「日帰り痔手術におけるカラーエコーの有用性」

2008年10月18日

高岡駅南クリニック院長 塚田邦夫
第63回日本大腸肛門病学会総会(東京2008.10.17-18)の発表要旨(一部改変)

はじめに

痔瘻は肛門管内の肛門陰窩から細菌が侵入して感染し膿瘍を形成して発症します。やがてこの膿瘍は多彩な方向へ炎症が広がるものの生体反応によって制限され管となって皮膚へ開口します。
 治療としては、初期の膿瘍期(肛門周囲膿瘍期)には、適切な部位に切開を加えドレナージし、感染が治まった時点で痔瘻の根治手術を行ないます。当院では、1997年の開院当初より、痔瘻も含め1日入院による根治手術を行なってきました。
 2006年に、超音波診断装置の更新にあたり、カラーエコー(日立EUB-5500、直腸肛門用プローブ)の導入を決めました。肛門プローブを使用したカラーエコーは、肛門手術に先立つ術前の状態把握には大変有用でしたが、特に痔瘻手術においては、最も有用性の高いものでした。
 そこで、2006年3月の導入以降に行った痔瘻手術について、その有用性の検討を行いました。

症例と治療結果

2年間に1日入院によって痔瘻の根治術を29例に行いました。このうち11例には膿瘍切開手術と痔瘻根治手術を、18例では直接痔瘻根治手術を行いました。平均年齢は37.1歳で、28例が男性でした。IIL型痔瘻が14例、IIIH型痔瘻が2例、III型痔瘻が13例でした。
 治療成績は、27例が治癒しました。2例に再発がみられましたがうち1例は治癒し、1例はクローン病でしたが内科治療によって再発瘻管は閉鎖しました。

カラーエコーの有用性

  1. 1年間悩んだ臀部膿皮症
    1年間肛門から臀部にかけて広い範囲の膿皮症で悩んでいた男性は、肛門エコー検査によって6時方向にある深部痔瘻が原因と判明し、1日入院による根治手術によって治癒しました。この例では、カラーエコー検査によって筋肉内を走る瘻管の走行を詳細に把握できたころから、肛門機能を壊すことなく治療することができました。
  2. 痔瘻ではなく化膿した粉瘤と判明した症例
    肛門縁に化膿した腫瘤を認め、膿を排出していました。典型的な痔瘻の像ですが、カラーエコー検査にて肛門との関係を完全に否定し、外来で粉瘤の手術のみを局所麻酔で簡単に行いました。
  3. ひどく腫れ上がった肛門周囲膿瘍を適切に切開排膿
    肛門周囲が赤く腫れ上がり、痛みが強いため肛門内へ指も入りません。細いプローブによるカラーエコー検査によって、膿瘍の広がりを詳細に把握し、また太い血管の走行もわかることから、最も血管が少なく、かつ膿の排出に有効な部位を選択し切開を行うことができました。
  4. 複雑に走行する長い瘻管を持つ痔瘻の手術
    6時部位に始まり、肛門の周りを回り、陰嚢の近くへ開口した複雑痔瘻がありました。触診では、肛門内に痔瘻が2カ所で開口しているように考えられましたが、カラーエコー検査では、肛門内には6時部位のみで開口していると確定診断し、適切に手術を行いえました。

まとめ

直腸肛門カラーエコー検査によって、肛門周囲膿瘍や痔瘻の位置を立体的に正確に把握することが可能になりました。さらに肛門括約筋や流入する血管との位置関係も詳細に把握可能になり、より出血や痛みの少ない手術ができるようになりました。
 このようにカラーエコー検査は痔瘻の手術術式選択に必須となりました。さらに前立腺肥大の程度もわかることから、手術後にみられる排尿障害の可能性を予測し、軽い症状が出たらすぐに前立腺肥大症治療薬を使うことで手術後の苦痛を減らすこともできました。
 以上、1日入院による日帰り痔瘻手術においては、術前のカラーエコー検査は必須のものと考えます。