけ薄いもののみとし、右側臥位にすると下肢の屈曲が少し緩むことからこの体位を中心にしていったとのことでした。局所療法はイソジンシュガーを使用したとのことでした。
このような対策で褥創の悪化進行は停止し、肉芽が盛り上がってきたとのことでしたが、患者さんは亡くなられました。
下肢の屈曲拘縮に関して、大腿部に枕を挟むと下肢が外転外旋して屈曲拘縮が緩むとの説明がありましたが、この例では左のみが強い屈曲であるがそれは利用できないのではとの質問に対し、この例では無理で、右側臥位で拘縮が緩んだとのことでした。
拘縮が緩む体位を探すことが重要と考えられました。
<関節の強度な拘縮例>
2例目の方は、右上肢の屈曲拘縮が強く、右肘が強く屈曲しているために右前腕部が胸部に強くぶつかっており前腕部に褥創が発生していました。肘を体幹から離すことを意図して肘と胸部の間にクッションが挟まれていました。このことが前腕部を胸部へ強く圧迫する結果となり、褥創を進行させていることに気づいたとのことでした。いろいろ腕を動かしてみたところ、上腕を前方へ挙上すると前腕が胸部から離れることに気づき、この体位を基本としたとのことでした。
このような上肢の拘縮に対する対応は、上腕を前方へ挙上することでかなりの例で改善が期待できると考えられました。
ディスカッションとして、最近PEGが盛んとなり生命予後が延びたが拘縮の症例が増えてきている。QOLを考えながら拘縮を防ぐことが必要との意見がありました。そして拘縮がひどくなると思わぬところに褥創ができてくるので、早期に離床を進めることが大切とのことでした。胃瘻を作ったら椅子に座らせなくてよいとは考えず、PEGは経口摂取へのプロセスとしての役割との考え方の方が良いのではとの意見がありました。
以上のように、拘縮ができてしまった場合の対策は大変であり、必ずしも良い結果が出るとは限らないようです。強い拘縮のある例では、いろいろと身体を動かして無理のない姿勢を探すことが大切なようでした。
しかし何よりも、寝かせきりにしないことが重要であることが示されました。
今回の症例報告を振り返ってみると、高齢者では早期離床がいかに重要であるかが強調されました。