ほとんどの家庭が洋式便器となり、温水洗浄便座も半数以上で使われています。温水洗浄便座の普及で、排便後トイレットペーパーで肛門をこする必要が無くなり、かなりの肛門疾患が減りました。このように素晴らしい温水洗浄便座ですが、新たな問題が発生しています。
肛門は括約筋(肛門を閉める筋肉)によって、緩やかに閉鎖して便漏れを防いでいます。また排便時に肛門は自然にゆるんでスルリと便が出てきます。外から水などの異物が肛門に当たると、反射的に肛門は閉まり、異物の侵入を防ぎます。つまり「閉まるべき時に閉まり、開くべき時に開く」のです。
温水洗浄便座を使い慣れた人の一部で、排便時に肛門内に水を入れ、浣腸のように使って排便している人がいます。排便後も水を入れ、粘膜まで洗っている人がいます。いずれも「外から異物が来たら肛門を閉める」に反しており、これを続けると肛門の機能は壊れ、逆の動きを始めます。具体的には、排便時に肛門が硬く閉まって便が出にくくなり、また排便後に肛門が緩んで下着が汚れやすくなります。こうなると、排便時により肛門を刺激し、排便後も肛門内洗浄をより執拗に行うという悪循環に陥ります。せっかくの温水洗浄便座ですが、このような使い方が原因で、切れ痔や慢性便秘・便失禁で受診される人が増えています。
温水洗浄便座の水圧を弱くし、排便後は肛門周囲のみ洗浄するようにします。また、肛門括約筋のトレーニング(バイオフィードバック、骨盤底筋体操)を行って、機能不全になった肛門の働きを元に戻し、快適な排便を取り戻りましょう。